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8-10 北の玄関口

 結論から言えば、そこからの旅は平穏なものだった。大規模な狼の群れに襲われた日からマウグハの街に着くまで三日ほどかかったけど、そこまでの危機には直面しなかった。


 盗賊団と遭遇することもない。狼の群れとの戦闘は二回あったけど、ごく小規模な群れだった。大した戦闘じゃなく、楽なものだった。

 俺の探査魔法が大活躍したっていうもあるしな。もっと褒めてもらいたい所だ。けれどルファとディフェリアは、すごいのはリゼだって思い込んでる。そしてリゼも自慢げな様子だった。まったくもう。


 ユーリは相変わらず、ディフェリアを警戒している様子。

 こいつなりに譲れない感情があるんだろう。旅の同行人に対する態度としては褒められた物ではないけど、問題を起こさないならそれでいいか。

 ユーリだって、頼れる仲間なんだから。


 さて、マウグハの街に近付くにつれ、道は雪で覆われ始めた。降雪する日も多い。当然気温も下がっていく。ここから北は、ずっと雪景色になるとのこと。



 そんな感じで、無事にマウグハまでたどり着けた。

 周囲を山に囲まれて、そこへ向かうには困難を極める城塞都市であるホムバモル。マウグハの街は、そんなホムバモルの南西に位置していた。



 ホムバモルとマウグハの街は、それぞれ別の領主が治めている個別の領土だ。

 しかしマウグハの街が「街」を冠するまでの規模に発展できたのは、ホムバモルの存在が欠かせなかった。すなわち、それなりの人口規模を持つ城塞都市としてのホムバモルに、陸路で向かうための玄関口としての機能だ。


 今みたいな冬季に山を越えてホムバモルへ向かうのは自殺行為だが、夏であってもそれなりの装備がなければ遭難の危険がある。商人みたいに馬車を引いて向かうにしても、平坦な道は遠回りで数日かかるんだっけ。

 いずれにしても、ホムバモルに向かう前に準備が必要。だから旅人にしても商人にしても、ここに滞在して準備をする。そういう経緯で発展した街だ。


 もっとも、ホムバモルへ行く用事なんて限られてるし、商人の行き来もそこまで多いわけじゃない。だから、街ではあるが大きな街にはなれてない。そういう規模だ。



 だとすればホムバモルはなぜ、城塞都市になれる程の発展を遂げられたのかが気になった。

 こんな僻地になにがあるのかカイに尋ねたところ、夏は海産物で冬は氷と答えた。


 なるほど。どっちもこの世界では、これまで見たことがない物だ。冷蔵庫や冷凍庫なんか存在しない世界では、氷を作るのは困難。こういう寒いところから持ってくるしかない高級品だ。

 魚も同様で、保存技術が未発達だから腐りやすい。塩漬けにしたり干物にしたりで保存食にする方法がなくはないけど、それでも作るのに手間がかかる代物だ。刺身で食べるなんて、こういう海がある街でしか無理だろう。

 生の魚を食べたいと思うグルメさん。冬場にかき氷を食べたいと考える物好きなんかが、観光客としてやってくる。

 あとは商人経由で、若干の輸出もされている。氷も海産物も扱いが難しいから、あまり輸出量は多くないけれど。


 そういう経緯でホムバモルには昔から人がそれなりに集まってきて、小さいながらも城塞都市となる程度の街に発展した歴史があるらしい。


 そんな風に外との交流で発展してきたホムバモルだけど、それでも山に囲まれてない街や雪国じゃない街と比べれば、外との交流は少ないだろう。必然的に自給自足の技術が、この街では磨かれてきた。

 野心家な権力者なら、この都市は独立してもやっていけると考えるだろう。そして実行を試みてしまった。

 国にとっての不穏分子となってしまったのは、そういう経緯だ。




 それはとにかく、ようやくマウグハの街に入れる。

 小さな街でも、周りを柵に囲まれていて入るには門を通らなきゃいけないのは一緒だ。


 まあ、慣れた手続きだ。リゼ達は普通にギルドの登録証を見せて通る。ルファは商業ギルドの登録証で通るし、ディフェリアはヴァラスビアで取得した市民証明書を使っている。


 これで、今回の護衛任務は完了だ。

 紆余曲折はあったけど、ルファを無事にここまで連れてこれて本当によかった。ディフェリアについても、ちゃんとたどり着けて良かったと思ってるぞ。


 ホムバモルに行くという、俺達の本当の目的はまだ途中ではあるけれど。



「みなさん! 本当にありがとうございました! 独立してからのわたしの初仕事、無事に終わりました! みなさんのおかげです! わたしはこれから商談に行きますけど、よかったら夕食は一緒にとりませんか? ごちそうしますので!」


 ルファは滅茶苦茶嬉しそうだった。この人も不安に思っていたんだろうな。父が死んで、これからは自分の力で商人として生きていかなきゃいけない。その第一歩の仕事を無事に終えられたんだ。上機嫌にもなるというものだろう。


「本当に、本当になんとお礼を言っていいものやら……これで友人を救うことができます。道中何度も守っていただき、ありがとうございました……!」


 ディフェリアも俺達に丁重なお礼を言う。この人もこの人なりに、切実な理由があってここまで来たんだ。ハスパレの葉なるものを運ぶのも、その一環。彼女だって安堵しているんだろう。たぶん、悪い人じゃない。

 ユーリは相変わらず警戒心を解かないけれど、これは個人的な感情だし仕方ないか。ある程度許容してやるのが、年上としての度量というものだろう。


 ルファとディフェリアは、自分達の役目を果たしにそれぞれの目的地へと向かっていった。

 残された俺達も、本来の目的に向けて動かないといけない。この街は通過点に過ぎず、ここからさらに北上するのだから。




 けれど本当にホムバモルの街に行けるかどうかは、正直なところわからなかった。


 ホムバモルが不穏分子だってことはこの街では周知の事実だ。それに他の城塞都市で反乱を起こしたという出来事も、既にこの街まで届いていることだろう。


 国に反抗して独立を画策する城塞都市が、すぐ上に隣接してるって状況だ。

 街の雰囲気も、どことなく緊張しているようにも思えた。


 なんにしても情報を集めて状況を把握しないと。人の集まる場所に行って、噂話レベルでもいいから情報を集める。そして判断をする。

 行って帰って来ることができそうなら、可能な限り早く向かう必要がある。時間が経てば状況も変わるだろうし。


 いつものように俺達は、手分けして情報収集に向かうことにした。

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