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8-19 葉を取りに

 数拍置いて、フィアナは落ち着いたのか話すことはできるようになった。


「な、なんなんですかあの女は! リゼさん! あいつなんなんですか!? ユーリくんとどんな関係なんですか!?」

「痛いっ! 痛いってばフィアナちゃん! わたしにわかるはずないじゃん!」


 リゼの背中をバシバシ叩きながら叫ぶ。ああ。落ち着いてもいないし、混乱が解けてもないようだ。


 フラウはそんなフィアナの様子を見て、クスリと笑った。それから。


「ねえ、そこのあなた。そっちにわたしの服があるから、取ってきて貰える?」

「わ、わたしですか!?」

「そう。あなた。さっきからわたしの体ジロジロ見てて、恥ずかしいだけど」

「あ……す、すいません」


 指名されたフィアナは、ハスパレの葉が入れられた鞄や袋の山へ向かう。なんとか服らしき物は見つかったようだ。

 どうやら、カイが見かけた不審な人影はフラウで間違いないようだ。俺が風の刃で山を崩した時に、応戦のために服を脱いで狼化したってことなんだろう。


 その服は、厚手のコートのようなものだった。コートの下は裸の女か。ユーリもそうだけど、必要な装備とはいえ不審者の格好だよな。

 フィアナからそれを受け取ったフラウは、優雅な笑みを浮かべてお礼を言った。


「ありがとう。かわいい弓使いさん」

「ど、どういたしまして! …………ユーリくんとはどんな関係ですか?」

「あら? 気になるの? あなたは……ユーリの旅のお友達かしら? カイ以外にも仲間ができたなんて、やるじゃないユーリ」

「そうです旅の仲間です! あくまで旅の仲間なんですけど! でもユーリくんとの関係を教えてもらえますでしょうか!?」

「ホムバモルに住んでる、友達だよ。フィアナ。僕が、会いたいって言ってる、おばあさんの孫」

「な、なるほど…………」


 フラウとフィアナのやり取りでは永遠に話しが進まない。そう思ったらしいユーリが口を出した。まあ、自分に関する話題だしな。


「そう。ユーリってばおばあちゃんに会いに来たの?」

「うん。フラーリは元気?」

「あー。まあなんというか。元気じゃないかな……」

「本当? ちょっと、詳しく教えて」

「ちょっと待ってくれ。それより、なんでフラウがここにいるんだ」


 ユーリとフラウの会話も終わらなさそうだから、慌てた感じでカイが口を挟んだ。ダメだ、このワーウルフの女の子のペースに完全になっている。マイペースすぎるんだ。


 それよりカイの質問だ。それを知らないといけない。

 これまでの情報を整理するに、フラウはホムバモルの住民のはず。ユーリがホムバモルで会いたいって言ってる人物の孫。それがどうしてこの街にいるのか。行き来が自由な関係とはいえ、両者は戦争寸前で緊張状態。それなりの理由がないと来ないものだと思うけど。


「久しぶりね、カイ。実はそれも、元気じゃないおばあちゃんのことに関係してるの。……おばあちゃん、病気なのよ。体中のあちこちがとても痛むんだって。お医者様の意見だと、もう長くないって」

「それは大変だ。……だから、ハスパレの葉を取りに来たとか?」

「うん。こっちじゃ自然には生えないから。それにお店でも買えなくなった。城主様が全部買い占めてるし、商人さんが持ち込んでくるのも、全部お城が持っていっちゃう。城門に来た時点で回収されて、倉庫の中に鍵をかけてしまわれる。それを手に入れるのは無理よ」

「だから、ここまで取りに来た?」

「そういうこと。でもここでも、買うのは難しそう」


 カイとユーリはこの子にとって、気の許せる相手なんだろう。込み入った事情でも普通に話してくれる。それだけお互いに信頼があるのか。



 ホムバモルがハスパレの葉を買い占め厳しく管理してるのは、来たるべき戦争に備えるため。民間の病人なんかに回す余裕は、今も無いってことなんだろう。

 その影響はこの街まで来ている。この街を中継地点及び集積場所にしているのだから、ここに入ってくる葉もホムバモルが徹底して、よそに流れないようにしている。


 でもフラウには、葉が欲しい切実な理由があった。だから。


「だから、盗もうとしてるの?」

「えーっと。まあ、そういうことね」


 ユーリに尋ねられて、フラウは目を泳がせながらも正直に答えた。

 この世界には時々、盗みに対して驚くほど抵抗がない奴がいるな。その代表が俺のご主人なんだけど。


「おばあちゃんは痛みで毎日苦しんでる。痛み止めの薬が必要なのに、それは手に入らない。……あんなに辛そうなおばあちゃん、見たくないの」

「そう……」

「ホムバモルの役人に雇われた人間が、この街で葉を集めてるのは知っていた。だからここにでかけて、見つけたの。それで忍び込んで盗みに入ろうとしたら、ユーリ達が来たわけよ」


 で、お互いに敵だと認識し合って戦闘になったというわけか。本当の敵は、ホムバモルに雇われた人間ってことなんだろう。それこそ解放同盟の獣人とか。


 さっき俺達が殺したのが、それなんだろうな。巻き添えで死んだ、ディフェリアの友人も含まれる。

 その友人は、自分が同盟の一員というのが広まる前にホムバモルに逃げようとして、出発前の拠点としてここに泊まったのだろう。ここから、葉を輸送する馬車に便乗させてもらうつもりだったとかだ。



 フラウの事情はわかった。泥棒しようとしたのはともかく、それに対する理由があるから非難はしきれない。

 泥棒は悪いことっていう、俺の意見は変わらないけど。必要な時もあるってことだ。


「というわけで、ひと袋だけ貰っていくわ。これでおばあちゃんは楽になる。……明日にはホムバモルに戻るけど、ユーリも一緒に来る?」

「うん、行きたい」

「そう。じゃあ…………」

「認められません」


 話がまとまりつつあるユーリとフラウに、別の声が割り込んだ。

 ディフェリアだった。目の前で死んだ友の亡骸を抱きながら激しく泣いていた彼女だけど、いつの間にか落ち着きを取り戻したらしい。その目には涙の跡がある。それと同時に、怒りの感情も見えた。


「あら? あなたは……獣人さんかしら? わたしのやる事になんの文句があるのかしら?」

「あなたがホムバモルの不穏分子じゃないという証拠がありません。獣人解放同盟の人間ではないでしょうけれど、それに協力するワーウルフなのではないですか? だから……その袋をホムバモルに持っていく。そういう事でしょう?」

「何を勝手なこと……」


 推測を述べて自分を非難するディフェリアに、フラウはあからさまな敵意を向けた。ディフェリアもまた、フラウ相手に一歩も引かない様子だ。

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