表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
231/515

9-8 コウモリが怖い

 そのまま、どれくらい経っただろうか。俺の頭を、誰かが優しく撫でた。


「もう大丈夫だよ、コータ。コウモリさんいなくなったよ。もう怖くないよ」


 リゼが語りかけてくる。とても優しい声。いつもの、馬鹿みたいにやかましい声じゃない。例えばこれは、傷ついた誰かに寄り添い立ち直らせる時のリゼだ。


「大丈夫。誰もコータに襲いかかったりしないから。もし誰かがコータに意地悪しても、お母さんがちゃんと守ってあげるからね」

「うん。わかった……頼りにしてる、お母さん……」

「え?」

「あ……」


 リゼに抱かれて頭を撫でられているのが、なぜか心地よくて。幼い頃の感覚なんかが不意に蘇って。それから、俺の錯乱状態はまだ回復しきってないらしいこともあって。

 自分に語りかけているのがあの馬鹿だってのは自覚しつつ、リゼが自称する呼称をしてしまった。


 一生の不覚だ。


「ふっふっふ。そっかー。ついにコータもわたしのこと、お母さんって認めるようになっちゃいましたかー!」

「うるさい。黙れ。口引っ張るぞ」

「にひゃー! ひゃめへ! ひっはりはららいはないへ!」


 リゼの頬を思いっきり引っ張りながら脅しをかける俺に、リゼは当然抗議する。何言ってるかわかんないけど。まったくこいつは。俺はリゼの息子じゃない。


 でもまあ、俺のこと心配してくれてるのはわかる。気がつけば周りのみんなも、俺に気遣わしげな表情を向けている。


「ごめん。迷惑をかけてしまった。リゼもありがとうな」

「ううん。いいの。コータにも怖いものってあるよね。今度コウモリさんが来ても、わたしが守ってあげるから」

「…………頼む」


 俺がリゼにこんな事を言う日が来るなんて。でも、別に屈辱とかは感じない。素直に、このご主人に頼ろうと思えた。


「それにしても、コータってコウモリさん苦手なんだね。弱点があるなんて知らなかったよ」

「うん。小さい頃に、ちょっと……」


 大したことではない。幼少期に見た子供向けアニメに悪役として出てきたコウモリのキャラが、幼い俺には恐ろしい物に見えた。それ以降コウモリって動物自体に苦手意識を持っている。それだけ。実際のコウモリになにかされたって話ですらない。

 俺の周りの同世代もきっと見てたアニメだけど、コウモリが苦手な奴は見た事がない。俺の感受性とかの問題なんだろう。


 それだけの事だ。別におもしろい話じゃない。俺にとっては、それなりに深刻なんだけどな。


 アニメ云々については、説明が難しいから省いた。小さい頃に怖い目に遭ったとだけ言えば、みんな納得してくれたようだ。


「そうだったんですね。大丈夫です。今度コウモリが襲ってきても、わたし達が守りますので!」

「いつもコータには助けられてばかりだからな」

「今回は、コータを助ける」


 ああ。俺は良い仲間を持った。ありがとうみんな。俺達のパーティーは、本当に頼りになる。

 そんな風に感動してる俺の姿を、クレハとジストが少し戸惑った表情で見つめていた。ここまで仲間から頼られて、親身にされている使い魔って珍しいのだろうか。


「と、とにかく先へ行きましょう。もう少しです。…………吸血コウモリは、大きな音とか光を出すと驚いて、洞窟の外に逃げていくんです。爆発魔法を弱く発動させれば、大丈夫ですよ」

「……参考にします」


 俺の爆発魔法だと威力がありすぎて、洞窟自体が崩れないかと心配だけど。今後洞窟に入るときも、クレハと一緒じゃなきゃ危険だな。


 この洞窟はコウモリの住処になってて、追っ払ってもそのうち帰ってくるとか。森の中のこうした横穴とか日陰にはよくコウモリが潜んでるとか。時々採掘現場に夜のうちに迷い込んで、そこの穴に住み着いて労働者を襲うとか。


 そんな、ちょっと聞きたくないけど必要な情報を聞きながら、俺達は洞窟を進む。

 コウモリが襲ってきた地点から数分歩いた辺りで、洞窟は横に大きく折れ曲がっていた。その曲がり角からさらに少し行った辺りで、突如として空間が大きく開けた場所に出た。


「ようこそ。ここがわたし達の秘密の場所…………です」


 少し気恥ずかしそうに言うクレハだけど、確かに秘密基地っていう感じはした。

 空間の中に置かれた簡易なベッドや机。照明用のロウソク。それから作業台なんかも。工具類はジストが使ってるのだろうか。このふたりだけが知っている場所。


 そんな秘密基地の奥に、ひときわ目を引くものが鎮座していた。

 鉄製で、人の形をしていた。大きさは人よりもずっと大きく、それが何かはさっきも見たものだからすぐにわかった。


「ゴーレムか……鉄で出来てるけど」

「はい。土や泥で作ったゴーレムに、鉄製の鎧を作ってかぶせたものです。これなら普通のゴーレムよりは頑丈になると思いました。……当然ですけど、作る手間は普通のゴーレムより増えます」

「だろうな……」


 普通にゴーレムを作った上で、さらに外殻を作って着させるのだから。製造コストは当然余計にかかる。クレハ達の目標は安価なゴーレムだから、それとは反する物。

 一応、頑丈になった分長持ちはするだろう。そういう意味で、長期的に見たら安いとは言えるかもしれない。


 そう言ってみたところ、ジストの答えは否定だった。


「実際に動かしてみたら、思ったほど頑丈じゃない。外の鎧が頑丈でも、中のゴーレムは土製だから柔らかい。衝撃を与えたら、ゴーレム本体に響いてダメージを受ける。……それでも、鎧無しよりはマシだろうけど」


 こんな大げさな鎧をつけるほどのメリットじゃないってことか。


「それから鎧をつけたおかげで、ゴーレムの動きがぎこちなくなってるようなんです。一応動きますけど……」


 鎧なんて着てたら動きにくいに決まってるよな。作業効率が落ちて当然だ。


 長持ちするという意味で安価なゴーレムを作るって発想で、ふたりが試作したもの。しかしうまくはいかなかった。

 俺達の目の前に横たわっているのが、その試作第一号ってわけだ。ゴーレムを作ったのがクレハで、鎧を作ったのがジスト。今は壊れて、機能停止したまま放置されている。


「だから、別の考え方をする。中身が泥でできたゴーレムだから、物持ちが悪いんだ。もっと頑丈な……ゴーレムそのものを鉄で作ればいい。……アイアンゴーレムって呼べばいいと思う」


 ジストがそう説明をした。なるほどアイアンゴーレム。なんか強そうだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ