9-45 イノシシとの決戦
シュリーが指示を出しクレハが動かしている城は、薙ぎ払うような動きから、両腕を地面に叩きつけるように動作を変えた。
その方が一撃の威力は上だ。あとは、俺達がそこにイノシシを誘導してやればいいだけ。
ユーリが、一体の巨大イノシシに向かい合っている。お互い唸り声を上げて動きを牽制している様子。フィアナはといえば弓で、側面からユーリに襲いかかろうとする小さいイノシシを射抜いていた。
その巨大イノシシが動き出し、ユーリに飛びかかろうとする。すかさず俺がイノシシの鼻先に爆発魔法を浴びせて動きを止めた。その段になってようやく城の方の予備動作が完了したらしい。イノシシの頭上から塔が横向きに降ってきて、その巨体を押しつぶす。
巨体イノシシはあと三体。こいつを倒せば、あとは小さい奴だけだからなんとかなる。そう思って次のイノシシに狙いを定めようとしたのだけど。
「コータ! こっちに来る!」
「ああもう!」
リゼの叫びで、そっちに意識を向ける。小さいイノシシが二匹並んでリゼの方に突っ込んでくる。すかさず火球を投げてこれを焼き殺す。しかしすぐさま、次が来る。
前言撤回。小さい奴だけならなんとかなるのは間違いだ。こいつら数が多いからきりがない。
それでも地道に倒していくしかないだろう。カイの方を見れば、飛びかかってくるイノシシを片手に持った剣で切り伏せつつ、片手で別方向から襲いかかってきた奴の鼻を掴んで地面に叩きつけていた。
器用に牙を避けながら素手で野生動物をいなしたのだから、やっぱりあのリーダーは只者ではない。
するとリゼがまた叫んだから、再び襲ってくるイノシシを攻撃。けれど今度は四方から一斉に迫ってきてるようだった。すかさず炎の矢を展開してまとめて殺す。しかし一匹が矢の雨を抜けてこっちにたどり着こうとして…………。
「まったく。世話が焼けますわね!」
頭上からペガサスに乗って急降下してきたマルカが、そのイノシシの胴を剣で真っ直ぐに貫いた。この人も戦いの術を知ってるのを忘れてた。
「わーん。ありがとございますマルカさん! ついでにそのペガサスに乗せてください!!」
「え……ええ。いいですわよ。その方があなた達にもやりやすいのでしょう?」
「ええもう! その通りでございます! ね、いいよねコータ!?」
「……わかった」
「やったー!」
「おいこら! 抱きつくな! 戦ってる最中だぞ!」
「ふたりとも! 早く乗りなさいな! 敵が迫ってますわよ!」
「にぎゃー!」
マルカに急かされ、リゼは慌ててペガサスに飛び乗る。ペガサスが地面から離れたのと、その空間をイノシシが駆け抜けるのは同時だった。
空から巨大イノシシに向けて火球を放ち動きを牽制。そして城が叩き潰すというのを再開する。ユーリ一匹だけではやはり追い込みきれなかったようで、巨大イノシシの数は減ってはいない。
むしろ奴らは城を敵だと理解したらしい。それも、逃げるのではなく倒すべき敵だと。
逃げ道は絶たれているから、いずれにせよという所か。城の周りの広場や庭園に続く道は、兵士達が盾を並べて完全に封鎖している。この空間にいるイノシシは、なんとかして俺達を殺さないと活路は開けないという状況。
そして俺達は、殺されるつもりはない。この場で戦う誰もが、そのつもりはない。兵士達の中で勇敢な者や、報酬につられた冒険者達が防壁を乗り越えて広場に入ってくる。人手が増えればこっちのものだ。
この街の優秀な冒険者の魔法使いが、俺と同じように巨大イノシシに火球を放って動きを牽制。俺はその状況を上空から見つつ城が腕を振り下ろせる場所に完璧に近い形で誘導していく。また一体、城がイノシシを屠る。あと二体。
その二体が、同時に城に向かって突進していく。その内一体の進路上に火球をぶつけて走行を妨害。レンガ敷きの地面を砕く勢いの火球に、イノシシは急停止。しかしその間に、もう一体が城に激突。
シュリーもそれを見ていて、クレハに防御の指示を出したようだ。城の壁に何箇所かある鉄製の部分に、イノシシの牙がぶつかる。
城自体に損傷はないようだけど、その巨体が僅かにぐらついた。足が短い分重心の低い体型の城だけど、またぶつかられては今度こそ倒壊の危険がある。そしてイノシシはそうするつもりだった。
再度突進を試みるイノシシの前にユーリとフィアナが立ちふさがる。咆哮を上げて、ユーリはイノシシを威嚇し動きを牽制しようとしている。しかしイノシシは、それをものともしない。
けれどイノシシは目標を、鈍重な城からうるさくてちょこまか動く小さなオオカミと人間に変更したようだ。地面を蹴り走り出すユーリを、巨大なイノシシが猛然と追いかける。
巨大イノシシはもう一体いて、そいつは相変わらず城を狙っている。となればさっきのユーリみたいに、俺達が囮になるのが最適か。
「マルカさん! あのイノシシの前に出てください! 引きつけて城の攻撃範囲まで誘い込みます!」
「わかりましたわ!」
「ちょっとコータ! 何言ってるのかな!? 冗談でもそんな怖いこと言っちゃにゃぎゃー!?」
いつも以上に取り乱してるリゼは放っておいて、ペガサスがイノシシの目の前に出て浮遊する。そして俺は、その鼻先に向かってファイヤーボール。イノシシは当然怒って、こっちに噛み付こうとしてくる。
ペガサスが滞空しつつ僅かに後ろに下がってこれを回避。すごいのはペガサスか、それともマルカの騎乗技術なのか。
とにかくイノシシはさらに激高して、こっちに突進をかけてくる。そんなイノシシの目の前で爆発魔法。イノシシに直接は当たらない距離ながら、その前身を躊躇うほどの威力はあって。
その直後、狙いを定めた城の両手がイノシシに襲いかかる。石造りの圧倒的な質量がイノシシを叩き潰した。
あと一頭。その方を見ると、ユーリが相変わらずこれを引きつけてながら逃げ回っていた。街の兵士や冒険者達は、この追いかけっこの巻き添えを喰らわないように必死に道を開けている。
ユーリの上のフィアナは、不安定な状態にも関わらず何本も矢を射ていた。既にイノシシの鼻は針山のように矢が刺さっているけど、イノシシは止まる気配がない。
俺達は最後の敵を倒すべく、ペガサスに乗ったままイノシシへ接近していく。




