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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第8章 北国へ

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8-41 旅立つ決意

 家族や俺達客人に看取られて亡くなったのだから、良い最後だったと言えるだろう。もちろん、残された家族の悲しみは当然あるだろうけれど。

 それでもこの世界この状況で、こうやって静かに旅立てたんだ。十分に幸せなことと言えるはず。



「埋葬、しなきゃいけない」


 ふとユーリがこう言った。そうだな。人が死んだのだから、弔わないと。

 隠れている状況だから、人目につくような葬儀をあげることはできない。けれど、遺体をこのまま放置しておくわけにはいかない。せめて土の中に埋めて、安らかに眠ってもらおう。


 時間がないから、棺を用意することもできなかった。地面に直接埋めることになる。弔いとしてはかなり簡素な物になるけれど、フラウの両親に相談したところやって欲しいと言われた。

 あっさり了承が得られたのは意外だったけど、でもよく考えたら納得できることでもある。

 この街はもうすぐ焦土になる。弔われることなく死にゆく者の方が圧倒的に多い。もしホムバモルの壊滅が免れるなら、その時に改めて埋葬してあげればいいだけの話。



 夜中、周りが寝静まった頃にフラーリの遺体を運び出す。埋葬場所は、フラウの家の近くだ。

 昨日は殺しの現場ということで、兵士達が調査をしていた。けれど当然、なにも見つからないのだろう。本来の目的である葉も全部持ち出してるし。


 だから今は無人。深夜だから、他の人の目もない。

 家の裏手に穴を掘る。労力はかかるけど、二人分掘った。フラーリと、それからディフェリアの分だ。雪の中に隠してあった彼女の遺体も一緒に埋める。


 男手が少ないっていうのは大変だな。俺は役に立たないし。フラウの父が、穴掘りは一番頑張っていた。リゼは少しだけ穴掘りをして、すぐにバテてしまった。使い魔と主人揃って役立たずだ。正直すまないと思う。



 寒い気候もあって、ディフェリアの遺体は幸いにして腐敗は進んでいなかった。とはいえ故郷から遠く離れた場所に、こんな風に埋葬するのは少し気が引けた。


「ありがとう、ディフェリアさん。わたしの友達……安らかに眠ってください……」


 フラウの別れの言葉を聞きながら、ディフェリアの遺体に土を被せていく。それからフラーリの方にも。


「わたしの大好きなおばあちゃん。本当にありがとう……」



 この世界の信仰については、未だに俺はよくわかっていない。開闢神なるものが何なのか。宗教的な決まりや作法がどういうものなのか。

 けれど死者を送る時の習わしは、俺の知っている宗教と似たところがあるらしい。


 フラウの父親が、死者を送る祈りの言葉を墓の前で唱えている。ここが墓だと示すのは、墓標代わりの小さな木の枝だけ。

 改めて見ても寂しい墓だけど、俺達にできる精一杯だ。死者への敬意は最大限に払っている。




「あの。これは誰に言えばいいかわからないんだけど…………わたしをこの街から出して貰えないかな……」


 父の祈りを聞きながら、フラウがリゼに話しかける。どう切り出せばいいか悩んでいたことを、フラウの方から聞かれて少し戸惑った。


「昨日の晩、お父さんから話があったの。この街が……もうすぐなくなるって。それで、わたしだけでも街を出てもいいって」


 祖母の世話があるから、その時は出ていけないと思っていた。けど、その祖母も亡くなった。

 だから「もういい」なのかな。


「この街はわたしの故郷だけど……旅に出るってことは、お父さんやお母さんと離れるってことだけど……でも、このまま街と一緒に死ぬのは嫌かなって……」

「……俺達と一緒に行くなら、危険な目にも遭うぞ? この前の怖い獣人みたいな奴にも、大勢会うかもしれない。……それか、もっとあくどい奴も何度も見てきた」


 金儲けのために村をひとつ滅ぼした男。死者を蘇らせ冒涜する禁忌を犯した者達。そんな奴の話しを簡単にすれば、フラウは目を見開き、少しだけ戸惑う様子を見せた。

 ちょっと失敗したかもしれない。自分が死ぬという運命を前に、フラウには選択肢が無い。そんな中で、わざわざ怖がらせる必要は薄い。


「フラウ、大丈夫。みんなで協力すれば、大体の危険は乗り越えられる」

「そうだよフラウちゃん。それにわたしは優秀な魔女だしね!」


 俺が煽った不安をフォローするように、ユーリとリゼがフラウを励ます。まあ確かに、俺達なら大体の難事は切り抜けられると思う。自惚れてるわけじゃないけど、俺の魔法は強いし。


「フラウさん。良ければ一緒に行きましょう。わたしも、フラウさんの事を助けたいです」


 フィアナが、きっぱりと言い切った。個人的な恋愛感情は別として、目の前の少女を助けたいという気持ちも強い。

 フラウはそんなフィアナの様子を見て、それからふっと笑顔を見せた。


「わかったわ。フィアナ。あなたに守ってもらうことにする」

「ふぇ!? あ、はい! 任せてください!」


 恋のライバルに対する当てつけなのだろうか。フィアナは少し戸惑った様子を見せながら、それでも努力するという姿勢を見せる。

 人間関係に不安があるのは変わらないけど、とりあえずの方針は決まった。そうだ。この後の方針はフラウにも伝えないとな。


「早速だけど、明日街を出る」


 日付はもう変わってるだろうか、実質的には今日だけど。そこまで急な事だとは思ってなかったのだろう。

 けれどフラウは、葉の偽装輸送の件について思い出したようだ。カイや商隊の到着が明日の昼だというのも。その話し合いの場にいたから、フラウはよく知っているはず。色々あって頭から抜けていただけ。


「知ってると思うけど、改めて説明する。ハスパレの葉を輸送してると見せかけた偽の商隊が、明日の昼にこの街の門にやってくる。カイもそこにいる。俺達はそこでひと暴れして、街から一目散に逃げる」


 相当荒っぽい旅立ち。この街に真正面から反逆する行為。少女が故郷を出るにしては、少々派手すぎるとは思う。それに危険だし。

 門を守る兵士はそんなに多くはないだろう。けれど門で事件が起こったとなれば、城の兵士が大挙して押し寄せてくると思われる。そして、逃げ出した俺達を追う。


 まあ、危険だよな。フラウはワーウルフだから、足としての活躍を期待される場面もあるだろう。負担は大きい。


 そしてそのまま戦争に突入する可能性だってある。マウグハの街ではすでに迎撃の準備が行われてるはず。この街から出たから安全というわけではない。


 けれどフラウは覚悟を決めたようだった。やる。そう短く俺達に伝えた。

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