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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第9章 山とゴーレム

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9-24 男の処遇

 俺達は重苦しい雰囲気に包まれた。

 別に俺達は間違った事をしたわけじゃない。必要な事だと考えてやったわけだし、そのために人が死ぬなんて思ってもいなかった。予測も不可能だったと思う。

 チンピラふたりが死んだのは、ゲバルが悪巧みをしたから。死んだチンピラにしても、死ぬには惜しい人だと言えるタイプの人間ではない。


 けれどそれと、俺達の良心が傷まないのかという事は別問題だ。


「と、とにかくこの人は助けよう。こいつにまで死なれたら、さすがに後味が悪すぎる。ゲバルのやってること、教えて貰わなきゃいけないしな」

「そ、そうだね! 助けてあげなきゃね!」

「でも、どうします? 街に運ぶんですか? その人噂になってるし、ゲバルって家の人も放っておかないと思います」

「そうなんだよな……」


 この男を街に連れて帰るのはあまりにも危険だ。誰にも見つからないようにするのは不可能だろう。噂になっているということは、誰もが行方を探しているということでもある。

 悪い意味で有名なチンピラだから、この男の顔を知っている人間は多いだろう。そうでなくても冒険者の集団が気絶した男を運んでいるとか、悪目立ちしすぎる。そして見つかれば確実に騒ぎになる。

 かといって、他に隠しておく場所があるわけじゃない。困った。


「ゲバルの家は、この人を確実に殺そうと考えるよね」

「そうだよな。その通りだ」


 この男はゲバル家のために後ろ暗いことをしていた。つまりゲバル家の悪事が白昼のもとに晒される危険を持っているわけで。

 もし街に連れ帰って見つかれば、口封じにかかるだろう。それも、連れ帰って何か話を聞いているかもしれない俺達と一緒に。旅人の集団がある日突然消えたとしても、この世界の人は大した関心を持たないだろう。だから奴らは躊躇しない。


 そもそも現状の時点で、ゲバル家にとってはかなり都合の悪い状況だ。秘密を知る者が行方不明で、街には家の悪い噂が飛び交っている。家の名誉に関わる問題だ。信用第一って商売ではないかもしれないけれど、企業の運営にも少なからず影響が出るかもしれない。

 噂への対処は難しいかもしれないけれど、この男については速やかに対策を取るだろう。


 具体的には、口封じを急ぐとか。

 街に戻ってくるのを悠長に待つことはない。ゲバルの方から人を送って山を探し、死体を確認する。もし生きていたらその場で殺し、遺体が永遠に見つからないように処理する。既に刺客がこっちに来ている可能性は高い。


 話しをまとめるぞ。この男を街に連れて帰ると死ぬ。この山に置いておいても、殺しに来る奴がいる。あとサバイバル能力なんてないから、やはりこの男は死ぬだろう。

 俺達がこいつを生かさないと、街は悪い奴の手にいずれ落ちる。そうなれば今の俺の依頼主も、悲しい思いをする。


「とりあえず、カイに知らせる。それから、決める」

「……そうだな。戻ろう」


 ユーリの言うとおりだ。俺達だけで決めるわけにはいかない。


 男が目覚めて暴れだしたら面倒。こいつの手足を縛った上で、狼化したユーリの背中にくくりつける。武器になりそうな物があれば取り上げるつもりで調べたけど、特に何もなかった。

 ナイフも持ってないなんて森歩きの素人ですねとフィアナは軽蔑するように言った。


 おそらく前にイノシシをけしかけた時は、獣道を時間をかけてたどっていき、深くまで入ることに成功した。たぶん途中で気付かずに獣道から外れてたかもしれない。けれど目的を考えればそれは問題ではない。

 後は運の良さと目印を大量に作ることで生還したと思われるとのこと。

 プロの狩人が言うのだから正しいのだろう。



 そんなプロがいるから帰り道に迷う事はないだろうけど、一応探査魔法を展開する。カイがいる方向だけはわかるから…………ああ。まったく。刺客が来てるかもなんて、考えなきゃ良かった。


 山を三人組の人間が登っているのが見えた。やはり獣道を辿っているのだろうか。その足取りはゆっくりとしていて、足元をよく見ながら進んでいるらしい。けれど確実にカイの方に近付いてきている。


 カイはこの危機を知らない。刺客の存在さえも。早く知らせないと危険だから、俺達は急いで洞窟へと戻っていく。



――――――――――――――――――――



 中で火を焚いたわけだから、洞窟内は煤だらけ。空気の入れ替えは済んでいるけれど、今度は掃除をしなきゃいけない。

 洞窟最奥にある秘密基地の汚れも甚大で、人が暮らすにはちょっと抵抗があるかなという光景になっていた。でもこれは、一日掃除をすればなんとかなるはず。


 吸血コウモリは、新しい群れが住み着いたようだ。つまり、コータは中に入れない。このコウモリが前回の生き残りではないことは間違いない。洞窟内の地面を見てみると、煙に燻された前の吸血コウモリの死骸が大量に転がっている。


 この死骸を放置すると、いずれ腐敗してひどい臭いを発するようになる。とても中でゴーレムの組み立てなんてできない。そうでなくても、歩いている途中でコウモリの死骸を踏んでしまう感覚は気持ちが悪い。


 というわけで、死骸を外に全部運び出し、穴を掘って埋める事にする。それなりに大変な労働だけど仕方ない。


「でもこの光景、コータさんが見たらどうなるでしょうか……」

「叫んで倒れるかな……」


 そういうわけでカイとクレハのふたりがかりで、コウモリを全部外に出すのだけはできた。入り口付近の地面に横たえられている大量のコウモリ。壮観といえば壮観だ。コータが目にしたら何が起こるか、クレハじゃなくても気になるというものだろう。


 とりあえず戻ってきたら声をかけて、近付かないよう言ったほうがいいかな。

 そんな事を考えながら、次は穴掘りの準備をする。と、そこに複数の足音と話し声が聞こえてきた。

 戻ってきたのかなとそちらを向き、そして瞬時に違うと判断した。



 弱った怪我人を運ぶため、ユーリは狼化しているはず。けれど聞こえてくるのは人間の足音だけ。狼の巨体が木々の枝を揺らす音なんかも聞こえない。

 話し声も、普段聞いてるみんなの声じゃない。


 コータ達だと思ったらしいクレハが、声をかけようと口を開きかけた。咄嗟に手でそれを塞いで黙らせる。

 クレハは驚いてるけど説明は後だ。彼女の体を洞窟内に引きずり込んで隠れる。

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