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8-39 逃げる勇気

 翌日。親切に泊めてくれた一家の方々に丁重にお礼を言いつつ、俺達は街の中心部へと向かう。お城のある方向だけど、別にホムバモル政府と事を構えるつもりはない。単に宿が多いから探すのに便利とか、そういう理由だ。


 例の獣人の男とか、レオナリアもこの近くにいるはず。見つかるのはまずいけれど、探査魔法で居場所は把握できる。奴らは今、城の中にいるから俺達が見つかる心配はない。あいかわらず便利な魔法だ。


 フラウとは、未だに話せていない。話して何が変わるというわけではないけれど、話さないのもまた不義理というものだろう。あの一家も今夜はどこかの宿に泊まるはず。探査魔法で探して、食事時にでも会いに行くかな。

 フラウの家の様子も、遠目でだけど少し見てみた。複数の獣人と兵士が家の中を捜索しているのがわかった。近づくのは無理そうだな。ディフェリアの遺体をなんとかしなきゃいけないけど、今は様子見だ。


 あの獣人の男の横暴とはいえ、俺達は城の協力者を殺した犯罪者なのは間違いない。探されているのは間違いない。目立つ行動は避けなきゃいけない。見つかったら問答無用で、街中の兵士が捕縛にかかるだろう。あるいは攻撃を受けて殺されるかも。俺達の魔法で抵抗して逃げ切ることは可能かもしれないけれど、避けたいことなのは変わりない。やがてやって来るカイの支援もやりにくくなるし。


 というわけで、リゼは今日もローブを脱いで普通の町娘の格好をしている。あの獣人はリゼの特徴を城に伝えているだろうし、それはきっとぬいぐるみの使い魔を連れた魔女というものだろう。だから、そんな格好で外を歩くと危険だ。俺はリゼのカバンの中に隠れて、中から様子を伺う。リゼに指示を出すことは難しいけど、肩に乗っかると使い魔を連れていると一発でわかるから危険だ。

 テレパシーみたいなのが使えないかと尋ねてみたけれど、あいにくその魔法は知らないらしい。存在はするのかもしれないけれど。


 それにしても、元々お尋ね者なのに、さらに追われることになるとは。まあ今回のに関しては、リゼは悪くないけれど。



「みんな、楽しそうだね」

「……そうだな」

「みんな、この街が滅ぶのは知ってるのかな?」

「たぶんな」


 ここは街の中心部の市場。外は寒いけど、それでも人は多くて活気に溢れた場所だ。


 買い出しついでに、街や人々の状況を見ておこうとやって来た。フラウの父の言うことを信用してないわけじゃない。けれど街の住民達が、滅びの道を受け入れて穏やかに日々を暮らしているというのは、やはり信じ難いことだった。


 俺達が目にしたのは、まさにその光景。

 ここの住民の日常をこれまで見てきたわけじゃない。けれど世界中のどこにでもありそうな、平和そうな人々の様子がそこにはあった。

 街ゆく人の世間話に耳をすましてみると、確かに戦争関連の話題は聞こえる。城主や獣人の客人に関する話題も。つまりこの人達は、全て理解している。




「信じるしかないねー」

「そうだな。でも、どうすればいいんだろうな」


 市場の外で、リゼは腰を下ろして少し休憩。鞄を抱くようにして持っているのは、中の俺と会話するため。


「フラウちゃんのこと?」


 どうすればいいか。現状の一番の懸念事項について、リゼも悩んでいる様子だった。それは俺も同じだけど、目の前の光景についても放っておくわけにはいかなかった。


「それもあるけど、この街のことも。……リゼ。お前ならどうする? 自分の住んでる街が破滅するってなったら」

「逃げる」

「だろうな」

「多少周りに迷惑かけても、自分が生き残ることを優先するよー。死ぬのは嫌だしね」

「……そうだな」



 そして、実際にこいつはそうしてきた。街の破滅ではなく、自分の破滅に対して逃げの手を打った。家族や、魔導書の持ち主や、俺を巻き込んでも特に悪びれない。

 その所業は邪悪そのものかもしれないけれど、運命に対して諦めず立ち向かおうとする姿勢は嫌いじゃない。いや、立ち向かうのではなく逃げたのだけど、それは別にいいだろう。


 名門の伝統。魔法社会のしきたり。何百年と続いてきた決まりごとに、女の子がひとりで反抗したんだ。そのための手が逃げなのは仕方がない。



 リゼは無能だしバカだけど、こいつなりの強さはあると思う。


 ここの住民にだって信念はあるのだろう。滅びの運命を受け入れるのだって、それは強さだ。けれど同じ強さなら、リゼみたいに逃げようとする強さの方が俺は好きだ。

 なんてこった。この俺が、よりによってリゼのやり方に賛同する日が来るとは。



「ねえコータ。フラウちゃんは、生き残ろうって考えてるかな?」

「どうかな。行動力だけはある奴だけど。他の考えまでは読めないな」

「もしこの街から逃げたいって言ったら、連れて行くべきかな。わたし達には迷惑がかかるけど」


 それはきっと、リゼなりの敬意の払い方なんだと思う。自分と似た道を進もうとする者がいれば、助けてあげたいとか。


「そうだな。このまま残していくのは、後味悪いもんな。でもフラウとユーリが仲良くするたびに、お前はフィアナから八つ当たりされるぞ。それでもいいのか?」

「それは嫌」

「おい」


 そこの結論はでないか。フィアナははっきりとは口にしないけど、フラウの同行は反対だろうし。




「わたしは別に良いと思います! フラウさん、連れて行きましょう! いえ、たとえあの人が嫌がっても連れて行きます!」

「うおっ!? フィアナちゃんどうしたのかな?」


 この子の説得がまた難しいと思いながら宿屋に帰る。けれど俺達が外に出ている間に、フィアナもまた決意を固めていたらしかった。


「フラウさんを連れて行った方が、ユーリくんは喜びます。いえ、だからどうってわけじゃないですけど! 仲間が喜ぶことはやるべきだと!」

「わかった! わかったから! 苦しいからその手を離して……」


 かなり悩んでから出した結論なんだろう。フィアナの目は本気だったし、リゼの胸ぐらを掴みながら力説している。たぶん本人は無意識でやっている。ユーリはその様子を、よくわからないとという風に眺めていた。いやいや。お前が一番、深く関わってる問題なんだぞ。


 感情が高ぶるとリゼに当たるというこの子の変な癖は、なんとか発動を回避するようにしなきゃな。


 とはいえ、方針は決まった。あとはフラウの意思が問題だけど、それは明日尋ねることにしよう。

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