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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第8章 北国へ

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8-37 滅びの運命

 自分が留守にしている間に家が武装した集団に襲われて、娘が怖い目に遭った上に目の前で知っている獣人が死んだ。フラウの母親はかなりのショックを受けたらしい。

 しかしここは母親。俺達の説明を受けて、家族の安全を守るために最善の策を取ろうとしてくれた。



 というわけで今俺達は、フラウの家から少し離れた場所にある家庭にお邪魔していた。つい先日、この家のお爺さんが亡くなったそうだ。その時既に病に冒されていたフラーリに看取られたわけではないが、生前元気な時分はよく交流があったという。


 老婆ひとりを受け入れるだけの余裕のある家庭だ。フラウの母が事情を説明すれば、快く預かると言ってくれた。

 事情とは、他所から来た獣人の集団とトラブルになったとかだ。どうやら解放同盟の獣人は、この街の住民全体から、なんとなく嫌われている存在らしい。


 ディフェリアの遺体の処理をどうすればいいかは、未だに決まっていない。とりあえずフラウの家の庭に、雪を山の形に積んでその中に埋めて隠した。

 どこかで、ちゃんと埋葬してあげなきゃな。



 さすがにこのお宅に、俺達やフラウの家族で丸ごとお世話になる訳にはいかない。家の住民は気にしなくて良いと言ってくれたけれど。とりあえず今夜だけは泊まって、明日以降は別の宿を探すことにした。

 俺達は旅人だから宿屋なんかに泊まればいい。フラウの家庭も、数日の間はそうするつもりらしい。



「すまないな。フラウのせいで、面倒ごとに巻き込んでしまった」

「いえ。大丈夫です。慣れたことですし。なので頭を上げてください」


 フラウは泣き止みはしたけど、呆然自失の状態。このお宅の一室をあてがわれて、そこで母親に寄り添ってもらっている状態だ。

 俺達はといえば、フラウの父と対面している。そして彼は俺達に向かって頭を下げた。


 こうなった原因は、フラウが葉を持ち込んだ事にある。父親はその事を悪く思っているのだろう。もちろんそれはひとつの側面だけど、俺達だって危険を承知でやったことだ。


 俺達が本当にフラウの事を考えているならば、住んでいる都市を欺いて葉を持ち込むなんて事は止めさせるべきだっただろう。それが年長者の務めというもの。


 そういう意味では、ディフェリアの言う通りにしてた方が良かったのかもな。あの人も正しかった。そして、意見が別れていたフラウのために命を落とした。彼女にとっては、フラウや葉を庇って死ぬ事も正しいことだったのかも。



 とにかく、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。今後の方針を決めないと。

 家の捜索をしているらしい城の兵士達や、あの狼獣人についてもそうだけど、もっと巨視的で将来的な問題について結論を出さないといけない。

 つまり、戦争についてだ。



「あの。こう言うのもなんですけれど、この都市は近い内に滅びる可能性があるってご存知でしょうか……?」


 気になっていた事。この父親は、戦争があることは知っているらしい。この都市が独立を画策していることも。しかしそれにしては、かなり悠長な態度を取り続けているように見える。彼だけではなく、この街の住民が全体的にだ。


 僻地にある城塞都市が、ひとつの巨大な国を相手に戦争をする。僻地故に攻め込まれたとしても地の利はあるだろうけれど、それでも戦力差は圧倒的だ。首都は将来の禍根を残さないために、この都市を焦土にしてしまうだろう。住民も多くが犠牲になるだろう。


 このことを、ホムバモルの住民が理解しているのかどうか。俺はどうも、違うんじゃないかと思えて仕方ない。フラウの家族にしてもご近所さんにしても、それに対する緊迫感が見えてこない。自分達の暮らしが永遠に続く。そう思っているように見える。

 戦争に備えて葉を集めている、あの獣人達の方が現実を見れているとすら思える。



 だから俺は、これを機会に訊いてみた。必ず滅びるのではなく、可能性があるという風にぼかしたけれど。

 そして驚いた事に、フラウの父はそれを承知していた。


「そうだな。春になれば、この街は滅びる。知っている。街のみんなが知っている」

「じゃあ、なんで……逃げようとはしないんですか? ああ、フラーリさんを連れて、街の外に出るのは無理だから……」

「それもある。けど、それだけじゃない」


 あの老婆が理由なら、他の家庭が逃げ出していない現状に説明がつかない。自分でも言ってから気付いた。

 目の前のワーウルフの男は戸惑う俺達を見て少し微笑み、説明を続ける。


「城主様がうまく交渉して、戦争を回避できるかもしれないという期待はある。向こうだって、無駄に兵士が死ぬのを良しとはしないだろう。けど……もしこの都市が攻め込まれて滅びるとしても、住民のほとんどは都市と運命を共にするだろう」

「ホムバモルと一緒に死ぬということですか? でも、どうして」

「恩があるからね。俺達のようなよそ者の、人間じゃない種族でも受け入れてくれた恩」




 その昔、ワーウルフの里を追い出された若い夫婦がいた。女の方の母親も、夫婦に付いていった。

 追い出されたのは、里の掟に背いたから。どんな掟なのかは詳しくは教えてもらっていないけど、身分違いの恋とからしい。


 ワーウルフは人間ではない。人間ではない者が、人間の都市で生きていくのは容易ではない。獣人の場合なんかと似たような差別は確かに存在する。

 いずれ出ていく事が決まっている旅人なら別としても。


 見た目は人間だから、己の種族を隠して生きていく事は不可能ではない。とはいえ、それは当人達には負担となる。本当の自分を明かせない辛さ。その上、もし正体が明らかになった時の非難を考えると、それは得策ではない。


 人間と異なる種族が人間の都市に住む場合、これらの困難を乗り越えなければならない。また、そうしてきた。時間をかければ、異種族を受け入れる人間も出てくるだろう。

 あるいは獣人街のように、同じ種族で固まって生きようとする。ワーウルフの場合は里を出た同族があまりに少ないから、それも望めないけれど。


 この夫婦の場合はさらに、子供を作るという願望があった。いずれ産まれてくる子供には苦労をかけたくない。だからワーウルフでも住みやすく、受け入れてくれる場所を探さねばならなかった。

 この家族はしばらく旅を続けて、ホムバモルへとたどり着く。まさしくここが、理想の街だった。

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