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3-9 領主のこと

 用紙を受付に渡すと、登録するのでお待ちくださいと言われる。その間に、カイがギルドとは何かを説明してくれた。



 ギルドとは、国が設立している冒険者への仕事を斡旋する機関だ。

 国ごとに同じような機関があってやはり別の国でもギルドと呼ばれている。完全な互換性があるわけではないが、ギルドである程度の経験を積んでいれば外国でも相応の身分証明にはなる。もちろん、国内ではギルドの登録証は正式な身分証明書となるために手に入れたら紛失は避けるべきである。


 腕に覚えのある者や旅人や無法者一歩手前みたいな人間に仕事と報酬を与えるというのがギルドの存在意義。仕事は民間から依頼が来る事が多いが、国家や各領地を治める者達から来るのも相当量存在する。

 内容としては怪物の討伐や貴重な資源の採取など。あとは治安維持に関するもの。

 こうすることで国なり領主なりは民の安全を守る仕事を民間に委託することでその分の経費を抑えて民間にも金が回るようにするメリットがあるとか。


 ギルドに登録している冒険者たちは10ランクに格付けがされていて、数字が少ないほうが位が高くなる。

 登録直後はみんなランク10から始め、依頼をこなしていくなどすれば上がっていくという。自分がどのクラスなのかは、登録証を見ればすぐにわかるようになっている。


「登録証の材質と引かれたラインでわかるんだ。例えば最初、ランク10は鉄製の登録証を貰える。そして依頼をこなしていってクラスが上がれば……ユーリは今ランク8なんだけど」

 カイがユーリの登録証を見せた。鉄製の小さなタグに名前等の情報と登録番号が彫られている。そして、プレートには銅のような茶色い光沢を持った塗料で斜めに二本線が引かれていた。

「ランクが上がれば銅色のラインを一本引いてくれる。ランク7になれば登録証自体が銅製になる。次は銀色のラインが引かれていく。俺はランク6なんだけど」

 今度はカイの登録証。なるほど確かに銅の素地に銀色のラインが一本引かれている。


「ランク4で銀素材の登録証で、上がるたびに金色のライン。で、最上級であるランク1は金素材だ。……とはいえ、ランク1に関しては国全体でなれる人数が決まってて、空きができるまではどれだけ経験を積もうが2のまま。そこまでは、長くやってればたどり着けるんだけどな」


 なるほど。もちろん、そこにたどり着くためには何度も危険をくぐり抜けなければならないんだろう。昨夜の村での出来事みたいに死んでいく冒険者も多い。


「ランクによっては受けられない依頼もあるから、最初は簡単なものからこなしていって経験を積んでいくというのが大事だな。でも、今回はオーク退治にこの街の冒険者全員が集められるだろうけれど……」


 やはりその問題はついて回るか。非常事態だもんな。



 やがて登録が住んで、リゼとフィアナは鉄製のプレートを受け取る。今日やるべきことはこれでおしまい。途端に眠気がどっと押し寄せてきた。そりゃそうだ。もう長い時間寝ていないような気がする。



 ガルドスが言っていた宿屋に向かう。ひとつの街に複数の宿があるのも村との違いか。

 ちゃんと話はついていたようですんなりと部屋に通してくれた。カイとユーリは別の部屋で、ちゃんと男女分けて用意してくれたようだ。

 そしてリゼとフィアナは、どれだけ待ち焦がれただろうかベッドに倒れ込むとふたりはすぐに寝入ってしまった。俺も、その隣に倒れるとすぐに意識が遠のいていく…………。




 目が覚めると朝だった。何時間ぐらい寝ていたかはわからないけど、よく寝た。とても気分がいい。

「うー。おはよー。おなかすいた…………」

「おはようございます……」

 リゼとフィアナもだいたい同じタイミングで目が覚めたようだ。身支度を整えていると、部屋のドアがノックされた。

「おはよう。起きてるか? ギルドと領主が討伐隊を編成するらしいぞ。参加するよな?」

 カイの言葉に俺達は顔を見合わせて、頷きあった。



 また飯を食いそこねないようにとカイが買ってきてくれたパンを食べながらギルドへと向う。詳しい話はまだカイも知らされてないようだけど、領主は意外なことにオーク討伐に協力的な姿勢を見せたという。

 村がひとつ壊滅したとなれば、さすがに権力者も問題を放置できないのかなと思ったが、カイもフィアナも疑問が表情に出ている。


「……なあカイ。その領主様ってのは、なんでそんなに評判が悪いんだ?」

 フィアナはカイたちには旅人ということになってるから、ここはカイに尋ねる。カイは少し考える様子を見せた後。

「俺も旅人でこの街にもそこまで長く滞在してるわけじゃないから、あくまで聞いた話なんだけどさ。基本的に民のために仕事をしないんだよ」


 ここの街を中心としたいくつかの村を領地としているここの権力者は、領主という座を先祖から受け継いできたという。これはどこの領地でも、国でもだいたい同じだという。

 街の老人の話では、先々代あたりは名君とは言えなくても人徳のある人物だった。民に尊敬され特別な資源があるわけでもないこの一帯をそれなりに立派に発展させそれを維持してきたという。

 だが今の領主はその遺産の上に乗っかっているだけだ。民から納められる税や年貢を使って豪遊するだけの人間。もう初老の年頃だというのに若い頃からずっとそんなことをしているらしい。

 当然、財政状況は芳しくない。だから自分の贅沢になること以外の支出に関しては極端な吝嗇家だ。例えば民を脅かす狼などの獣害に対して、領の金を使って維持している兵士たちを用いて駆除するなんかも嫌がる。民が自分でなんとかして、それでこれまでと変わらず税はしっかり納めろという考えを貫いてきた。


 フィアナがカイの話にこくこくと頷く。先日の狼退治なんてのはその典型例だったんだな。領地は昨日の門番みたいな戦力を持っているが、金がかかるから最低限にしたいと。ひどい話だ。税をなんだと思ってるんだ。


 そんな領主様だから、国の補助を受けて住民と腕っぷし自慢達が領地の安全を担うギルドの勧誘には昔から力を入れていたらしい。そりゃ、領主にとってはほしいものだよな。そうやって呼び込んだギルドがようやくできたのが三年前だっけ。


「それからもうひとつ。あの領主が尊敬を集めないところが…………女癖が悪いんだ」

 カイは、心底呆れるといった様子で言った。フィアナの方を見ると、またこくこくと頷いた。

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