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9-6 ゴーレムの性質

 俺には、あれが何なのかわからない。人の形をしているけれど、サイズが明らかに違う。持っている物も、人の能力を明らかに超えた重さがあるように見える。

 あれは人ではない。となると。


「ゴーレムです。初めて見ましたか?」


 俺達パーティーにとって、全員が初めて見る光景だったようだ。それぞれこくこくと頷いた。


 ゴーレムか。ゲームとか小説の中では知っている名前が出てきた。俺の持っているイメージだと、もっと体格が良くて巨大なパワータイプのモンスターだ。

 あそこで働いているゴーレムは、確かに力持ちではある。けれど姿は、ものすごく背の高い人間。ダンジョンに住み着き人間を襲うモンスターではなく、人と協力して仕事をする存在にみえる。


「土や泥をこね上げて作った人形。それに特別な術式と魔力を注ぎ込むことで、ああやって動くようになるんです。そしてこの街では、人ではやりきれない作業ができる労働力として活用されています」

「安価に用意できる、使い捨ての労働者ってことか」

「いえ。ゴーレムは高価なものです。材料になる土や泥も、安価なものじゃないんです。この地方では珍しい種類の土で……他の地方では普通に産出する場所があるらしいんですけれど、商人に運んでもらって買っている状態です」


 ルファや食堂の商人たちが言っていたこと。この街では土や泥が高く売れる。ゴーレムの材料としてだったのか。


「あの大きさあの形に、成形するのも大変です。それに術式を書いて魔力を込めるのは、魔法使いにしかできません」

「そっか。そう聞くと、確かに安くないな」


 商人達の輸送コスト。その他の行程。俺のいた世界と違って、工場で大量生産ができるわけじゃない。作れる人も限られているし、その制作作業には職人技というか、特殊な技能が必要なのだろう。それこそ魔力を込めるのは魔法使いじゃなきゃいけないなら、これも職人と言える。


 鉱山の風景をよく見れば、ゴーレムは確かに丁重な扱いを受けていた。確かに力仕事を任されているって事実はある。けれどそれは人間だって同じだ。それにゴーレムが通る道を、人間の労働者はわざわざ避けて歩いている。その気になればゴーレムの方が立ち止まり道を譲ることだってできるだろうに、そうなることはない。重量物を運ぶゴーレムに人が衝突すれば、人の方はただでは済まないだろう。そんな危険があるにも関わらず、それに対する処置がなされているようには見えない。

 俺も詳しいわけじゃないけれど、こういう現場って労働者の安全には注意を払われるものじゃないだろうか。ヘルメットを被ったり。

 いや、この世界にはまだ、ヘルメットは存在しないのかもしれない。俺のいた世界でも昔は、労働者の扱いってこんなものだったのかも。


 俺の世界とはちょくちょく、根本的に価値観が違うって事柄があるな。そりゃ世界が違うのだから、当然かもしれないけれど。


「お願いしたい事なんですけれど、安価で頑丈なゴーレムを作るのを手伝ってほしいのです」


 ゴーレムに見とれている俺達に、クレハが説明をした。そうだった。依頼の内容だ。


「ゴーレム作り?」

「はい。ゴーレムが今よりも安くなれば、鉱山を経営する企業はもっと導入することになるでしょう。そうなれば、労働者の数は今よりも少なくて済むということです。こんな風な、危ない環境で働く労働者も減ります」

「そうなれば、クレハの弟の危険も少なくなる?」

「はい。弟は奴隷なので、そんなに簡単にはいかないでしょうけれど……」


 労働者よりゴーレムの方が安くなれば、そりゃ誰もがゴーレムを使いたがる。賃金を出して労働者を雇うのはバカバカしい。とはいえ、奴隷は一回買ってしまえば後は使いたい放題って人材だ。鉱山の働き手として削減されるのは後回しだろう。何の影響もないってわけじゃないだろうけど。

 それでもゴーレムの仕事が増えれば、その分危険な仕事をそれが担うことになる。その分労働者の負担は下がるはず。そんな魂胆なのだろう。


「後はうちの工房で作ったゴーレムが売れたら、その儲けであの子を買い戻せる、とか……」


 ジストが遠慮がちに言った。

 奴隷の売買自体は、この世界では当たり前の事。気が引けてるように見えるのは、知り合いの肉親が奴隷になってる現状からか。それからクレハの切実な事情があるのに、自分はそれに便乗して儲けることになる負い目か。


 クレハはそんなこと織り込み済みだろうに。それから工房が儲かったとして、ジストはそこの職人のひとりに過ぎないのだから得られる金銭は限られるだろうのに。もちろん、工房に利益をもたらした者として栄誉や報酬は出るだろうけど。

 それでも負い目を感じるあたり、この少年の人の良さが出てるのかもな。



 とにかく依頼の中身はだんだん見えてきた。ゴーレム作りの手伝いか。

 当然ながら俺達にとって初めての事。何をすればいいのか、さっぱりわからない。約に立てるかどうか怪しいと言ったところ、クレハ達もそのことはわかっているという風。


「難しいことをお願いするつもりはありません。冒険者さん達にとって慣れてることと、それから魔女のリゼさんには簡単なことです」

「……と言うと?」

「ついてきてくれ。見てほしい物がある」


 今度はジストが先導して山の中を歩き始めた。採鉱現場からは離れて、森の奥へと進んでいく。

 岩肌の露出が多かった場所から、だんだん木々が鬱蒼と生い茂る風景に変わっていく。山の中でも手付かずの、森の中だ。


 道があるようには見えないけれど、ジストは迷うことなく進んでいく。通いなれた道なのだろうな。

 ジストやクレハはそれでいいけれど、俺達だけでこの道の行き来は絶対に出来ない。もしやろうとすれば、あっという間に遭難だ。


「ちょっとわかりづらいですけど、獣道があるんですね。あんまり使われてないから、葉や草にすぐに覆われて道に見えなくなっています」


 わたしにはわかりますけど。そんな風にフィアナは言った。さすが狩人。見える人間には見えるのか。


「その通りです。最初は野生動物の小さな群れが使っていたのですけど、その群れも消えてしまって……残った獣道をわたしとジストが使っています。今使っているのはふたりでだけで、そんなに頻繁にってわけでもないので、目立たないんでしょうね」

「野生動物ということは、狼か?」

「いえ。イノシシでした」


 なるほど、イノシシ。今まで森に住む野生動物といえば狼に一番遭遇してきたけど、そりゃ他の動物もいるよな。

 オークとかの怪物じゃないだけマシだ。クレハに尋ねたところ、ここはオークの生息域ではないとのこと。

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