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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第8章 北国へ

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8-14 戦争の足音

 その友人が病気というのは嘘だったそうだ。病気を偽って手紙を書いたのは、ハスパレの葉を持ってこさせるための方便。

 ではなんの為に葉が必要なのかといえば、さっきユーリが説明した通りの使い方だ。ホムバモルの兵士と市民が、マウグハに攻め込む為に使う。


 その友人は、自分を獣人解放同盟の一員だと言ったらしい。

 かつてディフェリアと一緒にヴァラスビアの街に住んでいた頃の友人は、不穏分子なんかとは一切関係のない獣人だったはず。それがこっちに移住してから、いつの間に解放同盟なんかに加わったのか。ディフェリアは大いに戸惑ったという。


 そんなディフェリアにも構わず、その友人は勧誘を続けた。もうすぐ戦が始まり、マウグハの街は炎に包まれる。だから今のうちにホムバモルへ逃げよう。そして同志の戦いを支援して、獣人の地位向上のための戦いに身を投じよう。武器を手に取り敵を殺す必要はない。後方支援だって立派な戦いだ。そんな勧誘が延々続いたという。


 獣人解放同盟。不穏分子。ディフェリアが街を出ることになった原因のひとつ。それを友人も知っているはずだ。けれどその友人は、人間側の差別意識こそがディフェリアを街から追い出した要因だと言ったらしい。

 その対立構造とかどちらが悪いのかの議論については、いろいろ意見があることだろう。しかしディフェリアにとっては、それどころではなかった。


 いずれ攻め込まれる都市に移り住んで戦争に参加するなんて恐ろしい事を、ディフェリアが受け入れられるはずもなかった。

 恐怖に慄いた彼女は、足早に友人の所を去った。そして事態を誰かに知らせなければと街中を駆け回り、俺達を見つけたというわけだ。


 ハスパレの葉が入った鞄は、その友人の家に置いてきてしまったという。



「持って帰ればよかったのに。そうしたら向こうに、ハスパレが流れる事はなかった」

「本当に、申し訳ありません……」


 ユーリが恐ろしく冷たい口調で、ディフェリアを非難する言葉を吐く。ディフェリアは意気消沈したという様子だ。

 この人も悪気があってやった事じゃない。でもユーリにとっては切実な問題だから、難しいな。


 フィアナがユーリをなだめている間に、とりあえず状況整理だ。



 ディフェリアの友人が実は獣人解放同盟の一員で、彼女を騙してハスパレの葉を集めていた。これは事実。となればハスパレの葉は、これからホムバモルへ運ばれるんだろう。その友人とやらの手によってかもしれないし、別の誰かかもしれない。


 おそらくディフェリアの友人とやらは、他の獣人の知り合いにも手紙を出しているんだと思う。

 ひとりでも多くのお人好しの獣人から、必要な葉を集めるために。そしてこの街にいる獣人の数を考えても、これをやっているのが例の友人さんだけとは思えなかった。


 獣人解放同盟は、獣人という同族意識を元にして成り立った組織だ。同盟のメンバー以外の獣人であっても、勧誘や扇動によって比較的容易に同盟に引き込むことができる。ヴァラスビアでもそうだったように。

 獣人同士の結びつというのは、それほど強い物らしい。


 もしかするとホムバモル独立派と獣人解放同盟の付き合いは、俺達が思っているよりも長いのかもしれない。

 北国に獣人が多く住む傾向にあるなら、ホムバモルにも獣人は多いのだろう。独立を目指す権力者達が、獣人の協力を積極的に得ようとしてきたとしてもおかしくはない。

 ホムバモルから近隣の街であるここマウグハまで、数人の獣人を潜り込ませる。そして解放同盟への加入を誘う。獣人同士の仲間意識や被差別認識をくすぐることによって、同盟の人間は確実に数を増やしていった。

 ディフェリアの友人も、そうやって勧誘された獣人のひとりなんだろう。そして、自身も同じようにディフェリアを仲間に引き入れようとした。


 そんなネズミ講的なやり方がある程度うまくいって、この街にはそれなりの数の、同盟の同志が潜んでいるのだろう。

 奴らの役目はホムバモルへの移住と戦争への参加だけではない。今みたいな、戦のために有効な物資の収集も含まれる。後方支援も立派な戦い、か。


 あるいはホムバモルがこっちに攻めてきた際、街の中から撹乱工作をする役目もあるのかもしれない。そうすることで有効な反撃を妨害、街の占領を容易にする。




「これって、相当まずい状況じゃないか…………」


 カイが、頭が痛いとでも言うようにつぶやく。そうだな。気持ちはわかる。

 敵はいつ攻めてきてもおかしくない。完璧なタイミングが来るのを待っているだけ。

 そしてそれは、比較的すぐに訪れるだろう。その時この街は、ほぼ確実に占領される。この街が戦争の準備を整えるには、まだ時間がかかるのだから。


 マウグハの街は独立国家ホムバモルの、首都以外の最初の領土となる。



「あ、あの! 皆さんの話しを聞いていたら、とりあえずこの街から出るのが最適な行動だと思うのですが! それも今すぐ! 素早く!」


 ルファが慌て気味に提案する。そうだな。そうするのが最適だと思う。けれど。


「この街を見捨てるのは、気が進まない」


 こういう時に人の良さが出てしまうのが、俺達のリーダーだ。

 その口調は申し訳なさそうだけど、意志の強さも備わっていた。この街の無辜の民を、みすみす傷つけるようなことはしたくないと。助けられるなら助けたいと。


「ルファさん。あなたは早くこの街から出た方がいいです。いつ、戦火に覆われるかわかりません。でも俺は、それを止めたい」

「僕も、手伝う」


 カイに真っ先に賛同したのはユーリだ。こいつの場合、他の理由もあるし当然とも言える。


「わ、わたしも手伝いますよ! リゼさんとコータさんもやってくれますよね!?」

「え? わたし? うん。やるやる。街を見捨てたりできないよね、うん」


 ユーリの決意を見た途端、フィアナも賛同を決めたようだ。そこから引っ張られるようにリゼも同意する。こいつ、ちょっと逃げたいとか思ってそうだな。

 リゼがやるなら、俺も自動的に参加だ。いざという時は、仲間達が死なないよう必死に戦うことになるだろう。


「ちょっと、皆さん正気ですか!? あー、もう。冒険者ってなんでこんなに……」

「あの、皆さん。わたしがお願いするのもなんですが、この街を守って下さい。お願いします!」


 ルファは本気で困惑している様子を見せる。そしてディフェリアといえば、葉をここに持ち込んだとかの負い目があるのだろう。あるいは同じように街を見捨てたくないって想いかもしれない。俺達の戦いを支持することを言った。

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