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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第9章 山とゴーレム

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9-15 道筋の確認

 その魔法陣は確かに、木に魔力を込めて動かす魔法に使われた物に似ていた。正確にあの魔法陣を覚えてるわけじゃないけど、似てるとは思う。

 リゼと顔を見合わせて、向こうも同じ事を考えていると察した。


「え。つまりどういうこと? 歩く木の魔法が……え?」

「似てるだけで別の魔法陣って可能性もあるけどな。あの魔法陣、ちゃんと覚えてるわけじゃないし」

「でもほら。術式もちょっと似てるよ。こことか。ねえコータ、木に命を与えて動かす魔法と、土の人形に命を与える魔法って似てないかな?」

「似てると言えば似てるかもな。けど……」


 いつかシュリーが言っていた事を思い出す。木を歩かせる魔法の術式は、ヴァラスビアから見て北の地方に起源を求めることができる。

 この世界で広く信仰されている物とは別系統の宗教の行事の中で、豊作を祈る祭の祝詞……だっけ。


 詳しいことは教えてもらえなかった。そんな場合じゃなかったし。とにかくあの魔法の源流は植物にまつわるもの。土の人形に関係する魔法ではない。


「やっぱり、シュリーさんに話を聞かないとね」

「そうだな。なあクレハ。この魔法陣は、街の外の人間にはそんなに知られてないものなのか?」

「はい。ゴーレムはこの街でしか使われない事になっているので。よそに持ち出すのはいい顔されません。この魔法陣も同じ…………街のゴーレム職人とか、魔法使いにはよく知られた魔法陣なので、秘密の物ってわけでもないですけど」

「そうか。俺達はこれから、首都の学者先生に魔法陣を見せる。学者だから、この魔法陣についても調べて首都で発表するかもしれない。ゴーレム作りの情報が外に漏れるんだ」


 俺達みたいな旅の流れ者に見せるのとはわけが違う。シュリーは一応、仕事で来ることになるのだから。成果を出して報告しなきゃいけない。

 もしかしたらゴーレム作りの技術を広めたくないと思っている街の人間と、対立してしまう方針かもしれない。


 それでも得られるものはある。シュリーの知見を借りれば、アイアンゴーレムに近づくかもしれない。そんな説明をすれば、クレハはしっかりと頷いた。

 同意してくれて良かった。場合によっては、さっき印章を使った結果で、既に急いでこっちに向かってきてる可能性もあるからな。


 とりあえずシュリーに手紙は出しておこう。印章に加えて、例の木の魔法の亜種が見つかったとなれば、あの人が興味を惹かれないはずがないから。


 全国どこにでもメッセージを送れる郵便制度というものは、この世界にはまだ存在しないらしい。手紙を書く紙自体が貴重な世界だしな。手紙を送りたいなら、旅商人に届けてくれと頼むか、ギルドに依頼を出して旅人の冒険者に託すみたいなやり方を取る。

 面倒だし時間がかかるな。とりあえず文面だけ簡潔に書いて、引き受けてくれそうな商人を探そうか。


 それからやる事は? ゴーレムに関する基礎の勉強と、この古い倉庫の整理だ。伝説の印章が見つかってしまった以上、他にも何か役に立つ物が見つかるかもしれない。けれど中の物があまりに古すぎて、役に立つ物なのかどうか判別すらできない。これも、見る人が見たらわかるのだろうか。

 ああ、シュリー早く来てくれ。



――――――――――――――――――――



 リゼとコータがゴーレム作りの下調べなんかをしている間に、残りのパーティーメンバーは再び洞窟に向かっていた。


「えっと、この先は……こうですね。あ。あの岩があるから…………」


 カイには道があるようには見えないけれど、フィアナは先導して森の中をさほど迷わず進む。狩人っていうのは、全員こうなんだろうか。

 自分にはできない事だからと先導役は任せて、カイは後ろを振り返る。狼化したユーリが木々を避けながら窮屈そうに進んでいた。


 街の工房でアイアンゴーレムの部品を作り、洞窟に持っていって組み立てる。起動魔法なんかも洞窟で行うことになる。

 クレハ達は台車を用意するつもりだったようだけど、森の獣道をそれで行くのは無理がある。ユーリに乗せていけばいいと提案したところ、かなり感謝された。


 ところが森の中は狭い。そしてユーリは大きい。狼化したワーウルフの中でも群を抜く大きさらしいし、この森はユーリの故郷のそれよりも窮屈らしい。

 本当に狼化した状態で洞窟までたどり着けるか、確認する必要があった。障害があって無理そうなら、排除するか迂回路を作るしかない。


「あー。この枝は邪魔ですね……」

「切る?」

「それでもいいですけど、時間がかかりそうですね」

「じゃあ、今度来た時にやろう」


 一旦人間に戻ったユーリが、枝の下をくぐり抜けながら言う。背の低い木が太い枝を、道を横切るように伸ばしていた。

 人間の背丈なら少ししゃがんでぐれるけれど、荷物を背負ったユーリではそうはいかない。


「あと、あそこの岩も、面倒」

「道の真ん中にありますもんね。あそこは避けて通ります?」

「いや、岩をどけよう。人手があれば動かせそう」


 獣道のど真ん中に鎮座する少し大きめの岩。あれもユーリの体だと邪魔になる。


 そんな風に障害になる要素を見つけていき、次に行くときに道具を揃えて排除していく予定だ。


 さて、道のりの障害は今度対策するでいい。でも今回のうちに手を打っておかなきゃいけない事柄もある。

 コータが真剣に頼んできた、洞窟内の吸血コウモリの排除。俺がいない間にやってくれと、ものすごい勢いで頼んできた。さすがにこの願いを聞き入れないわけにはいかない。


「えっと、洞窟内は狭いから、大きな火を燃やすと…………さ、さ……なんでしたっけ?」

「サンソ。コータは、そう言ってた」

「それは生き物には必要な物だから、洞窟内でそのサンソが足りなくなれば、コウモリだって死ぬ。これをさん……さんけつ?」

「たしかそう。コウモリはサンケツを起こして死ぬ。人も死ぬから、気をつけないといけない」

「コータさんって、変な事知ってますね。コータさんの世界って、そんなにすごいのでしょうか」

「すごいんだろうな。とりあえず俺達も、さ……サンケツにならないように気をつけよう」


 昨晩コータから伝えられた作戦を、カイ達は半信半疑ながらも実行することに。とにかくこれでコウモリを全滅させろ。一匹たりとも残すなと、あの使い魔は震えながら言ってきたのだ。

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