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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第8章 北国へ

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8-20 人狼と獣人

 病人を助けるためにハスパレの葉を運ぶ。ディフェリアの友人が言ったその方便を、フラウも全く同じように使っている。

 フラウの祖母が本当に病気で苦しんでいるかの証明は、正直なところできない。フラウの言ってる事が本当なのかはわからない。


 フラウもまたホムバモル独立派の一員で、この拠点が見つかった際にひと袋でも葉をホムバモルへ持ち運ぶのが役割なのかもしれない。

 今回は踏み込んだのが知り合いで、想定以上にうまく行った。けれど例えばこの街の兵士に見つかったとしても、幼い少女が同情を引く理由でお願いすれば見逃される可能性が高い。

 ディフェリアの言っているのは、つまりそういう事だ。



 実際に見逃されることがありえるかは、正直そんなことがあるかは考えにくい。それに、たったひと袋のために、そこまで手の混んだ事をするだろうかという疑問もある。

 けれど敵は、国家からの独立を目指すような奴らだ。常軌を逸した考えを持っている可能性だってある。少しでも戦況を有利にするために手の込んだことをする連中でもある。ヴァラスビアの城を落とすために、かなり周到な準備をしていたのは記憶に新しいし。



「獣人さんの言ってる事は的外れにも程があるわ。わたし達ワーウルフは、獣人なんかとは手を組まない。同盟になんか入らないし、同盟と手を組む奴らに協力するのもお断りよ。だってそうでしょう? 人間にも獣にもなれない半端者の獣人なんかが、わたし達と肩を並べるなんて…………身の程を知ったらどう?」


 自分よりも倍生きている大人相手に、好き放題言うフラウ。獣人に対する認識は、前にもユーリが似たようなことを言っていた。ワーウルフ共通の考え方なのかも。


 さすがにディフェリアも、ここまで言われて黙っている訳にはいかないようだ。表情に浮かぶ怒りを隠そうともしない。


「ワーウルフこそ、森の中で隠れて過ごすしかない少数民族じゃないですか?ちょっと人間や獣人の社会に溶け込めたからっていい気にならないでくださいな。人間か獣かわからないあなた達が街で生きれるのは、獣人っていう先例があるおかげです。あなたこそ身の程を知りなさい」

「なによ。やるっての?」

「ワーウルフは、なんでも暴力で解決するっていうのは本当なんですね」

「ええ。ひ弱な獣人なんかと違うから」

「まあまあ! ふたりとも落ち着いて!」


 このままでは本気で殺し合いになりかねない。見かねたリゼがふたりの間に入る。リゼにしてはいい判断。


「ふたりとも、こんな所で喧嘩なんてよくないですよ。仲良くしましょう、ね?」


 その言葉に、ディフェリアもフラウもそっぽを向いて拒絶した。仲良くはできないか。それでも、喧嘩に発展することは避けられたけど。


「とにかく、この場所をギルドに報告しよう。この街にホムバモルが攻めてくるかどうかの問題に関わるから、俺達だけでなんとかできる物じゃない」


 カイの提案に反対する者はいなかった。この中では誰も、この街に戦火が広がる事を望んではいない。


「カイの言うとおりね。でもこの袋だけはわたしが持ってる。おばあちゃんを助けなきゃいけないから」

「…………そうか」


 カイは、フラウの主張に反対はしなかった。人助けの精神か。それにカイもフラウのことはよく知っているらしい。こういう時に嘘をつく者かどうかも。

 少しの葛藤はあっただろうけれど、結局はフラウの事を信頼したということだ。


 ディフェリアにとっては、面白くないだろうな。




 ユーリとカイとでギルドへ走る。その間に俺達で、この空き家に対する調査だ。主に敵が他に潜んでないかの確認。それから敵に関する情報を探す。


 結論から言えば、どちらも見つからなかった。

 建物の二階は住居スペースになっていたけど、そこに倒した奴以外の敵はいなかった。本格的に家探しをしたわけではないけど、特にめぼしい発見は見当たらない。


 それよりも、始終険悪なムードのディフェリアとフラウの方がずっと気がかりだ。お互い無言を貫いているけど、相手の事が嫌いなのはしっかり伝わってくる。


 このふたりから目を離すと、すぐにまた喧嘩が始まりそうな気がする。だから、常に俺達全員で行動することに。手分けして効率的に探すなんてことができなかった。


 そういえばフィアナも、フラウの事が気になって仕方ない様子。さっきから何度も、チラチラと視線を送っている。

 一方のフラウからすれば、フィアナは敵にはなりえないという認識なのだろうか。それを咎めることは無い。


 こっちはこっちで放っておく訳にはいかない。結果として、俺とリゼが慣れない潤滑油の役割をやらなきゃいけない状況だ。

 この状態でで敵が出てきたら、当然俺が一番働くことになるわけで。建物の中に敵の新手がいなかったことには感謝しないとな。



 そうこうしている内に空が白み始めた。朝か。結局徹夜してしまった。いろいろあったから眠気は今のところ感じないけど、宿に戻ったら速攻で寝てしまうパターンだ。

 ライト魔法を使い続ける必要も無くなり、解除する。そしてすぐに探査魔法で周囲を見る。建物内の隠し部屋にずっと敵が潜んでました、ってことが無いと確認するためだ。幸いにして敵はいない。


 ヴァラスビアのレベルの広さを持つ都市でも、俺の探査魔法はその範囲すべてを見通すことができる。こんな小さな街なら隅々まで人の姿を把握できた。


 ギルドの方へと視線を向ける。カイやユーリや、先程話した夜間責任者を含めた複数の人間が集まって、話し合いをしているらしい。

 たぶんギルドマスターもそこにいるんだろう。当然ながら会話の内容は聞こえないけど、なんとなく想像はついた。



 後はギルドの上層部に任せよう。戦争の準備がどうとかは、本来なら俺達が考えることじゃない。ギルドや街の権力者が集まって対策を立てて、もし俺達に協力できることがあれば手を貸す。その程度のことだ。

 今は、宿に戻って寝たいというのが本音だ。昼夜逆転生活はあまり続けるべきじゃない。



 それからすぐに、カイやギルドマスターを名乗る男、それから領主までもがこの建物にやってきた。俺達は彼らに簡単な状況の説明をした。

 フラウがホムバモルから葉を盗みにここに来たっていう事は、さすがに隠しておいたけど。ハスパレの葉が入った袋を、彼女はさも自分の荷物ですみたいに持ち続けていた。


 取り調べは短時間で終了して、俺達は宿に戻される。すっかり登った太陽に照らされながら、ようやく眠ることができるようだ。

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