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3-6 領地の中心

 ユーリの足は人が普通に歩くよりはずっと速いが、それでも村と街の距離も相当にあった。夜通し走ったにも関わらず、街に着いた時にはすっかり日が昇っていた。


 これまでの村とは違って、道を塞ぐようにして門が立っていた。そのすぐ横に小さな小屋と、門番の兵士らしき男が数人。向こうから走ってくる巨大な狼に兵士たちは動揺しながら身構えたため、ユーリは兵士たちとはずっと離れた場所で止まった。


「怪しい者じゃない。ギルドに登録してる冒険者です。こいつは俺の仲間で、危害を加えることはありません」

 門番たちはこの門の向こう側を守るのが仕事。巨大な狼が接近してきたら強引に門を破るのではと警戒するものだろう。それは当然かもしれない。

 カイもそれをわかっているのだろうし、こんなことには慣れているのだろう。カイが攻撃の意志はないとばかりに手を振りながら兵士たちに近づいていく。俺たちもユーリから降りてそれに続く。


 兵士たちに手短に、けれど事態の深刻さがわかるように過不足なく事情を伝える。村がオークに襲われて壊滅した。生き残りは二十人あまりで、徒歩でこちらに向かっているから迎えをよこしてほしい。オークは村に居着いてそこを新しい住処とすると思われる、と。


 兵士たちは驚き顔を見合わせる。彼らも多くの冒険者が村に赴いたことを知っているのだろう。直接、この門から見送った者たちなのかもしれない。それが壊滅したとは信じられない。けれど現にギルドの冒険者がそう言ってるのだから、確かめないわけにはいかない。

 とりあえず領主様に判断を仰ごう。兵士同士の会話からそんなことも聞こえてくる。大丈夫かな。ここの領主は頼りにならないともっぱらの噂だぞ。


 カイも似たような危惧を抱いたのか、やれやれと首をふる。

「とにかく迎えを最優先で送ってださい。それから対策は任せます。俺はギルドにもこのことを知らせないといけないので、街に入れてください。…………この子達も」


 門番たちはカイを中に入れることにはすんなり許可を出す。それから、俺たちを見る。正確にはリゼとフィアナを。

「お前たちは……壊滅したという村の娘か?」

 村娘の格好のリゼと、村の狩人の格好のフィアナ。そういう誤解を受けるのももっともだろう。単なる旅人ですと説明すると面倒だし、誤解に乗っかかることにする。村人だと言ってけとリゼに小声で言った。

「は、はい! 村人ですよ! カイに助けてもらったただの村人だから魔法とかは使えません!」

「お姉ちゃんの言うことは気にしないでください。村が襲われたショックで混乱してるんです」

「ひどい……」

 相変わらず口数が多いリゼを、こいつの妹という設定で乗り切ろうとしたらしいフィアナがフォローする。リゼは錯乱状態。正気ではない。この言い訳はこれからも使える気がする。


「そうか。それは大変だったな。この街でゆっくりしていくといい。…………金はあるか? 一応規則でギルドの身分証や市民証明を持ってない人間は旅人扱いで門の通行料を取らなきゃいけないんだ」

「大丈夫です。払います払います」

 領主の評判は悪いが、その下にいる兵士たちは普通にいい人なのだろう。急に放り出されたみたいなのに悪いなと言いながら、リゼが鞄からだしたふたり分の通行料を受け取る。大した額でもないし必要経費だ。街に入らないわけにはいかないし。


 ふとカイの方を見たら、人間の男の子の姿に戻っていくユーリの体に着ていたローブを渡していた。別にしっかり見てたわけではないが、狼になる時に体が膨れ服が破れてしまう以上は戻れば当然裸になる。だから体を覆えるローブを身につけているしその下は元々あまり服を着ないんだろう。露出狂とか思って悪かった。

「手続は済んだか? じゃあギルドに行こう」

 そうだった。早いところギルドの人間にもこのこと伝えなきゃいけないんだよな。揃って門をくぐり街の中に入る。


 この街も森に囲まれた場所だというのは変わらない。建物が集まる中心部とその周りに田畑が広がるエリアというのも同じだ。村との違いは、街と森の境界に柵を設置することで領域をはっきりさせているとこと。道に門を置いてるぐらいだから、森を抜けて侵入してくる者にもそれなりに対処をしているってことなんだろう。

「これがもっと大きな街になれば、柵じゃなくて立派な壁を作ってたりするよ。城塞都市って言うんだよね」

 リゼのそんな解説を聞きながら街の中心に。村と街の最大の違いは柵のある無しではないな。

 人口の多さと、それによる経済規模の差だ。


 多くの人間が多くの建物の間を行き交っている。俺の世界でいう大都市とはもちろん比べるべくもないが、小さな村しかこれまで見てこなかったフィアナは自分の知っている世界との差に目を丸くしている。

 たくさんの人間も立派な建物もフィアナには初めての景色。そして彼女が旅に出た理由も、こういうのを見たいというのがひとつあるのだろう。

「リゼさん。あれって獣人ですよね? わたし初めて見ました……」

 フィアナの視線を追って、俺も少し驚く。体中に毛が生えていて頭にはネコみたいな耳。二本足で立って歩いているその姿は人間だけど、ネコみたいな特徴もあわせ持っているあれはなんだ。

「そうだよー。あれが獣人。大きな街に比べると異人種が大勢いるわけではないけど、探せばいるんだね」

 リゼはそういうものを見慣れているとでも言うような口ぶりだ。

 それはそうか。リゼはこの国で一番大きな街から来たんだから。一番多くの人が住んでいて、異なる文化が交わる場所。俺のいた世界でも、都市に行けば行くほど外国人が目につく。同じなんだろう。


「着いたぞ。ここがギルドだ」

 カイがひとつの建物の前で足を止める。周りの建物と比べて特に目立つとか立派というわけではないが、村の建物と比べれば作りのしっかりしているもの。2階建てで、中には人がそれなりの数いることが伺える。


 ギルドか。予定外の形になってしまったが、加入することは決めていたんだ。けれどさっきの村での戦いとか、冒険者たちの末路などを見るに躊躇う気持ちもなくはない。

 いや、そんなことを言っている場合ではないな。そんなことはわかっていた。


 建物の中にカイとユーリは慣れた様子で入っていく。もちろん、俺達もその後に続く。

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