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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第8章 北国へ

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8-25 山越えの最中

 カイだけは山越えに参加せず、他の冒険者と協力して商人を守るという方針。その商人や冒険者達と顔合わせなのだけれど。


「本当ですか!? リゼさんが守ってくれるなら安心だと思ってたんですけど! ああいえ、他の冒険者も優秀な方ばかりですよね! 心配はしてないです、はい!」


 商人の中に見知った顔がいた。ルファだ。


 この街の危機を知って、すばやく安全な所まで退避したと思ってたのだけど。どうしてこんな危険な依頼を受けたんだろう。そんな疑問を投げてみたところ、彼女は少し困ったような表情を見せた。


「えーっとですね。まあ逃げたいのは山々なんですが……報酬がなかなか良いお値段だったりしまして。あとは、この街にお得意さんがいるので、街が他の国になっちゃうのは困るわけですし…………というか、さすがに攻め込まれようとしてる街を、見捨てられません」


 いろいろ理由はあるみたいだけど、最後のが本心なように聞こえた。利益を出すことを是とする商人的には、難しい決断なのかもしれない。

 それでも、ルファはこの街を守るために協力することを選んだ。実利もあるみたいだしな。


「大丈夫よ、かわいい商人さん。わたし達の力を信じて、ね?」

「は、はい。よろしくお願いします魔女さん! てか近い! 顔が近いです!」


 護衛の冒険者のひとりである魔女が、ルファにすり寄りながら励ます。この魔女とは前に話したことがある。サキナという名前だ。

 ルファのことが気に入ったのか、スキンシップを過剰にやってるように見える。仲がいいなら良い事だ。


 他の商人や冒険者も、それぞれ準備や覚悟はできている様子。戦力的にも、門前で混乱を起こして逃げるだけの能力はあるように見える。

 もちろん、俺達も支援の手は抜かないけど。




 というわけで、俺達も出発だ。ユーリとフラウは狼化する。それ以外は、リゼが作った防寒具を身にまとう。サイズも機能的にも申し分無いらしい。裁縫のセンスは本当に天才的なんだよな。


 街を囲む柵を乗り越え山に入っていった。特に特別なことはなにもない、静かな出発だった。



 雪を積もらせている木々で覆われた山の中を、狼化したフラウは迷うことなく進んでいく。そしてその後ろを、ユーリがついていってる。

 フラウの背中にはリゼと俺が乗っていた。ユーリの背中にはフィアナとディフェリアだ。


 これ以外の組み合わせは思いつかない。最善のやり方だと思う。

 ユーリだってディフェリアのことは良く思ってないかもしれないけれど、さすがに何か問題を起こしたりはしないはず。背中にはフィアナも乗ってるわけだし。


 狼化したワーウルフは、その状態では話す事ができない。ワーウルフ同士でもそれは変らないようだ。それでもユーリとフラウはお互いに仕草や鳴き声で意思を伝えながら、険しい山道を進んでいく。寒さはあるけれど、それ以外に危なげは全くなかった。


 事前にフラウから教えてもらった情報によれば、ワーウルフにしか行けないルートを辿っていくそうな。ホムバモルの人間に伝わる山越えのルートとは、また別らしい。

 確かにフラウが進んでいるのは獣道。人間の足でこれを踏破するのは難しい気がする。そもそも人間だとすぐに迷いそうだ。木々の間に道があるようには見えないけれど、フラウには確かに見えているらしい。雪山を歩くのに慣れたワーウルフの感覚というやつか。


 当然ながらこのルートだと、人間が行くためのルートよりも早く着く。今夜は山で過ごさないといけないけれど、順調に行けば明日の昼頃には到着するはずとのこと。


 順調にいかない場合はわからない。問題が起こるとすれば、山林に住んでいる狼に襲われるとかが考えられるけれど。



 そして考えられるトラブルっていうのは、往々にして起こってしまうものだ。



「にぎゃー! ねえコータ! この狼ってあとどれくらいいるの!?」

「知るか! 大量だ!」


 四方から攻めてくる狼の群れをファイヤーアローで貫きながら、慌てふためいているリゼを落ち着かせようとする。つい最近も似たような状況で似たような会話をした気がする。ついでに言えば、その原因も同じだった。


「リゼさん! その袋は絶対に離さないでくださいね! じゃないとユーリくんとフラウさんに殺されますから!」

「無理言わないでー! 頑張るけど! でも怖いー! だから行きたくなかったのにー!」


 泣き言を叫びながらも、リゼは袋を抱きしめている両腕に力を入れる。

 ハスパレの葉によって狼達が興奮している。だから襲いかかってくる。この前と同じだ。


 フラウもユーリも、迫ってくる狼に向かって吠えて牽制を試みる。しかし狼の方も吠え返す。興奮状態で吠えているため、非常にうるさい。というか怖い。


 こちらを殺してでも、蠱惑的な匂いを発する草を本気で奪おうとしている。そんな雰囲気だ。恐怖を感じさせないわけがない。リゼはさっきから泣くばかりだし、ディフェリアも怯えているようにしか見えない。

 俺だって怖いけど、逃げるわけにはいかない。逃げ場もないし。だから飛びかかってくる狼に特大の火球を投げつけ、こっちが生き延びるための努力をする。


「フラウ、ユーリ。このままじゃ埒が明かない! 留まらないで走った方がいいと思うんだけど!」


 前回は馬車でそこまでスピードが出なかったから、その策は使えない。けれどワーウルフの足ならなんとかなるかも。

 もちろん、前方からも狼は接近してくる。俺が火球でその狼を焼き払ったのを見て、フラウは一気に駆け出した。ユーリもすぐさま後に続く。


「ちょ、ちょっと待ってよー! 振り落とされる! 怖い! ぎゃー!」

「黙れ!」

「ぶへあっ!?」


 悲鳴を上げるリゼを黙らせながら、追いすがってくる狼に風の刃を撃つ。

 縦に真っ二つに裂けた狼の屍を飛び越えて、すぐさま別の狼が飛びかかってきた。そいつの額を、フィアナが正確に矢で射抜く。お見事。


 前から新しい狼の集団がやってくる。フラウはそれを蹴散らしながら走る。狼とワーウルフでは、どちらかというとワーウルフの方が足が早いらしい。だから、走り続けていればいつかは撒けるはず。奴らが異常に執念深くなっているのが不安だけど。


 横から襲いかかって来た狼の首を、ユーリが思いっきり噛んで折る。それを後方へと投げ捨て更に走る。こっちは走り続けているのに、次から次へと狼がやってくるという地獄。


 なるほど。獣道か。この道はワーウルフ、というかフラウしか使ってこなかった道。使用頻度も高かったわけではないのだろう。

 人が通らないから、ずっと昔から狼の領域になっていた。そこに人間が、魅力的な香りと共に踏み込んだわけだ。狙われるのは当然だな。

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