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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第9章 山とゴーレム

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9-10 鉱山での騒動

 俺達がこの街でこれからやるべきことは、とりあえず決まった。大まかな方針でしかないけれど。


 とりあえず後は、街に戻って話すことに。ここから街まで、さっき来た道を戻っていかなきゃいけない。二時間弱かかる計算だ。

 だんだん暖かくなってきた季節とはいえ、まだ日は短い。ぐずぐずしてると日が落ちる。


 この山や森においては、夜こそが吸血コウモリが真に活動する時間帯。日中隠れている洞窟や日陰から飛び出して、獲物を見つけて血を吸う。

 森の中を縦横無尽に駆け巡るコウモリ集団とか、絶対に遭遇したくない。よし、帰ろう。とっとと森から離れよう。俺は都会人なんだ。本来なら森になんているべきじゃない。特にコウモリがいる森には!


 そんな想いが通じたわけではないだろうけど、帰り道ではコウモリに出くわすことはなかった。洞窟から出てもまだ日は出ていたし、森の中だから薄暗くはあるけど奴らの行動時間には早い。

 まあ、コウモリ以外には遭遇したんだけど。ちょっとしたトラブルというかな。でもコウモリに比べれば大した問題じゃない。


 何事もなく森を抜け、再びゴツゴツとした岩が目立つエリアに。さっきの採掘現場が近いのだろう。労働者達の声が聞こえてきた。叫び声。悲鳴。そう表現するべき種類の声だった。


「リゼさん。これ。獣の足跡です。それも大型のが何頭か」


 何かが起こっている。そう俺達全員が認識した直後、フィアナが地面を観て事態を把握したようだ。

 確かに、硬い地面に僅かな足跡があるのが見える。言われなければ気づかなかった。それはまっすぐ採掘現場の方に伸びていた。


 野生動物が森を抜けてしまい、人を獲物と認識して襲いかかる事がある。さっきも聞いた事が実際に起こったらしい。


 帰り道で起こったことというのもあるし、気持ち的にも見てみぬふりはできない。俺達は一斉に現場の方へ走った。そしてさっきも様子を見るのに使った岩陰から身を出して、現場を見下す。


 想定していた通り、採鉱現場に数匹のイノシシがいた。そして労働者達に対して容赦なく襲いかかっていた。現場を好き勝手に走り回り、人間に襲いかかる。


 イノシシは確かに大型だった。高さ一メートルほど。四足歩行しててその高さだから、全長で表せば……目測だとちょっとわからない。とにかくでかい。

 牙もすごいな。人なんか簡単に串刺しにできそう。それが四匹ほど暴れまわっているのだから、それは怖い。


 殆どの者が一目散に逃げいくだけ。他の例といえば、監督官らしき人物が高価な設備であるゴーレムを逃がそうとしていた。こんな時にもゴーレムが大事なようだ。

 監督官は労働者や奴隷に対して、逃げるなイノシシをなんとかしろと、叫ぶように呼びかけている。残念ながら誰もそれに従わないけど。奴隷であっても命は惜しい。監督官からの叱責や罰は怖いけど、死ぬよりはずっといい。そんな心理。こういう時に、人が作った決まりは役に立たない。



 奴隷制云々は置いておいても、混乱を鎮めて人々のあるべき姿を取り戻さないとな。俺達は岩陰から飛び出して現場へと向かった。


「ふはははは! 優秀なる旅の魔法使い、リゼちゃんの登場ですよ! このわたしが来たからにはもう安心です! イノシシさんなんてすぐにうわーっ!?」


 イノシシが暴れている只中にいきなり躍り出た物だから、興奮しているらしいイノシシは一斉にこっちに向かってきた。


「わーん! なんでこんな事にー!」

「考え無しに出てくるからだ! あと逃げるな!」


 魔法使いっていうのは後衛職なんだから、カイやユーリに道を譲るべきだ。なんで前に出ようとするかな。

 それから、背を向けて逃げようとするリゼを制する。チンピラ共とは訳が違う。四足歩行の動物に人の足が勝てるはずがなく、逃げたら背後から牙で貫かれて終わり。


 俺の言葉に従ってその場で踏みとどまったリゼ。その肩で、俺は前方に防御魔法を張る。

 先頭にいたイノシシがそれに激突。悲鳴とともに止まる。こちら側にも、ズシンいう音とともに空気が震える感覚が来る。敵の魔法や矢を止めるのとは訳が違うか。それでも物理的な衝撃は来なかった。


「ひいぃっ!」

「怖がるな! ちゃんと止まったから!」

「う、うん! さすがコータすごい!」

「どうもな!」


 止めたイノシシは痛みに呻きながら、なおも俺達を敵視している。目の前の壁を破って俺達を突き殺そうと、グイグイ押してくる。迂回するって考えは無いように見える。

 この壁にどれだけの耐久力があるのか、俺はよく知らない。それをこの場で試す気はないし、その必要もなかった。


 俺達の横を通り抜け、カイがそのイノシシに斬りかかる。右の前足の付け根をバッサリと切り裂き、ついで同じく右の後ろ足も切る。

 イノシシは悲鳴をあげてカイの方へと目標の変更をするけど、足を負傷している状態では満足に動けない。カイはそのイノシシから適度に距離を取りながら、次の攻撃の機会を伺っている。


 他方に目を向けると、現場監督に襲いかかろうとしていたイノシシを、狼化したユーリが真正面からぶつかって静止させていた。

 イノシシの牙を避けつつ、前足でその頭部を叩いて怯ませる。そのまま頭部を前足で地面に押さえつけ、首に思いっきり噛み付く。鮮血でユーリの顔を濡らしながら、イノシシは絶命した。


 ユーリの上に乗っていたフィアナは、ユーリを援護しなくても勝てると判断したのだろう。遠方のイノシシに目標を切り替えた。

 興奮した様子で走り回っているイノシシの脇腹に矢を放つ。見事に命中。走ってる状態でいきなり負傷したイノシシは、たまらず地面に倒れ込んだ。

 巨体が倒れた振動がこっちにも伝わってくるけど、フィアナはそれを意に介さず再び矢を放つ。イノシシが完全に動けなくなるまで、何度も。


 そして俺達はといえば、対峙していたイノシシがカイに向き直った途端に防御魔法を解除。四頭目である最後のイノシシに向けて大量の炎の矢を撃ち込んだ。全方位から襲いかかる矢をイノシシは回避できず、あっという間に無力化。


 その間に、カイも自分の相手であるイノシシを討ち取ったようだ。隙を見つけて急接近して、心臓まっすぐ剣で貫く。当然ながらイノシシは死ぬ。


 勝負は一瞬でついた。野生動物相手に長い間戦う事もない。リゼが急に飛び出したこと以外は、チームワークも取れた動きだった。

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