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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第8章 北国へ

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8-23 平地と山超え

 ギルドの建物から出て、宿に戻る。いずれにせよ明日の朝には起きて作戦に参加しなきゃいけないわけで。さっき起きたばかりだけど今夜はしっかり寝なきゃいけない。


「みんな、護衛任務には就くってことでいいな?」


 その道すがら、カイが確認するように尋ねた。尋ねなくてもわかるけど、一応。そんな感じだ。

 俺達はそれぞれ肯定の返事をするけど、そこに口が挟まれる。


「待って。ユーリはわたしと一緒に、先にホムバモルに行くの。だからあの作戦にはついて行けない」


 フラウだ。確定事項のように言い切った。ユーリの方を見ると、困ったような顔をしている。

 困惑したのはカイも一緒のよう。


「フラウ。君がホムバモルに帰らなきゃいけないのはわかる。でもそれなら、俺達の作戦に同行した方がいい」

「平地をのんびり歩いて帰るなんてしたくないわ。あれだと時間が掛かりすぎるもの。おばあちゃんを長いこと待たせたくはないの」

「フラウ、まさか山を?」


 ユーリが少し戸惑いがちに尋ねた問いに、フラウは笑顔で頷いた。


「もちろん。ついてきてくれるよね、ユーリ?」

「それは…………わかった。行く」


 多少の逡巡はあった。けれど短時間でそんな決断をしたユーリに、俺達は再び驚く。フラウだけは、その結果に満足なようだった。


「ちょっと考えればわかることよ。ホムバモルまで平地の道で行くと、馬車でも五日ほどかかるわ。それが山を超えれば、ワーウルフの足で二日で済む。……おばあちゃんに、三日も余計に苦しませるなんてわたしにはできない」


 彼女なりに論理的な結論なんだろう。ホムバモルの民は、山を短時間で超えるルートを知っているという。ワーウルフならば、さらに速く行けるってことらしい。

 ユーリだって世話になった同族のことを想えば、フラウの考えに従う方が良いと思ったに違いない。


 けれど、それに納得できない者もいるわけで。


「そんな勝手なこと、許されるはずありません」


 ディフェリアがきっぱりと言い切った。あからさまに苛立ったような表情を向けるフラウだけど、ディフェリアは動じない。


「あなたがホムバモルの手先だと、わたしはまだ疑っています。病気の祖母など本当はいないんでしょう? あなたのおばあさんは元気で、ただ葉を向こうの兵士に吸わせるための口実に使われているだけ」

「何よ。人のおばあちゃんまで侮辱する気? あなたって最低ね。獣人っていうのは、みんなあなたみたいに礼儀がなってない物なの? ホムバモルの獣人も、下品な奴ばかりだけど」

「獣人があなたに礼儀を尽くさないのは、あなた自身が礼儀知らずのワーウルフだからだと、なぜ気付かないのでしょうね」

「まあまあ! ふたりとも落ち着いて!」


 慌ててリゼが間に入る。このふたりの対立には、リゼは振り回されてばかりだ。


 ディフェリアは、フラウがいまだに敵だと疑っている。とりあえずそこを解決しないと。

 昨夜は照明魔法を使ってたから、できなかったもんな。


「フラウ。俺の目を見ながら答えてくれ。お前は嘘なんかついてないんだよな? 本当に、病気の祖母のために葉が必要なんだよな?」

「ずっとそう言ってるじゃない。使い魔さん、あなたも疑うの?」

「疑ってるんじゃない。信じてるんだ。もしフラウが嘘をついてたら、俺達とは敵対することになる。そんなことはないって言ってくれ」

「嘘なんかついてません。使い魔さんに敵対もしません」

「わかった。フラウの言ってることは本当だ。探査魔法で確かめた」


 自分達に敵対する存在を感知することができる。そんな探査魔法の使い方をしてみたけど、目の前のフラウはそれに引っかからなかった。少なくとも、ホムバモルからのスパイとかではない事は確かだろう。


「そう。試すようなことされたのは引っかかるけど、でも使い魔さんのおかげで潔白は証明されたわね。じゃあ、ホムバモルまで行っていいわよね、獣人さん?」

「……いいでしょう。でも、わたしもついて行きます」

「どうしてよ」

「理由なんてないですよ。勝手についていくだけ。あなたの後をつけるだけ。あなたが本当に悪いことたくらんでないか、知りたいだけです。それとも、ついてこられると困る理由が?」

「困るわけないでしょ。それこそ、勝手にすればいいわ。……まあ、道筋を知らないあなたなんて、すぐに山の中で迷子でしょうけど。そうなっても知らないから」

「あ、あの! わたしも一緒に行ってもいいですか!?」


 フラウとディフェリアだけでもややこしい事になっているのに、このタイミングでフィアナまで声を上げた。

 フラウはニヤリと笑みを浮かべる。ディフェリアは意図をわかりかねているのか、本気で困惑しているようだ。


「わたしも一緒に行きます! なんというか、ユーリくんはわたしの仲間なので! わたしも一緒にいたいです!」


 仲間だからではなく好きだからだろうけど、そこは隠したいらしい。それでも現状で、自分の目の届かないところにユーリがいるのは避けたいらしい。その欲望は隠しきれてない。

 フラウにユーリが取られるのが、よほど怖いんだろうな。


「うん。いいよ。フィアナも一緒に、来て」

「本当ですか!? よろしくお願いします!」


 そんなフィアナの心中を理解してるのかは不明だけど、ユーリは頼れる仲間がついてくるのは歓迎するようだ。いい事だとは思うけど、こういうところから話はややこしくなっていくんだぞ。



 ああもう。こうなったら仕方ないな。



「カイ、ごめん。俺とリゼもこっち側で行く」

「なんで!? やだ!!」


 俺がそう宣言した途端、リゼは悲鳴に似た抗議の声を上げた。


「やだ! 絶対やだ! こんなところに混ざりたく……じゃなくて! 山越えとか絶対寒いじゃん! 寒いのやだー!」


 こんなに私欲と対抗意識にまみれた集団の中に放り込まれるのは、やっぱりリゼも嫌か。言いかけて別の言い訳をひねり出したのは、リゼにしては気遣いができた言える。


 けれど俺達は飛び込まなきゃいけない。利害関係の外にいる人物が目を光らせてないと、絶対になにか起こる。愛憎とか種族間対立とかが原因の悲劇が。

 具体的には殺人事件とか。人が死ぬような事故が故意に引き起こされるとか。そういうわけで、この集団を放置するわけにはいかない。


「やだ! やだー! にぎゃー!」


 その使命の重さをよく理解してるのか、リゼはなおも拒絶の言葉を叫ぶ。俺はそんなリゼの頬をつねって強引に黙らせた。

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