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9-16 コウモリ退治

 一本の松明を人の姿に戻ったユーリが持って、その明かりを頼りにカイ達は進む。先導はやはりフィアナだけど、洞窟は一本道だし動物はコウモリだけだから、そこまで警戒する事はない。そして松明が一本燃えてる程度では、コータの言う、生物が生きていけない状態にはならないとのこと。狭い空間で大量に火を焚かないといけないとか。で、コウモリ相手にそれをやって全滅させると。


 コウモリが群れをなして天井からぶら下がっていたのは、入り口と終点である基地のちょうど中間地点。位置は感覚でだいたい覚えていて、そこまでゆっくりと進んでいく。

 コウモリを刺激すると逃げてしまうし、下手をすると襲われてしまう。だから足音は可能な限り立てず、会話もしない。

 昨日コウモリに遭遇して、コータが錯乱した地点が近くなってきた。その地点の少し前で足を止める。松明の炎に照らされて、洞窟の天井に大量にうごめく何かがおぼろげながら見える。


 コウモリもこちらに気付いているのかもしれないけど、この時間は食事をする気はないのだろうか。あるいは夜間に活動する動物だし、寝てるのかも。こちらに反応を見せることはなかった。だったらそのまま、おとなしくしててもらおう。


 相変わらずゆっくり音を立てず動きながら、洞窟の地面に持ってきた大量の布を敷く。そして油をふりかける。狭い洞窟の通路を炎で遮断するほど燃え上がるように、十分な量をまいた。


「火をつけたら、息を止めて一気に外まで走る。いいな?」


 カイが小声で確認して、ふたりはしっかり頷いた。

 狭い場所で火を燃やせば人間も危険。コウモリは絶対に殺してほしいけど、仲間がそれの巻き添えで死ぬのはさすがにまずいと、コータがいつも以上に真剣に言ってた事を思い出す。煙を絶対に吸うな。洞窟内では煙は上に溜まるから、姿勢を低くして走れ。息をするなら布で口を塞いでやること。


 油を吸った布に松明を投げて、その結果を見ないうちに振り返って走る。洞窟の外の明かりを頼りにして、全力で駆けた。

 背後に熱を感じた。つまり炎が上がっている。それがわかるだけで十分。振り返って確認する必要はない。洞窟内はすぐに煙で充満するはずで、だから一刻も早く外に出なきゃいけない。


 洞窟内は足場が悪く、走れば何度も躓いてしまう。転倒だけはしないよう、なんとか耐えながら仲間にも目を配りつつ出口へ走った。


 外の空気。太陽の光。それがカイ達を出迎える。当たり前に享受してた物が、こんなに心地よい物だったなんて。

 洞窟から飛び出した途端、三人とも地面に膝をついて深く息を吸った。


「ふたりとも、無事か? そっか。よかった……」


 しばらく息を整えてから、カイはフィアナとユーリの方を見る。ふたりともカイ以上に息を切らしていて、ふたり寄り添うようにして座り込んでる。カイに声をかけられ、大丈夫と言うように手を上げた。


 体の小さなふたりには、さらにきつい運動だった。そういえば、ユーリが狼化したらこの洞窟はちょっと狭過ぎる。荷物を運ぶのにも色々考えないと。そんなことをつらつらと考える。


 洞窟の入り口から煙が立ち込め始めた。ふたりを立たせて、カイはそこから離れる。

 洞窟内には既に煙が充満してるってことだろう。通路内には他に燃える物はないから、いずれ火は収まるはず。けれど煙と、あとコータが言ってた空気中の何かの不足によって、たぶん今頃コウモリ達は意識を失い始めてるはず。そしてすぐに死んでいくと思う。

 何匹かは異変に気付いて、洞窟から出ようとするかも。けれど唯一の出口に至る前に、燃え盛る炎の中を通らないといけない。


 それでも逃げるコウモリはいるかもしれないし、入り口が開いてる以上は多少の空気の入れ替わりが起こる。確実に全滅させるには、洞窟の入り口を完全に蓋して塞ぐのがいいらしい。

 けどそれをした場合、蓋を開けた瞬間に大爆発が起こる危険があるそう。コータはその現象をなんて言ってたっけ。バック…………わからない。コータの説明には初めて聞く言葉が多くて、覚えきれなかった。


 とにかく、今日はもう洞窟には入れない。次に入るときは風魔法を使って、中の空気を入れ替える必要がある。それをできる人間は今はいない。

 しばらく洞窟の様子を見る。弱々しい飛び方をしながら、数匹のコウモリが外に出てきた。フィアナが一応弓を構えたけど、標的は小さいし飛び回っている。射るのは難しいと思ったのかすぐに下ろした。


 住処を追われたコウモリはどこに行くのかな。別の住処に戻るのかな。それとも、この洞窟に戻るのかな。あとはこの森に生息する別のコウモリが、新しくこの洞窟に住み着くこともあるだろうか。

 そうなれば、頼れる使い魔がまた錯乱することになる。またこの駆除法を繰り返す必要があるだろうか。ちょっと危険だから気が乗らないけど…………。


「…………あれ?」

「どうしたの?」

「今、人の気配がしたような……」


 カイが考え事している時、フィアナが何かに気付いたようにキョロキョロと周りを見回し始めた。けれど何も見つからなかったようで、首をかしげつつも探すのをやめた。


 ここは人の立ち入らない山奥。自分達以外に人がいるという状況はあまり考えられない。人が来る用事がないから。

 しかし仮に人がいたとすれば、その発見は困難だろう。木々が密集しているこの森では、その気がなくても常に隠れているような状況だ。わざと騒いだりして自分の存在を誇示しない限りは、お互いにその存在を知ることすら難しい。


 フィアナが感じたのは微かな足音とのこと。野生動物にしては重いものだったため、人間が歩いているのかもと。それもかなりの荷物を抱えている者。

 それか、特別大きな動物だったのかもしれない。重さを考えれば、昨日のイノシシより大型。それはそれで、遭遇したくないけど。


 人を探査できるコータはここにはいない。警戒はしつつ、深入りはしないことにした。



 その後しばらく洞窟の入り口を見ていた。脱出できたコウモリは数えるほどしかいなかった。あとは全部死んだのかな。

 中の火もそろそろ消えた頃合いだろう。煙の出も収まってきた。もちろんコータに言われた通り中に入って確認はしなかった。


「……帰るか」

「うん」

「はい」


 他に用事もないし。


 幸いにも帰り道に、怪しい人間や野生動物に出くわすことはなかった。改めて排除すべき障害について確認しつつ、街に戻っていく。

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