表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
241/515

9-18 拭えない恐怖

 翌日、俺達パーティー一同とクレハで洞窟へと向かう。ジストは今日も鍛冶屋で仕事だ。正確には程々に仕事をするふりをしつつ、隙を見てアイアンゴーレムの部品を作っているらしい。


 のこぎり等の道具を一通り抱えて森の中を進む。

 途中で邪魔な木の枝があれば、それを切り落とす。獣道の真ん中に鎮座する岩は、やはり持ってきた鉄の棒を使っててこの原理で動かし、道の外に転がす。


 クレハはこれらを目印にして森を歩いてもいたから、今後道に迷わないように変化をちゃんと覚えておく必要がある。まあ、そんなに心配はなさそうだ。


 そんな感じで、半日かけて洞窟までたどり着いた。俺はリゼの肩に乗ってただけで楽だったけど、他のみんなは重労働で疲れてる様子。

 そりゃ、何回も太い枝を切ってへし折ったり岩を転がしたりしたもんな。このパーティー、男手が不足してる面は間違いなくあるね。力仕事では一番役に立たない俺が言うことではないけど。


 そして、肝心の洞窟の入り口だ。昨日は中で盛大な焚き火をしたようだから当然だけど、焦げ臭い匂いが今でも入り口まで漂ってきている。煙の匂いで、死の匂いだ。つまり、まだ洞窟内に有毒ガスがある程度は残っているということ。


 みんなを下がらせて、俺だけで入り口に立つ。息を止めながら心中だけで詠唱。風よ吹け。

 次の瞬間、突風が洞窟の中で起こった。それは中の空気をかき回し、煤が大量にこちら側に吐き出される。これはまた、盛大に燃えたな。俺の体も汚れていくから、今夜は洗濯してもらう必要があるかも。


 どれだけ換気すればいいかはわからないから、しばらく時間をかけてやった。これだけやれば、中の空気もきれいになってるだろう。少なくとも、入ったら死ぬってことはないはず。

 地面が出てきた煤で真っ黒だ。たぶん火を焚いていた反対側、秘密基地の方も煤だらけだろうな。それはちょっと申し訳ない。それの掃除もしなきゃな。


「よし…………行くか……」

「あんまり入りたくなさそうだね?」

「そんな事はないぞ。コウモリは死んだはず。死んだコウモリは怖くない。……いやちょっと怖いけど、そんなに怖くない」

「わかったわかった。お母さんが守ってあげるから」

「ううっ……」


 リゼが母親を自称するのに突っ込む気力も起きない。さっきまでは俺は平静だったはず。それが洞窟に入る段になればこれだ。


「よ、よしリゼ。一旦止まろう。もう少し空気の入れ替えを……」

「えー? また? ……コウモリさん怖いのはわかるけどさ……。あんまり時間かけてると日が暮れるよ? 他の場所のコウモリさんが森中を飛び回るよ?」

「そ、それは困る……でもちょっとだけ……風よ吹け」


 往生際悪く入り口でリゼを止まらせて、再び風魔法。空気の感じは大して変わらないから、本当に無駄な魔法のようだ。洞窟内に残っていた煤が舞い上げられてこっちに飛んでくる。それに混じって、なにか軽い物体がやってきた。


「おっと。なんだろ。石ならこんな風には飛んで来ないよね…………」


 リゼはそれを手のひらでキャッチ。俺もなんだろうと覗き込む。

 二枚の羽。毛に覆われた体。豚を正面から押しつぶしたような醜悪な顔。すでに死んでるようだけど、これは……。


「ぎゃー!」

「ちょ、コータ落ち着いて! これはもう死んでるから! コウモリさんは襲ってこないから!」

「嫌だー! こんな所入りたくない! 家に帰る!」




 どうやら俺は、それなりに長い間錯乱していたらしい。気付いた時には、リゼに抱きしめられながらその胸にうずくまっていた。泣いているような状態だったのかもしれない。ぬいぐるみの体では涙なんか出ないけど。

 辺りは暗くなり始めていて、今日はもう街に戻った方が良さそうだ。俺のせいで、洞窟内の確認は明日に持ち越しになった。


 駄目だな。今回の俺、なんの役にも立ってない。

 この世界の文字が読めないから、ゴーレム作りの理論を調べるのはリゼに任せるしかない。そしてわかった事があったとしても、アイアンゴーレムを作れる気がしない。極めつけがこれだ。


 暗くなりかけた山道を下りるリゼの肩の上で、俺は無力感に打ちひしがれる。所詮俺は、ちょっと魔法が使えるだけのぬいぐるみだ。この世界にとってはちっぽけな存在じゃないだろうか。ほら、空はこんなに広いのに、それに比べて俺は……。


「まあまあ。あんまり気にしないでいいよコータ。誰だってたまには失敗するものだから」

「失敗しかしてないリゼさんが言うと、すごい説得力がありますね」

「そうそう。わたしは失敗しか……ねえフィアナちゃん? それどういう意味かな?」

「あ、足元気をつけてください。木の根っこが」

「もーフィアナちゃんってば。話しを逸らそうとしてそんな事言っにぎゃー!?」

「ぐえっ」


 せっかくフィアナが注意してくれたのに。地面に顔を出していた木の根に見事に躓いて、リゼは盛大にこける。肩の上でぼーっとしていた俺も、その拍子に投げ出されてしまった。痛い。道からも外れたし。


「えっと。獣道って……」

「コータさん大丈夫ですか? そのまま動かないで、灯りだけつけて場所を教えてください。連れて戻ります」


 フィアナに言われた通り、自分の手に照明魔法を出す。リゼ達の姿は結構近くだ。そんなに遠くまで飛ばされたわけでもないらしい。あんまり遠くだと、強制的にリゼの方に引っ張られるから当然か。

 暗がりというのもあって、状況次第では獣道を見失うのをフィアナは気にしたんだろう。他にもみんながいるし、今回はそんな危険はないだろうけど。

 それでもせっかく連れ戻してくれるんだ。少しその場で待つ。なんの気なしに周囲を見て、地面に足跡を見つけた。


「なあフィアナ。これって」

「…………人の足跡ですね」

「俺達のうちの誰かか?」

「いえ。誰も道から外れて歩いてはいないので……わたし達ではないです。じゃあ誰かなのかは、わからないですけど」


 俺を抱え上げたフィアナは足跡を少し観察して、それから首を振った。


「ここだけ土が少し露出してて、足跡が残りやすくなってますね。そこから先は草か苔に覆われていて、足跡になりにくい。追跡するのは難しいですね……。もしやるにしても、今の時間では暗すぎますし」

「そうか。じゃあ戻るか」

「はい」


 これに関しては、フィアナは専門家だ。その意見には従うべきだな。ここで粘って夜になったら、またあいつらが…………考えるのはやめよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ