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8-46 獣人集団

 対峙している狼獣人も、俺達の姿を見てニヤリと笑った。宿敵とか、仲間の仇とか思っているのだろうか。

 それは俺達にとっても同じだ。


「ファイヤーボール!」


 敵集団に対して特大の火球を打ち込む。しかし敵は少し後退しつつ、陣形を組みながら大きな盾を掲げてこれを防御。

 先回りをするには重くて運びにくい盾を持ってきたのは、俺の魔法対策か。陣形も、ひときわ大きく硬そうな盾を持っている兵士を先頭にしたもの。敵と激突しても持ちこたえれそうな、強固な形。


「エクスプロージョン!」


 だから、覚えたての爆発魔法を唱える。先頭にいる敵の盾に直撃するような爆発。比較的至近距離で爆発を起こしたため、爆風がこっちにも到達する。幸い風だけで、炎なんかは届かなかったけど。

 フラウが足を止めてこれを耐える。敵も無傷では済んでないだろう。爆炎が晴れたその向こう側に、黒焦げになった盾と倒れた獣人の姿が数体確認できて……。


「舐めるなよ、人間!」

「っ!」


 敵の指揮官、あの狼獣人は無事だった。同じく動ける他の獣人をけしかける。フラウに乗った俺達に、複数の敵が一気に接近してきて。


「一旦引くぞ、フラウ!」

「でもでも! 後ろにも敵が!」

「ああもう! ファイヤーボール!」


 リゼの言う通りだ。正規の追手が向こうからも攻めてきている。サキナや他の冒険者の力でなんとか食い止めると言っても、限度はあるだろう。

 引くことが許されないなら、ここを突破するしかない。


 火球を撃って敵を牽制。それから風の刃で殺す。迫ってくる兵士の一体を盾ごと切り裂く。それからすぐに、別のひとりも両断。それから……。


「こっちだ、魔法使い!」

「うわーっ!? コータ横から!」

「フラウ避けろ!」


 指揮官の獣人が、側面から飛びかかる。俺が正面向いて敵の迎撃をしている真っ最中に。こいつの対処は間に合わないから、フラウに回避を任せる。

 前と側面から敵。フラウは少し迷ってから、指揮官とは反対方向の斜め後ろにバックステップで跳んだ。直後に狼獣人の剣が、直前までフラウのいた空間を切った。


 その方向しか逃げ道はなかったのだけど、多少無理な跳躍だった。フラウは空中でバランスを崩して転倒。そして上に乗っていたリゼや俺も投げ出される。


「へぶっ!」

「ぐえっ! おいリゼ、無事か!?」

「うう…………このまま寝てたい……」

「戦場で寝るやつがいるか! ていうか戦場じゃなくても風邪ひくぞ! 立て!」


 地面に投げ出されたとはいえ、雪が降り積もる道路だ。クッション代わりになって痛みはほとんどない。雪は冷たくて、水分が体の中に染み込んでいく感覚は気持ち悪いけど、そこに文句を言うのは贅沢か。

 いつぞやみたいに、体がずぶ濡れになって動けなくなるのはまずい。リゼがすぐに拾ってくれて、肩に乗せられた。


「フラウは?」

「あそこ! 助けないと…………」


 リゼが言いかけて、こっちに迫ってくる兵士に気づく。狼の背中に乗っている時と比べて目線が下がり、兵士がやたらと大柄で威圧的にみえる。それが盾を構えて突進してきた。


「ファイヤーアロー!」


 そいつの頭上に大量の炎の矢を作り出し、一気に落とす。一本だけだったら盾で防がれるから、あらゆる方向から蜂の巣に。残酷かもしれないけど、仕方ない。

 その兵士が絶命してバタリと倒れても、すぐに次の兵士がやってくる。そいつは剣を構えて突進してきた。それを迎え撃てば、また次の獣人の兵だ。


 その兵士の向こう側で、指揮官の狼獣人がフラウに迫っているのが見えた。



――――――――――――――――――――



 フラウは雪の上に力なく倒れていた。右の後ろ足がひどく痛くて、立ち上がれない。転倒した時に捻ったのだろうか。

 コータとリゼはどこだろう。探さないと。戦場でひとりぼっちはまずい。特に、戦うことができない自分には。


 自分に向かって歩いてくる人影。味方じゃない。あいつは。家に押しかけてディフェリアを殺した…………。


「ふん。やたらと人間に懐いている狼だな。悪いが死んでもらうぞ。足が無くなれば、それだけ援軍が追いつきやすい」


 狼獣人が剣を振り上げ、フラウの首に向かって下ろす。足が痛くて動かないのを、無理して身をよじって回避。それでも避けきれないと悟って、人間の姿に急いで戻る。

 頭のすぐ上を剣が通り過ぎて、地面を覆う雪に刺さる。体が小さくなった分で、ぎりぎり避けられた。

 そのまま起き上がろうとしたけど、無理だった。足の痛みで、この場から逃げることもできない。


 人間の姿になったことで、裸の素肌に雪が触れて冷たい。当然ながらここはひどく寒くて、足の痛みが無くても満足に動けない。

 一撃を避けられても、男は特になにも思っていないようだ。次は外さない。目の前にいるのは、裸の無力な少女。


「ほお? あの時のガキか。ワーウルフって奴か。たしかにあの街には人狼の家族がいるって聞いてたが……お前だったとはな」


 裸の体を両腕で隠し、怯えたように見上げているフラウ。それを見て、狼人狼は嘲るように笑う。


「ワーウルフ。里に引きこもるか、人に紛れて生きるしかない少数民族が。さっさと滅びればいいものを」


 恐ろしい事を言いながら、その獣人は剣を振り上げる。今度こそフラウを殺すために。


「俺達の国に人狼はいらない。お前をここで殺して、街に戻ったらお前の家族も殺す。人狼なんかと同じ場所にいれるか」


 そこまで言われているのに、フラウは動けなかった。恐怖のために。自分に向いている、純粋な殺意のために。

 このまま自分は死ぬんだ。そう覚悟した。

 その時。


「ちっ!」


 男は剣を振り下ろさず、代わりに盾を構えた。とある方向から矢が飛んできたからだ。

 盾に矢が刺さって、男は無傷。けれどもう、動けない少女に構っている暇はなくなった。明確な敵がこちらを攻撃したということなのだから。


「フラウさん! 無事ですか!?」


 ユーリにのったフィアナが駆けつけて声をかける。そして再度、矢を放つ。


「ガキが! 調子に乗るなよ! ここは戦場だ! 子供の遊び場じゃねえ!」

「知ってます。だから、わたし達はあなたを殺しに来ました。女の子を怖がらせて遊ぶなんて、あなたもここにいる資格は無いと思います」


 二本目の矢も防いだ獣人は、フィアナに対しても罵声を投げる。けれどフィアナは、それに対して冷静に答えた。


 命の恩人。日の光に照らされているフィアナと、それを運ぶユーリ。

 フラウにはそれが、とても美しいものに見えた。

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