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9-46 騒動の終結

「あのイノシシの後ろ足ギリギリまで近づいてください! 至近距離で爆発させます!」

「それはいいですけど! でもわたくし達も巻き込まれたりしません!?」

「なので、爆発と同時に離れてください」

「コータ! そういう勢いだけで戦おうとするの、良くないと思うな!」

「お前は黙ってろ!」


 マルカは俺の指示通り、ペガサスをイノシシのすぐ後方まで近づけていく。ユーリを追いかけるのに忙しいイノシシは、それに全く気付いていない。


 俺だって、自分が起こした爆発に巻き込まれるのは御免だ。だからマルカに指示を出し、適切な距離を見定める。イノシシだって全力疾走してるのに、それにぴったりつけているマルカはさすがだ。

 その状態を長く続けさせるのも悪いし、さっさと終わらせよう。

 リゼが俺の体を掴んで、イノシシの方へぐいっと近づける。そして俺は、両手を着弾点に向ける。イノシシの足が通過する点を予測して、そこに狙いを定める。そして、全力の爆発を起こすべく気合を入れて。


「エクスプロージョン!」


 詠唱したと同時に、イノシシの足が爆ぜた。また、マルカはペガサスを操ってすぐさまその場から離脱。爆炎には飲み込まれなかったものの、凄まじい爆風が俺達を襲う。


「ハタハタ! 大丈夫です! あなたならできますよ!」

「ペガサスさんがんばってー! 落ちたりとかしないでお願いしますー!!」


 マルカはペガサスの姿勢を制御しようと必死に呼びかけてるし、リゼもちょっとズレてるけど同じだった。

 振り落とされそうになりつつ、なんとか安定を取り戻したペガサス。ようやく落ち着いて周囲の様子を見ることができた。


 さっきの爆発で、イノシシの足は砕けたりはしないまでも、重篤なダメージを負ったようだった。走行不可能になり、しかし走っていた勢いのまま前につんのめったらしい。

 巨体を引きずりながら地面に倒れ込んだそれに、周りの兵士や冒険者達が一斉に襲いかかった。見れば、小さいイノシシはあらかた駆除されていた。


 周囲から一斉に攻撃を受けたイノシシはひとたまりもない。暴れて抵抗しようにも、足が動かない。その場で身じろぎしつつなんとか逃げ出そうとしたようだけど、無意味だったようだ。

 やがて動かなくなり、目から生気が失われた。



 こいつがまともに暴れれば、街の被害は甚大な物になっただろう。それを最小限に抑えれたのだから、良しとするか。

 城が動いたという事象が住民達に与えた衝撃は、まあ仕方ない。これはシュリーが悪い。それに彼女だって最善を尽くした結果だったのだろうし。




「はっはっは。イノシシによる死者はでなかったんだろう? 市民の財産に関する被害も少ないそうじゃないか。だったらいい。うん、多少城の中が荒れても、大したことじゃないな! はっはっ!」

「笑い事ではありません!」


 戦いが終わったということで、シュリーは名残惜しそうながらも城を定位置に戻させた。外観に変化があるようには見えない。けれど中に入れば、攻め込まれたのかとでも言うような惨状だった。


 そりゃな。城自体が動いて暴れればこうなるよな。シュリーの言う通り、市民に被害が出なかったのは良かったけれど。


 とはいえ、事後承諾ながらも許可を取った上での行動らしい。たぶん城主から怒られるだろうけど、その上で罪に問われるとかは無いらしい。滅茶苦茶怒られるだろうけど。

 なんにせよ、市民や多くの兵士の命を守ったのは間違いないわけだし。


「というわけでマルカ! 城を片付けろって言われるだろうから手伝ってくれ! ついでに面白そうな物を見つけたら、こっそり貰ってしまおう!」

「おやめなさい! 今度こそ逮捕されて投獄されますわよ! 貴重な物があればその価値を伝え、大切に扱うようお願いする。それが、あなたがするべき罪滅ぼしです」

「硬いなー。マルカは本当にお硬いなー。そんなこと言っても、良いものがあれば持って帰って調べたいって思ってるんだろ?」

「怒りますわよ?」

「わかったわかった! 冗談だって!」


 この人なら本気でやりかねないとは思うけど、一応はシュリーも反省してるんだと思う。真面目にやってくれると思いたい。


「というわけで若者諸君。君達もちょっと手伝ってくれ。食事代くらいは出す!」

「あー。ギルドを通してください…………」


 カイが、少し疲れたという様子でシュリーにそう返事をした。そうだよな。俺達はギルドを通してしか動けないもんな。よし、体よく断ろう…………。


 と思ってたのに、城主命令で強制的に城の片付けをさせられることになった。

 断れば、城門を破壊したことの責任をとってもらうとか言われたから、仕方なしにやることに。まったく。あれは俺達のせいじゃないぞ。イノシシを暴れさせた奴が悪い。


 そうだ。そういえばモレヌドってどうなったんだろう。




 イノシシが暴れまわった日から一夜明け、ようやく事件に関する調査が都市の首脳陣主導で行われる事になった。俺達も当事者だから、入念なる事情聴取を受けたぞ。


 可能な限り正直に答えることにした。リゼの素性なんかは語る気なんかないけど。あと、カイが斬り殺した三人も、向こうが攻撃してきたという事にしておいた。

 クレハとジストについては、ゴーレム作りを一緒にやる友達とだけ言っておく。ふたりの恋路について話すとややこしいし。

 どの道クレハの婚約者であるモレヌドは、もう結婚どころではないだろうから、クレハにしがらみは無いはず。好きな奴と結婚していいと思うんだけど、この世界のお金持ちの仕組みの事だから黙っておこう。


 噂で流れている通り、モレヌドが他所の企業が持つ鉱山への妨害行為をしていたというのは確実。彼の指示で山に行かされた男が、そう証言したから。

 イノシシを誘い込むために人肉を使ったというのも大きな問題だし、結果として街に大量のイノシシを連れ込んでしまったのも問題だ。


 ゲバルの家に対する責任問題の追求は免れない。しかしゲバルは、モレヌドが個人的にやったことだと主張してるそうな。

 自分の代で自家をさらに発展させることを画策した愚かな若い男が突っ走った結果だと。このような愚かな男を排出した責任はあるが、家の他の誰かが罪に問われる謂れはない、と。



 本当にそうなのかは、モレヌド本人に聞かなければわからないだろう。けれど、確かめるのは既に不可能になった。


 モレヌドの死体が、山で発見された。取り調べの最中に、俺達はそう聞かされた。

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