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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第9章 山とゴーレム

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9-11 鉱山からの帰還

 急に出てきた若い奴らが、即座にイノシシを全部駆除してしまった。逃げ回っていた労働者達は、呆気に取られたような表情でこちらを見ていた。

 けれどすぐに、命の恩人らしいと認識されたようだ。複数の人間がこっちに寄ってくる。ありがとう。助かった。君達は何者だい? そんな声がかけられた。


「えっと。わたし達は旅の冒険者です。名乗るほどの名前はないです」


 かっこつけてるのか、リゼがそんな事を行ってる。お前はさっき出てきた時、完全に名乗ってただろ。


 鉱山で働き土と汗にまみれた男どもから感謝されるのも悪い気はしないけど、俺達は通りすがりの旅人だ。あとクレハ達を待たせてるし、早急に立ち去らせてもらう事にした。イノシシの死体は悪いけど、労働者達に任せる事にしよう。こういう力仕事のためにゴーレムがいるんだろうし。


 あんまり長居すると、夜になってコウモリが飛んでくるかもしれないしな。それは避けたい。絶対に嫌だ。早く街に帰りたい。




「皆さん、本当にお強いんですね。驚きました……」


 帰り道、クレハが感心したように言う。イノシシを殺した手際の良さが、そんなに気に入ったのだろうか。


「特にリゼさんがすごいです。あんなに大きなイノシシを受け止められる防御魔法を出せるなんて……」 

「えへへー。なんといっても、わたしは優秀ですから!」

「おい。調子に乗るな」


 あの壁を出したのは俺だ。事情を明かすと面倒だから黙ってるけど。


「リゼさんが最初に飛び出して囮になるって作戦だったんですよね!? 魔法使いなのに前に出られるの、尊敬します!」

「そう? そっかー。やっぱりわたし、普通の魔女の枠じゃ収まらない人だからねー」


 おいこら。確かにリゼは囮には使えるけど、さっきのは考え無しに突っ込んだだけだからな。


「旅人にも、リゼさんみたいな魔法使いがいるんですね……そんな人に手伝ってもらえるなら、アイアンゴーレムもきっと完成しますね!」

「もちろんだよクレハちゃん! わたし達なら絶対できるよ!」

「おいおい……」


 そうやって調子に乗って、自分の本質を隠して。それでフィアナのことを悲しませたのを忘れたとは言わせない。得意になってるけれど、またどこかで痛い目に合うかもしれない。このクレハという少女が失望する姿を、俺は見たくない。

 そんな俺の心中をリゼだけは察することなく、俺達は宿へ戻るのだった。フィアナ達は、俺の気持ちをわかっているって思いたい。


 宿に戻って、クレハとジストはそれぞれの家に帰っていく。


 そういえば昼食を取っていなかったから、夕食はちょっと早めの時間に食べることにした。俺には別に関係ない話なんだけどな。飯を食わないと生きていけない人間って不便だな。

 別に羨ましがったりはしてないぞ。皿の上に乗った肉の揚げ物がうまそうとかは思ってないぞ。元の世界の唐揚げが食べたいとか、そんな事は断じて考えてない。絶対だ。


 食卓と美味しそうに食事をするリゼから意識を逸らすため、俺は食堂で食事してる他の客の会話に耳を傾けた。

 早めに仕事を切り上げて夕食に入った、街の職人とかだろうか。ジストと同じ鍛冶屋のように見える。


「それより聞いたか。また鉱山にイノシシが迷い込んだらしい」

「またか。最近多いな……」

「ゴーレムが何体か壊されて、大損だって言ってたぞ」


 イノシシが現場で暴れたとなれば、さっきの俺達が退治した現場かなと思った。けれど聞いていると様子がおかしい。

 俺達が救った現場では、ゴーレムは壊されてない。少なくとも見えてる範囲で、だけど。現場監督が必死に守ってたし、イノシシが退治されたところ彼らは安堵していたようだった。相当な被害が出てたら、あんな顔はしないと思う。

 それに、俺達が戦ったのはついさっきの事だ。そのまますぐに街まで戻ってきたのだから、情報が伝わるのがさすがに早すぎる。


 ということは、考えられるのはひとつ。今日イノシシに襲われた採掘現場が、もう一つあるということ。

 イノシシの襲撃は、ここのところ増えているらしい。一日に複数回起こることもあるのだろうか。


 けれどさっきのクレハの説明だと、時々起こる程度の事って感じだった。未然に防ぐため、狩人やギルドが活躍してるとも。


 何か原因があって、イノシシが人里に出やすくなってるかは知らない。でもそういう傾向にあることは確かだ。俺としては気が引けるけど、今後もあの洞窟に行くことになるだろう。森の中でイノシシに襲われた時は、クレハ達を守らなきゃいけないな。

 イノシシなら問題ない。大丈夫だ。俺は役に立つ。

 コウモリなら…………考えるのは今じゃなくてもいいよな、うん。




 翌朝。ジストは鍛冶屋の仕事があるとの事で、今日は来ていない。宿まで迎えに来たクレハとリゼとで、アフルトンの屋敷へ向かう。


 カイ達とは別行動になる。ゴーレムを動かす術式の研究は、魔法使い以外は役に立たないだろうし。リゼだったら役に立つってわけではないけど。


 とりあえずカイ達には、クレハ達の秘密基地の整備とかをお願いしておいた。行きにくい場所にあるのは仕方ないとして、あの場所を快適にする事に意味はあるはず。

 アイアンゴーレムの部品をあそこに持っていって組み立てるのだから、それに適した場所にするべきだ。

 具体的には、吸血コウモリが来ないように追っ払ってもらうとか。そうお願いしたのは俺だけど、一応はみんなの利益になると考えての事だぞ。自分のことだけ考えてるとかはないからな。



「ところでさ。どうしてふたりは、あんな遠い場所でゴーレム組み立てるの? 普通に街のどこかで組み立てた方が早い気がするんだけど」


 屋敷へ向かう途中、リゼがふと思い出したように言う。確かにその通りだ。あの洞窟を基地にするのは不便すぎる。コウモリも出るし。


「ええ。実は理由があって。作ってる途中のゴーレムを、誰かに見られたくないと言いますか…………」

「やあ、クレハ! こんな所で会えるなんて運がいい」

「…………?」


 クレハの説明は、突然かけられた声により中断された。背後から聞こえてきたその声に、クレハはため息をついた。

 俺とリゼが振り返ると、男がひとり。見た感じ二十代の前半。少し太り気味だけど元は悪くないかなっていう顔つき。それから着ている服は上質そうで、裕福な家の人だと思われる。


「ごきげんよう、モレヌド様……」


 クレハが、めんどくさいという感情を極力隠しながら、挨拶を返した。

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