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8-24 山越え準備

 俺とリゼが同行することは、幸いにして山越えメンバーにして監視対象である四人の同意は得られた。パーティーの仲間であるフィアナやユーリは当然として、ディフェリアやフラウからも特に悪感情は抱かれてないというのは良かった。

 俺とリゼの役割は、昨日からやった来たことの延長だ。つまり、対立が起こりそうになったら仲裁する。


 残していくカイには、申し訳ない気持ちもあるけど。


「ごめんな、カイ。商人の護衛には他の冒険者と協力してやってくれ……一応、早めにホムバモルに着いたら状況を調べておく。あとは商人達が到着して戦闘になったら、俺達は都市の内側から攻撃の支援をする」


 そうすればカイ達の生存率も上がる。だから、別に私情だけで動いているわけではないってことは言っておいた方がいい。たとえ建前にしかなっていなかったとしても。


「そうだな。そう言っておけば、ギルドマスターにも言い訳がつくだろう」

「そうだな。あの人にも許可を取らないとな…………」


 この情勢で、無許可でホムバモルまで山越えで向かうことはできないか。そこは、あの話がわかりそうなギルドマスターの器に期待するしかない。


 そういうわけで方針は決まった。色々不安しかないけれど、やるしかない。




「うー。コータのバカ。なんでわたしばっかり……」


 宿に戻っても、リゼの気分は上向かないようだった。気持ちはわかるけど。


「俺だってあの役目はやりたくない。けど誰かがやらなきゃいけないぞ」

「わかってるけどさ。……わたしだって、喧嘩は起こってほしくないし……誰かに死なれるのも良いとは思わないし……特に、フラウちゃんとディフェリアさんの仲は、なんとかしないとね」

「そうだな。なんとかできるとは思えないけど」


 あのふたりの仲の悪さは最悪だ。

 ディフェリアは頼りにしていた友達が死んだことで、精神が不安定になってる。そこに現れた怪しい、しかもホムバモル在住の少女に不快感を抱く気持ちはわからなくもない。けれどフラウからすれば、家族を助けるためにやっている事をテロリスト呼ばわりされてるわけで。それは嫌な気分だろう。

 そこに種族間対立の感情が混ざって、さらに憎悪を深めている。


 それに比べたら、ユーリを巡る三角関係は可愛い問題だ。フィアナやフラウにとっては切実な問題だろうけれど。

 フラウは、自分が勝つことを確信しているように見える。フィアナは、突如として現れたライバルに慌てているらしい。

 フラウの方は余裕だけど、フィアナが思いつめて突飛な行動をしかねない。そんな状況と見た。これは、フィアナを落ち着かせておけば大丈夫な気がする。



「……まあ、仕方ないか。よしコータ。やるからにはしっかりやらないとね。フィアナちゃん達を守る。仲間割れは許さない。リゼはちゃんとわかってるよ。みんなのお母さんだからね!」

「お母さんではないけどな……」


 ディフェリアよりも年下だし。年上の相手を心配して、面倒を見なきゃいけないっていうのも少し辛いものがあるけど……仕方ないか。


「じゃあお母さんは、みんなのためにもう少しがんばろうかな!」


 そう言いながら、リゼは針を動かす手を止めない。


 先程からリゼは、俺と話しをしながら針仕事を続けていた。なにを作っているのかと言えば、明日から山越えをするメンバーの防寒着だ。

 フラウが着ていた厚手のコートのような物を、人数分作ると言っていた。


 確かにこの街やホムバモルの気候では、今のままの格好だとこごえてしまう。山越えをするなんて、それこそ命に関わる問題だ。


 防寒着ならこの街で買ってもいいだろうけど、リゼは自分で作る方が安いと言ってる。そして裁縫仕事はこの無能魔女の特技のひとつだ。


 布を買い込んで、裁断して縫う。俺は裁縫にも服飾についても素人だけど、服を一着作るのが楽な仕事じゃないというのはわかっている。けれどリゼは、いとも簡単に人数分のコートを作り上げていく。手品といいこれといい、変な方向で才能を発揮するのはなんなんだろうな。


 でも、仲間想いなのは確かだ。


「あんまり無理するなよ。お前も、早く寝なきゃいけないのは変わらないんだから」

「大丈夫大丈夫。あんまり眠くないし」

「昼まで寝てたからな……。でも、明日は早いぞ」

「うん。もう少しで完成だから。終わったら、みんなみたいに寝るから……」


 相変わらず複雑な人間関係の中で眠っているフラウ達を、リゼはちらりと見つめた。

 困った子供達だな。でも、守ってあげないと。そんな慈愛に溢れた横顔が見えた。その表情は、なんだか母親みたいで…………。


「ねえコータ。今わたしの事、お母さんみたいって思わなかった?」

「思ってない。絶対に思ってないからな」




 翌日。快晴。気温は相変わらず低いけど、吹雪とかじゃなくて本当に良かった。

 山の天気は変わりやすいとは言うけれど、少なくとも今の快晴の状態のまま山入りしたいところだ。


 街の北西。ホムバモルへ続く道の門の前に、俺達パーティーとその他関係者は集合していた。

 カイ以外は荷物を宿に置いて、できるだけ減らして来た。山越えとなればそれなりの装備は必要だけど、いらないものを何でも持っていくわけにはいかない。向こうでもそれなりに活発に動くことになるだろうし、身軽に越したことはない。


 それから、来ていたギルドマスターに事情を話す。フラウの素性を紹介して、ハスパレの葉が必要な祖母の事や、これから山越えをして早めにホムバモル入りしたいという事を全て正直に説明した。

 ハスパレの葉は完全に薬として使い、ホムバモル政府には渡さない。そう約束する。

 後は葉を輸送する商隊を都市の内側から支援する提案もした。そこまでして、ギルドマスターはかなり悩んでから俺達の山越えを認めてくれた。


 ギルドマスターとしても、葉が一袋でもホムバモルに入るのは阻止したい事らしい。当然だな。フラウがホムバモルから来た間者だという可能性も考えているのだろう。

 フラウがホムバモル政府と関係のある人物なら、偽装の商隊による作戦が数日早く向こうに伝わることになる。


 それはかなりまずい。どうもマウグハの街は情報を漏らさないために、昨日からこの門を封鎖しているらしい。向こう側から街に入るのは可能だけど、街から何者かが出るのは禁止。フラウがスパイなら、その努力も無駄に帰すことになる。


 それでも彼がフラウを信じてくれたのは、彼女が小さな女の子だったからだろう。話した事情が、家族を思っての事だったからだろう。



 そういう話なら人は信じやすい。前にディフェリアがフラウを疑った時に言った事だ。皮肉にも、それが証明された形だ。

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