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3-4 オークの村

 ――オオオオオオ!


 最初はそれがなんだかわからなかった。けれど、聞いたことのある声だとすぐに気づく。そうだ、これはオークの声だ。


 ――オオオオオオオオオ!


 その声が、いくつも重なって聞こえてくる。なぜ複数聞こえるのかといえば、オークが複数いるからだ。簡単な話だ。

 倒れた男を目にして、周りの冒険者たちが立ち上がって声をあげる。オークの襲撃だと。それから、悲鳴が聞こえた。断末魔と言ってもいいだろう。誰のだろうか。さっきのナンパ男のような冒険者か、それか……。


 ここは村の中央。オークが襲ってくるなら、ここよりも先に村の端が被害に遭うはず。直後にこの考えを裏付けるように、向こう側からこっちに大勢の人間が逃げるように走ってきた。

 そのさらに向こうには、先日対峙したような巨躯の怪物が大量に迫ってきている。ゆっくりと隊列を組むようにまとまって侵攻するそれは、逃げ遅れたり走るのが遅い人間を容赦なく殺していく。手にしている棍棒が振り下ろされ、ひとりの女がぐしゃりと音を立てて潰れる。別のオークが棍棒を振るい小さな子供を殴打。その子はぶっ飛ばされて近くの建物の石壁に激突して赤い模様を作る。その建物の中に逃げ込んだ人間もいるけれど、オークはこれを見逃すつもりはなく壁を腕力で力任せに破壊して建物の中に入っていく。また新しい悲鳴が上がった。


「こいつはまずいな……よし、行くぞ」

 カイが俺たちに立ち上がるように促す。正確にはリゼにだけ、なんだけど。俺はリゼの肩に乗ってるだけだし、フィアナは既に立って弓を構えている。

 周りの冒険者もそれぞれ戦闘態勢に入り、剣や槍で武装してる者はオークの群れの方へと走っていき弓や魔法を使う者はこれを援護している。村人たちを守るためか、武功を立てるため。あるいはその両方。

 何人かの冒険者は、情けなくも逃げ出している。


「あわわわわ…………どうしよう戦わなきゃ」

 そして我らのリゼはといえば、ものすごく慌てながらも立ち上がって鞄を肩にかける。とりあえず動けたことは立派だ。実際戦うのは俺なんだけどな。

「カイ、どうすればいいですか?」

「正直わからない。数が多すぎる。十体二十体なら相手して勝てないこともないけれど、さすがにこれは……経験がない。…………もしかすると逃げたほうが賢いかも」

「そんな……」

 たしかに逃げ出した冒険者たちもいた。そのほうが正しい選択だというのだろうか。でも、村人たちを見捨てることはできない。

 その村人たちは逃げ続け、俺たちの横を通りながらオークの進行方向と逆へと走っていく。そしてこちらにはそのオークの群れが迫ってきており。


「悠長に考えてる暇もないか。やるだけやってみよう!」

「炎よ集え。燃やし、砕け。ファイヤーボール!」

 剣を構えるカイの隣で俺は詠唱。特大のファイヤーボールがオークの一体に向けて飛んでいき、その頭部を一瞬で焼き尽くす。頭だけが黒焦げの炭になったオークはそのまま絶命し倒れる。

「な……その威力は……どうやってそんな魔力を手に入れた?」

「俺も知らないんです! ファイヤーボール!」

 二発目も命中。オークと近接戦をしている奴らを巻き添えにしないように、背の高いオークの頭だけを狙う。うまく行っていると思う。


 カイは俺の少し前に立ち、接近してくるオークに備えている。フィアナも矢を敵の頭を狙って射掛けていて、他の魔法使いや弓使いと協力して既に数体を討ち果たしている。リゼはまあ、俺の足場としてそこに立ってて、逃げ出したりしないだけで役に立ってると言えなくもない。

 あとひとり。ユーリは俺たちの戦いを見ているだけだった。格好は魔法使いだから、俺みたいに援護をするのかと思ったが、動く様子はない。周囲を警戒している様子ではあるから、なにかに備えているとは思うけれど。


 俺たちは確実にオークを殺しているが、敵の数が多すぎた。明確にこちらを攻撃してくる相手を認識すれば当然向こうも反撃をしてくる。

 前線で戦っている戦士のひとりが、オークに頭を握られ、潰された。奴ら、人の頭をトマトみたいに簡単に握り潰すだけの握力があるらしい。あの体だから不思議ではないけど。別の冒険者は体を持ち上げられ地面に叩きつけられ絶命。女の剣士がひとり、やはりオークに持ち上げられたが彼女の場合は殺されず、オークはそれを抱えたまま後方に撤退していった。略奪行為とか、戦利品とかそういうものなんだろう。

 また、誰かの叫びが聞こえた。冒険者なのか村人なのかはわからない。ただ、その人物は生きたまま首をもがれたらしく、オークが無造作に投げた生首がこちらに転がってくる。


「ひいぃっ!」

 生首を目にしたリゼが思わず飛び退く。

「おい! 逃げたりはするんじゃないぞ。俺たちで村を守らないと」

「いや、ここは引いた方がいいかも、なっ!」

 オークの一体が走ってこっちに接近してきた。これをカイが相手しようと一歩前に出る。そのオークは棍棒ではなく剣を持っていて、それを力任せにカイに振り下ろした。まともに剣で受けると死ぬとカイは判断したようで、わずかに横にステップを踏んでこれを回避。反撃とばかりにオークの後ろにまわって膝の裏を切る。

 これによってオークは立っていられなくなり姿勢を崩したところを、低い位置に来た首を再びカイは切り裂き絶命させた。


「カイ。まずいよ。後ろからも来る」

 オークの進行に押されているわけで、接近戦は避けたい俺たちは後ずさりしていく。その最中にユーリが急に口を開いた。その言葉に俺たちは背後を見る。オークの姿はない。だけどそっちにも火の手が上がっていて、悲鳴や戦闘の音が聞こえてきた。

「村全体が囲まれてる?」

「たぶんそう」

「わかった。逃げよう。お前たちも来てくれ」


 一旦建物の陰に隠れて体勢を立て直そうとしていたところ、カイはそんな提案をしてきた。でも、それは。


「ちょ、ちょっと待ってください! まだ逃げ遅れた人が! それに連れ去られた人も!」


 あっさりと撤退を決意したカイに思わず抗議の声が出る。さっきの剣士の女みたいに連れ去られた人はまだいるだろうしそれを放っておくわけにはいかない。それに、家や建物の中に逃げ込んだ人はそこから出られなくなっている。オークはお構いなしに建物を壊して中の人間をあっさりと殺してしまうだろう。その人たちを助けなければ。


「だめだ。もう手遅れだ。助けることはできない」

「でも! ギルドの仕事は人助けのためだって言ったじゃないですか!」

「そうだよ。でも救えない命はある。……それでも、今逃げればお前たちは救える」


 周りを見る。オークに向かっていった他の冒険者のうち、前衛職はみんな殺されたか連れ去られたか、あるいは勝てないと見て後退している。後衛は被害が少ないが、このままオークに接近されるのは困るからやはりこの場を離脱しようとしている。けれど、後退したその先にもオークはいるんだろう。

 オークはなおもゆっくりとこちらに迫ってきている。それも多数が。確かに、このまま戦っても勝ち目はないだろう。

「一緒に来てくれ。今なら生き延びられる」

「…………逃げよう、コータ? 死にたくなんてないでしょう?」

 リゼが、気を遣うかのような優しい声で促した。フィアナは、無言でこっちを見上げながら頷く。

 多数決か。ああ、くそ。

「わかった。逃げよう…………」

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