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3-1 次の村

 王立イエガン魔法学校。かつてレメアルドの王が直々に設立を指示したこの魔法学校は、レメアルドに数個ある中で最も格式ある名門校だ。

 そこの女子寮の一部屋で、ある女子生徒が頭を悩ませていた。


「まずいわね……。どうしたものかしら」

 彼女の名前はファラ・ニベレット。ニベレット家は代々優秀な魔法使いを排出している、名門だった。現当主はファラの父親。他にきょうだいが複数人いる中でファラは少し特殊な立ち位置だったが、裕福な名門の家庭らしく何不自由することなくこれまで暮らしてきた。ファラの魔法の才覚も申し分ないもので、イエガンに入学することになんの支障にもならなかった。


 ここまでは順調だった。ここまでは。


 ファラの手には父親から送られてきた手紙。そこに書かれていることを要約すれば、家にあるはずの使い魔召喚の魔導書が無くなっているのだけど、ファラの荷物に紛れてなかったか、というもの。


 結論から言えば、間違いなく紛れていた。というよりはファラが意図的に紛れ込ませた。イエガンに行くにあたっての荷造りの際、役立ちそうな本をいくつか持っていこうと父の書斎に入った。そしてその魔導書を見つけたのだ。

 使い魔召喚の魔導書は高価なものだが、ニベレット家にとってはそこまで珍しいものではない。一冊ぐらい持っていっても許してもらえるだろう。今までそんな種類のわがままは聞いてもらえてたし、今回も大丈夫なはず。

 学生レベルで使い魔を持ってたり、あるいは魔導書自体を持っていることは滅多にないことだから、周りと差をつけることができる。名門の出という箔がつくわけだから、父親も喜ぶはず。そんな考えで、これを持っていった。

 事実として、この手紙もそれを咎めるような調子ではなかった。すぐに返すよう荷物として送り届ければ問題なかっただろう。


 問題は、その魔導書がなくなっていたことだ。いつの間にか部屋の鍵が盗まれていて、魔導書とお小遣いの入った袋が消えていた。

 ニベレットの令嬢と知っての蛮行だろうか。だとしたら命知らずにも程があるし、その落とし前はつけてもらわなければならない。だが差し迫った問題として、魔導書を見つけなければならない。


「ファラさん、そろそろ授業の時間が」

「黙りなさい!」

 部屋の外から、ファラを慕ってついてきている同級生の女子生徒が声をかけてきた。ファラはそれを一喝して黙らせる。庶民のくせに。名門のこの私と仲がいいことがステータスになるからついてきているのは知ってますわ。


 ファラは考える。盗んだのは誰か。おおかた、卑しい庶民の出の生徒だろう。血筋でもないのに偶然才能があったからこの学校に入った運がいいだけの者。名門の出であるファラに嫉妬して嫌がらせをしたとか。あるいは貴重な魔導書が欲しかったとか。金まで一緒に取っている当たり、卑しい身分の思考が隠せてない。

 とにかく探して取り返さないと。それも早急に。ここの生徒ならば、全寮制の学校であるここで逃げ場はない。必ず探せるはず。



 そういえば、ひとりだけ逃げ出せた生徒がいたことを思い出す。入学早々に退学になった哀れな女。あの子も名門の出だったかしら。名門の面汚しね。そして、もしあの子が泥棒だった場合はどうすればいいのだろうとファラはふと思った。

 もう追いかけようはないだろう。それに、仮にも名門の出ならば泥棒のようなことはするはずないと容疑者から除外することにした。





「ねえー。村はまだ着かないのー?」

「もう少しですから。リゼさんがんばりましょう!」

「うー。リゼがんばる」

 昨日の朝に村を出て、一日と半分歩いている。まあ俺はリゼの肩に乗っているだけだから楽なんだけど。

 フィアナの村は他の村とは少し離れた場所に位置していたようだ。なるほど、そんな辺鄙な場所が狼に襲われていても、わざわざ数日かけてギルドの人達がやってくるかといえば難しいかもしれない。移動手段が徒歩か馬かというこの世界ならなおさら。


 狩人として少しは経験があって村の自然の中で育っていたフィアナと違って、都市育ちのお嬢様であるリゼにとっては歩きっぱなしは辛いらしい。まあ仕方ない。旅に出るというお前の決意の結果がこれだ。


 ちなみに昨夜は野宿だった。避けたいと思っていた矢先にこれとはなかなか大変だが、幸いにして狼にもオークにも遭遇することなく朝を迎えることができた。運がいい。



 それから俺の体感時間で一時間ほど歩くのが続いてから、急に視界が開けた。いくつかの建物と人の姿が見える。どうやら村に着いたらしい。

「やったー! 今日は野宿じゃない! ベッドで寝られる! わーい!」

「子供みたいにはしゃぐな!」

 気持ちはわかるけど。俺も野宿は嫌いだ。この村にもきっと酒場兼宿屋があるはずだから、まずはそこに向かうこととしよう。




「すまないな。宿はもう満員なんだよ」

「ふぉわっ!?」

「なんて声あげるてるんだ」

 酒場兼宿屋を経営している男にそう言われてしまった。満員。今夜は泊まれない。もともとそこまで大人数を宿泊させられるような場所でもないのだろう。ちょっとばかりまとまって人が来るとそれだけで満員になるんだろう。

「リゼさん。とりあえずご飯だけでも食べましょう。ね?」

「ううっ……今夜はどうやって寝ればいいの…………」

「いつまでそのままでいるつもりだ。起きろ」

 ガックシと床に崩れ落ちてうなだれているリゼをむりやり起こす。みっともないからやめなさい。


 酒場もかなり混んでいた。満員というわけではないから座ることはできそう。どこが空いてるかなと探しながら、そこにいる人たちを観察する。


 剣や弓、あるいは魔法の杖などといったそれぞれ得意な武器で武装をしている男女。そういう印象だ。若者から壮年の大人まで年齢層に幅はあるが、皆それぞれに自分に自信があるというような振る舞いをしている。つまり、程度の差はありつつも態度がでかい。

 まだ昼だというのに酒を飲んでる人たちも多い。そしてお互いに腕を自慢し合ったり自分の武勇伝を語り合ったりしている。


 戦うことが日常と化している人たち。かといって兵士にしては装備がバラバラ。もしかして、これが。

「ギルドに所属してる冒険者たち、なのか?」

「うん。たぶんそうっぽいねー」

 リゼもその場の雰囲気に少し戸惑いながら答えてくれた。

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