表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第8章 北国へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

210/515

8-38 旅の仲間に

 ホムバモルがどれだけ良い場所なのかは、俺達だってここを訪れて初めて知った。

 この家族もそうだったのだろう。そして、ここを終の住処と決めた。


「俺達は一度故郷を捨てた。それについて後悔は無い。けれど、二度目の故郷は捨てたくはない。ここを出たところで、行く宛があるわけでもない。……もう一度旅人として放浪する気にもなれない」

「だから、街と一緒に死ぬってことですか?」


 その考えが俺には理解しきれず、尋ねる。けれどその質問は無意味だ。この男は腹を決めている。フラウの母もそうなんだろう。

 それからここの住民も。ワーウルフはこの家族以外はいないだろうけれど、他の住民もそれぞれに理由があって、この街に留まるつもりなんだろう。


 獣人と人間が調和した街。これ以上住みやすい場所は他にない。ここを捨てることはできない。今更旅に出ることなんてできない。ここにはたくさんの知り合いがいる。城主様には恩がある。彼を見捨てられない。そばにいてやりたい。

 そんな感情。きっと、ここの住民にしかわからない事。



「それに、俺達が一丸となって街を守ろうとすれば、滅びの運命は避けられるかもしれないしな」


 押し黙ってしまった俺達に、ワーウルフの男はそう言って笑う。そんな事は万に一つぐらいの確率でしかありえない。自分達の命を使ってやる賭けではない。




「あの。フラウも、一緒に死ぬつもり、なんですか?」


 ここで、俺のパーティーで俺以外の誰かが初めて口を開いた。

 ユーリだ。そもそもはこいつが、フラーリを始めとしてこの家族を避難させたかったがために、俺達はここまで来た。


「フラウは、ここが故郷です。ここ以外の場所を知りません。もっといい場所を探すために、一度ぐらいは……故郷を捨ててもいい……はず」


 故郷を捨てる。その言葉はさすがに、ユーリでも言いよどんだ。こいつもワーウルフの里を捨てて旅に出た男なわけで、思うところはあるのだろう。しかしその感覚が他のワーウルフに理解されるわけではないのも、わかっている。

 フラウの父は、それを聞いて初めて悩む様子を見せた。


「そこだ。俺達だって、一人娘が死ぬのを許容できるわけじゃない。ここから追い出して一人旅をさせるのも、正しいとは思わないがな。旅をするには、あいつは小さいし世間を知らない」


 行動力だけはあるけれど。思い出したように付け加えた。ホムバモルから抜け出してマウグハまで葉を持ってくるだけの事はやれる子ではある。


「だから、どうすればいいのかは悩んでいる。俺達家族で一緒に旅をするのは現実的じゃない。俺も女房も、この街に馴染みすぎた。それに前に旅に出たときほど若くはない」



 遠回しな言い方だけど、それは俺達への要望だった。フラウを、俺達の旅に加えてほしいと。そしてどこか新しい、彼女が住める場所を探してほしい、と。フラウと仲がいいユーリがいる事も、彼らにとっては好都合なのだろう。


 じゃあ、俺達にとってはといえば…………。


 ふと視線を落とす。フィアナがリゼの手を握っている。それも、なかなかの力を込めて。きっと無意識でやってて、本人には悪気はないのだろう。場の雰囲気を読んで、リゼは痛いと叫ぶのをなんとか堪えているけれど。


 フラウが旅に加わったら、パーティー内の人間関係がややこしくなるのは確実。正直、それは避けたい。

 俺達は頻繁に戦闘に巻き込まれるし、戦場では余計な私情は無い方がいい。フィアナがユーリの事を好きってだけならいいとして、三角関係になると途端にややこしくなる。


 それに、パーティーメンバーの変更の決定権は俺には無い。リーダーはカイだ。別行動中だから、俺が臨時で指揮を取っているだけ。ただカイの性格上、こういう頼み事は断らない気もするけれど。


 それと、そのカイとの合流方法も問題だ。この街の門で大暴れして、そのまま逃げ出す。当然ながら我らがリーダーに、フラウの合流の可否を相談する暇はない。

 連れて行くにしても、その旅立ちはとんでもなく荒っぽい物になる。



 その辺りの事情を全て伝えるわけにもいかず、俺は返答をごまかした。時間稼ぎの意味もあって、フラウの意見も聞いておきたいと言ってみた。明日には彼女も落ち着きを取り戻すだろう。それとなく尋ねてみようか。滅びゆくこの街を捨てて、好きな男の子と一緒に旅に出たいかと。

 もし俺がその立場なら、即座についていくと答えるな。俺には好きな子はいないけれど。




「わ、わたしは……あの……フラウさんを見殺しにはできないんですけど……でも……」


 フィアナは良心と自分の願望の間で揺れ動いているらしい。なおかつ、秘めた恋心を悟られないように気持ちを伝えるにはどうすればいいか、苦心しながら心中を話そうとしている。まあ、一切秘められてないのだけど。それはいいとして。


 フラウの父親とのお話しは終わり、俺達はあてがわれた部屋に戻った。部屋というよりは物置だな。まあ、普通の民家に一晩泊めてもらえるなら、こういう場所になるのは仕方ないだろう。

 フラウを俺達で引き取るかどうかの問題。俺は答えを避けたし、簡単に答えられないのは他のみんなも一緒のようだ。


 都市から一家を連れて行くと最初から言ってるユーリは、賛成なのは揺らがないだろうけど。自分に向けられた感情に気付いてないからって、呑気な奴だ。羨ましい。


 リゼはというと、フィアナから少し離れた場所に座って無言を貫いていた。ここでフラウを連れて行くと言えば、またフィアナが自分をつねったり叩いたりするだろうから。おおっぴらに、やだー! とか騒いだりしないあたり、まだ落ち着きがある方と言える。

 けれどさっきから、体が細かくガタガタと震えていた。そんなに、人間関係が拗れてる状況に飛び込むのが嫌なのか。いやだろうけど。


 つまりこいつの希望としては、連れて行きたくないのが本音に見える。



 一方で俺達全員の共通した意見として、あの少女をこのまま見殺しにはしたくないのは間違いない。

 さっき俺は、フラウの意見を聞いて判断したいと答えて逃げた。実際には、フラウの意見がどうであれ、俺達の根本的な考えは変わらないと思う。



 答えは出ないまま、夜も遅くなってきた。仕方がない。今夜は寝よう。結論は明日出そう。出なければ、その次の日に。

 さらに翌日ということは無いだろう。その日には、カイやルファがこの街の門にたどり着く。そして俺達は戦いつつ、街を出る。その時までに答えを出さないと。


 出せる気がしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ