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8-27 仲直りの約束

 ホムバモルは山と海に囲まれた厳しい環境の街。外との交流も少ない。他の都市との交易も少ないため、決して豊かな土地ではないにも関わらず、自給自足に近い生活を送らねばならない街。

 そんな街が立派な城塞都市にまで発展できたのは、海産物や氷の輸出で儲けたからだけではない。交易量が限られているのだから当然か。


 ホムバモルは、これを治める権力者が民に寄り添うことで力をつけてきた。

 領主自らが田畑を耕し、民の模範となる。民と同じ卓で同じ食事をして、広く意見を聞く。困り事があれば放っておくことはしない。解決が難しい問題ならば、どうすればいいのかを皆で良く考える。


 土地の最高権力者がこうなのだから、住民も自然とそれを真似るようになる。隣人は仲間。普段から助け合うのが当然のこと。

 人間とか獣人とか、その他どんな種族だから助け合わないなんて言っていたら、生きていけない環境だった。


 そういう事を昔から続けていった結果、厳しい環境の土地ながらも人口は増えていった。街はやがて城塞都市になったが、代々の権力者は先祖の方針を忠実に守り続けた。民に寄り添う。助け合う。権力で押さえつけたりはしない。



「そんな場所なのよ、ホムバモルは。みんな仲が良くて、笑いながら暮らしている。もちろん、暖かく豊かな土地への渇望はあるけれど」


 渇望。何気なく使われたその言葉の強さに、少しばかり寒気を覚える。

 昔から貧しい土地で助け合いながら暮らしてきた人間にとって、豊かな土地というのは数百年間ほしいと思い続けていたもの。


 とはいえそんな土地だからこそ、里を追われたワーウルフの家族にも居場所ができた。



「お父さんもお母さんも、おばあちゃんもホムバモルで簡単に受け入れられた。そこで生まれたわたしも、とても祝福された。もちろんわたしたちの家族も、ホムバモルに溶け込むように努力した。ワーウルフじゃなきゃできない仕事とか、たくさんあったんだから」


 人語を解する狼が役に立つ場面は多いだろう。周りの山から人里に降りてきた狼の対処とか。馬の代わりに人を乗せたり、重い荷物を運んだりもできる。


「だから、街のみんなはわたしの仲間。大切な人達ばかり。もちろん、獣人含めて」


 そう語るフラウの笑顔はとても幸せそう。ホムバモルには、もしかしたら本当に種族間の対立は無いのかもな。

 となると、あれは何なのだろう。ディフェリアの方に目を向けた俺に、フラウも気付いた。


「獣人は嫌ってないけど、おばあちゃんの病気を嘘だって言われたら……さすがにね。なんでそんなに疑って来るのかはわからないけれど」

「ディフェリアは友達に嘘をつかれたんだ。ハスパレの葉が欲しい理由として……病気で体中が痛いって」


 そうか。フラウとディフェリアは喧嘩するばかりで、互いの意見をしっかり聞いてはいなかった。


 フラウに獣人を差別する考えはない。けれど、知識としてそういうものがあるのは知っていたんだろう。

 いきなり無礼なことを言ってきた獣人に反撃するため、相手の嫌がりそうな事を言った。行儀のいいやり方とは言えないな。効果的ではあるけれど。


 だから俺から事情を話す。ディフェリアには、それが嘘だと思ってしまえる根拠があったこと。それから、友人に裏切られた挙げ句に失ったという悲劇に見舞われていたこと。

 獣人解放同盟のおかげで住んでいた場所に居づらくなり、故郷を捨てて旅に出ていたこと。



 フラウも、多少は後悔したって顔を見せた。


「そっか。そうだったんだね。だからって、わたしのこと嘘つき呼ばわりは良くないけど」

「そうだな。でもこの人も辛い思いをしてきたんだ。獣人だからって差別も受けてきた」

「うん。獣人だから駄目な奴ってまで言ったのは悪かったと思う。…………後で謝らなきゃね。仲直り、できるかな?」

「できるさ。ちゃんと話し合えばいい」

「そうだよね。あ、でも。謝るのは向こうに着いてからがいいかな。おばあちゃんが病気なのは本当って、このお姉さんに教えてから。それで、お互い間違ってたねって謝るの」

「いいぞ。片方だけ謝るのは違うと思うし」


 俺がそう言えば、フラウはにこりと笑った。この子だって好きで誰かと対立したいわけじゃない。悪い子じゃないっていうのは知っているのだから。

 それから俺は、明日のためにもう寝なさいと言っておいた。フラウも年上の言うことを素直に聞く気になったのか、そのままコートにくるまって目を閉じた。


 俺もそろそろ寝たい。というわけで、代わりの見張りを指名する。誰かはわかっている。今夜の野営地を設営するなり速攻で寝てしまった、俺のご主人様だ。


「うへへ~そんなに褒めないでいいってば~。わたしが優秀だってみんなわかってることじゃん。あはは~」

「起きろ」

「ふぎゃあっ!? なに!? 朝!?」

「まだ夜だ。見張りを代われ。よく寝たはずだろ?」

「うう……優秀なわたしがイエガンを主席で卒業する夢を見てたんだよ? それを邪魔するなんてコータひどくない!?」

「ひどくない。かなわない夢は見ずに、ちゃんと周りを警戒しろ。なにか変わったことがあったら俺を起こしていいからぐえー」

「こんな風に?」


 リゼは俺の体を握った。そりゃこんな事されたら嫌でも起きるだろうけど。でもこれが嫌がらせなのは確実で。


「離せ。怒るぞ。ここでファイヤーボール撃つぞ」

「やめて! そんなことしないで黒焦げになっちゃう! わかった! わかったから!」


 そう小声で叫びながら、リゼは俺の体を離す。このやりとりを周りに配慮して全部小声でやってくれるあたり、こいつの育ちの良さというか素の善良さが見え隠れしている。

 いやまあ。こいつは泥棒なんだけど。いろいろ悪事を重ねてきた、とんでもない奴ではあるんだけど。


 とにかく見張りは交代だ。リゼだって言われたことは、しっかりやるつもりらしい。少なくともその努力はする。俺の体をそっと抱きしめながら、周りを見回している。

 まあこれくらいなら苦しくはない。リゼの体温に心地よさを感じながら、俺は最後に探査魔法を使ってやる。近くに狼はいない。近づく気配すらない。だから用心するなってわけでもないけど、過度に怖がることもない。


「大丈夫? 狼は近くにいない?」

「いない。安心しろ」

「そっかー。他の動物は? 夜の森といえば……フクロウとかコウモリとかいるかも?」

「そ、そんなものはいない! ……うん、見えない」


 再度しっかり確認した。危険な動物は近くにいない。フクロウはいたけど危険じゃない。そう伝えてから俺は、押し寄せる疲労に抗うことをやめて眠りについた。

 リゼが俺の頭を撫でている。子供をあやしてるんじゃないんだから…………まあいいか。悪い気はしなかった。

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