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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第9章 山とゴーレム

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9-28 広がる噂

 翌朝。街の人々が口にする話題は、どこもかしこもゲバルの家に関するものばかりだった。そうなるように俺達が噂を流したのだけど、思った以上にうまくいった。


 昨日鉱山を去る前に、監督長にお願いをした。最近鉱山が野生動物に襲われてばかりだけど、ゲバルの鉱山だけはなぜか被害にあってない。そういう噂を広めてくれと。

 元々半分ぐらいは真実だったこの噂を、彼は最初に自分の鉱山でなんの気なしにぼやいたようだ。その話はやがてその鉱山全体に広まっていき、労働者が街に戻ってからは街中の酒場で噂が語られていくようになった。


 一足先に街に戻っていた俺達はジストと合流。そして現状を伝えた。その場で、職人仲間に噂を流してほしいとも伝えておいた。

 新しく行方不明の人間が三人いる。それもゲバルの家の息がかかった人間らしい。噂にあった通り、ゲバルに関わる裏の仕事を請け負って、それにしくじったために消された。すでにある噂にさらに尾ひれをつけて流したわけだ。


 鉄産業全体に仕事が行き渡らなくて暇になっているのはあるだろう。ゲバルの家はそんな中で順調らしくて、それに対する僻みもあるだろう。元々娯楽に乏しいから、噂話が好きという住民の性質もあるだろう。

 俺達の噂話は急速に広まっていった。


 ふたつの噂話はやがて重なる。ゲバルが利己的な目的のために人を使って、他企業の鉱山を野生動物で荒らしている。そんな噂になった。

 その過程で自分が使っている人間が死のうが、特に気にしない悪い奴らだ。金持ちに対する嫉妬心というのもあり、そんな話があちこちから聞こえてきた。



 噂は噂にすぎなくても、六人の人間が行方不明になっていることは事実。街に戻ってから知ったことだけど、カイが斬り伏せたあの三人もゲバルの企業の下っ端職人らしい。鉄の鋳造工程で働いていたそうな。



 いずれにせよ、これで街の権力者はゲバルの悪事を認識せざるを得なくなる。そして適当なタイミングで、あの男を証人として堂々と街に戻せばいい。

 死んだと思っていた男が生きていると知らせた状態なら、そこで口封じをすればゲバルはさらにまずい状況に立たされるだろうから。



「それにしても、思ったより噂話って広まるんだねー」


 俺とリゼは都市の中心付近を歩いていた。この街で人が一番集まる場所で、つまりは噂が一番飛び交う場所だ。

 街の貴族に関わる内容だから、声高に話している人間が多いってわけじゃない。けれどそこかしこでヒソヒソと言葉を交わす人々も多い。


「人って基本的に、他人の醜聞が好きなんだよ。だからこういう話しには飛びつく」

「そういうものなんだね。コータも好きなの?」

「いや……それは……おい。それよりこの持ち方やめてくれ」


 別に好きではないんだけど、人は基本的にって主語を大きくした以上、否定すればおかしな事になる。主にリゼにからかわれるとかで。だから話題を逸らす事にした。


「えー? 嫌? でも昨日は、しばらくこのままでいてくれたよー?」

「あれは、俺に見せたくない物があったからだろ……」


 昨日と同じく、俺はリゼの胸に押し付けられるように抱きかかえられていた。別に嬉しくもなんともない。というか恥ずかしいからやめてほしい。

 そもそもこれだと、リゼはぬいぐるみを両手で抱えて話しかけてる変人にしか見えないぞ。


 というわけでリゼの腕から脱出するべく、俺はジタバタともがく。リゼはくすぐったそうにあははと笑うだけで、特に効いてる風もない。

 おのれ。この小さくて無力な体が、時々恨めしい。これが殺していい相手なら、ファイヤーボール一発で消し炭にしてやるのに。


「ほら。そこ。もうすぐ城だぞ。静かにした方がいいぞ」


 そんなリゼをたしなめてくれたのは、同行していたシュリーだった。いやどちらかと言えば、城に行くシュリーに俺達が同行してるのな。


「はーい。コータもわかった? ちゃんといい子にしてるんですよ? 騒いだりしちゃいけません。お母さんとの約束です」

「うるさい騒いでるのはお前だ」

「ぼへぁっ!?」


 シュリーの言葉に応じて俺を肩に乗せたリゼが偉そうな事言ったから、すかさず頬にぬいぐるみパンチを炸裂させる。まったくこいつは。

 うん。ぬいぐるみの体でも、やれる時はやれるな。



 朝食を取ってた時のことだ。シュリーが俺達を訪ねてきた。アイアンゴーレムの作り方はまだわかってないけど、繋がりそうな情報はそれなりに見つかってるらしい。

 で、情報収集のためにお城に行くけど、ついてこないかいと尋ねられた。


 本当ならば、今日も洞窟に行く予定だった。

 ゲバルがいつ対策を打ってくるかはわからないけど、洞窟の中にあるアイアンゴーレムの部品は隠しておきたい。それから、奴らが洞窟を見つけて押し入った時のために罠を仕掛けたいし。

 鉱山に預けている男の状況確認は……あくまでついでだけど、必要なことだ。


 けれど俺は洞窟に入れない。リゼも同じく。というわけで、せっかくだからシュリーに同行させてもらうことにした。

 マルカは今、街の図書館に入り浸って資料の整理中らしい。現物確認はシュリーに任せるとのこと。


 城に何の用があるのか、まだ訊いていない。たぶんゴーレム絡みってのは察せられるけれど…………。



「オウェスカが自らの手で作りだしたゴーレムは、今はもう残ってない。土や泥を混ぜ合わせて作ったゴーレムなんて、二百年も経てば朽ちるものさ」


 俺の疑問に対して、シュリーはそう話し始めた。オウェスカ。アーゼスの伝説をヒントに、今につながるゴーレムを作り上げた建築家にして魔法使い。


「ただし、ひとつだけゴーレムが残ってたとすれば?」


 そこでシュリーは言葉を切った。目的地である城の前まで来たからだ。

 相変わらず巨大な城。煉瓦作りの、頑丈そうな作り。城本体から二本伸びている塔も、高く立派だ。見るものに威圧感すら与える。


 この城を見て圧倒されたフィアナに、リゼはなんて言ってたっけ…………。


「どうだい、この城。今にも動き出して、こっちに襲いかかってきそうだろう?」


 俺が思い出す前に、シュリーがそう言った。リゼが言ったのと似た言葉を使って、正反対の事を。


「この城もオウェスカが建てたものだ。大量のゴーレムを使ってね。そして城の建造に使われた煉瓦だけど、その原料はゴーレムの材料と同じらしい」

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