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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第8章 北国へ

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8-15 夜のギルド

 さて、この街を滅びの運命から早急に救うことは決まった。じゃあ最初に何をすればいいか。

 カイは、ギルドに行くと言った。


 俺達がどう動くにしても、ギルドに所属する冒険者としてやった方が有利だ。普通の市民が探偵ごっこをするよりは、冒険者が仕事として調べる方が物事がうまく行きやすい。というか冒険者が依頼の範囲外であれこれ動き回るのは、あんまりいい顔をされないらしい。


 何をするにしても、とりあえずギルドを通して。これが基本。そうすることで、やってることの責任をギルドに投げることもできるらしいし。



 というわけで、俺達はこの街のギルドの建物に向かう。いまだにどう動くべきか判断がつかないルファは、ここで一旦別れる。

 ルファはただの商人だし、この街に特に義理などない。だから本人が言ったように、さっさと街から出ても問題はない。それができないのは、護衛が見つからないから危険だとか、そういう理由かもしれない。それとも、この人の善性によるものかもしれない。



 カイは昼間にも訪れているから、道に迷うことなどなく無事に建物にたどり着けた。

 夜間ということもあって、建物内に人の数は少ない。しかし少ないにしても、確かにそこに冒険者はいた。


 基本的にギルドは、依頼が張り出される朝が一番賑やかだ。その分、夜は人がいない。

 それでも依頼の遂行が深夜に渡って、すぐにでも報告して報酬がほしい冒険者とか、あるいは急いで依頼を出したい人間ってのは少数でもいる。冒険者ギルドが二十四時間営業なのはそういう理由だ。


 他にも、夜間に緊急事態が起こることがある。怪物の大群が街に向けて攻めてくるなんてことは、別に頻繁に起こることじゃない。それでも備えなきゃいけない。

 泥棒とか盗賊とか、あと夜行性の怪物によって街の住民が被害に見舞われる事もある。そういう場合は国の機関であるギルドの権限として、夜間の内にギルドからの依頼が出される。


 そういう時は夜勤のギルドの職員が、建物内にいる冒険者に協力を要請する。それを狙って夜に起きて建物内で待機している冒険者は、どの街にも数人はいるらしい。


 ヴァラスビアで夜間に騒動が起こった際、冒険者達の協力が比較的早くに得られたのもそういう理由だ。

 とはいえあれは事態の重大さから、ギルドの職員が知っている冒険者の住処に走って叩き起こし、協力させたってことがあったらしいけど。


 そしてこの街なら特に、ホムバモルが攻めてくる危険が日々高まってきているわけで。その際に敵と交戦すれば、報酬がでるという依頼もある。

 敵の夜襲に備えて起きて、こうやってギルドで待っている冒険者がいるのはそういう理由だ。


 カイは彼らを一瞥しつつ、受付カウンターに向かう。

 日が出てる時間は受付のお姉さんが座っていることが多いカウンターだけど、今は若い男の職員がいた。たぶん、夜勤を専門にする職員。


 どうせおしゃべりするなら美人のお姉さんとがいいなとか、俺は思ってないからな。事態が切迫している事を考えたら、そんなこと思い浮かぶなんてありえないぞ。


「緊急の要件があります。いるなら、ギルドマスターに会わせてください。この街にホムバモルが攻撃を仕掛けてくる事に関して、重大な事実を知りました」


 そう言いながら、カイは職員の男に自分の登録証を提示した。身分を示すと同時に、銀色に輝く登録証で自分のランクを見せつけるのが目的だ。


 ランク4といえば、生半可な成果では上り詰めることができない。特にカイみたいな若い冒険者で、ここまでいく事は稀だ。


 三回も城塞都市の危機を救った活躍を考えれば当然の昇格だけど、銀色のカードはギルド職員にそれなりの驚きを与えたらしい。この辺鄙な場所にある街だと、ランク4の冒険者っていうのは珍しいのかも。

 夜中にギルドマスターを呼び出すなんて、普通はいい顔をされるものではない。けれどその職員は、とりあえず話は聞いてみようと言ってくれた。


 さすがにこの時間に、この街のギルドの最高責任者はいないらしい。けれど夜間の責任者みたいなのはいるらしく、応接室に通された俺達はひとりの男と向かい合って座った。



 カイが代表して、さっき知り得たことを説明する。それからディフェリアも補足した。彼女は、この街に獣人解放同盟が紛れ込んでいることの証人でもある。


「話はわかりました。実を言えば、この街に解放同盟の構成員が紛れ込んでいるという話は、何度か耳に入っています。それが誰なのかはわかりませんでしたが」


 説明を聞いた責任者の男は、丁寧な口調でそう言った。二十代後半から三十代始めといった年齢の、物腰柔らかそうな男。俺達に対して敬語を使うのも、この人自身の性格的な問題だろう。


 叩き上げの冒険者って感じの見た目ではないけど、責任者を任せられる程度には実力者なんだと思う。


「怪しげな獣人や、実際に勧誘してきたと情報があった獣人にはこれまで調査を試みてきました。芳しい結果は得られませんでしたけれど。奴らはこちらが勘付いたと見るやすぐに姿を隠しますので。おそらくホムバモルへ向かうのでしょう」


 この男は、俺達の情報は否定するべきものではないと言ってくれている。同時に、これまでと同じく無為に終わる可能性が高いとも。

 とはいえ敵が攻め込んでくるかもしれない状況で、手がかりを無碍にすることはできない。それは彼も理解しているようだ。


「わかりました。ではギルドの権限で、あなた達に依頼を出します。獣人解放同盟の構成員らしき獣人の足取りを掴んでください。そして、なにか有益な情報が得られたら教えてください」


 彼は羊皮紙にインクで文章を書いていく。それが依頼書だ。内容は、彼が口にしている通りのもの。


「できればこの事は、他の者には漏らさないでください。この街の、同盟とは関係のない獣人にいらぬ不安を与えてしまうことになりますから。……ここの冒険者にも、獣人は多くいますので」


 北国には元々獣人が多い。となれば冒険者の獣人だっているか。その獣人が同盟に加わっているかどうかはわからない。

 冒険者は国が運営しているギルドに仕えているわけで、不穏分子であることと両立は難しい気がする。隠し通すのが不可能ではないだろうけど。そういう輩に、俺達の調べることの情報が漏れるのはまずいな。用心しないと。

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