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8-6 盗賊の拠点

 依頼主からの要請もあったところで、俺達は作戦を練る。と言っても内容は簡単なもの。おびき寄せて、殺す。


 俺達は荷台に隠れているわけで、この馬車は外から見たらルファひとりが動かしているように見える。

 女の商人が一人だけで馬車を走らせてるなんて、盗賊連中からすれば格好の餌だ。見逃すはずがないだろう。


 俺達の進路上に、森の木に登って道を見張ってる奴がいる。獲物を見つければ盗賊の仲間に知らせる役目だ。そして多数の盗賊が現れて、獲物を取り囲むとかそんな流れ。

 取り囲まれたら、俺が反撃して殺す。たぶん奴らは魔法が使えないだろうから、戦闘は楽なはずだ。


 荷馬車の屋根の上に登ってじっと待つ。荷台を覆う布で隔たれてはいるけど、その布のすぐ下にはリゼがいるはず。距離的には近いから、無理矢理引き寄せられることもない。


 そのまま探査魔法を続けていると、見張りの盗賊がこちらに気付いた様子を見せた。

 ルファにはそのまま、馬車を走らせるよう言ってある。怖いだろうけど、冷静を保っているのはすごいな。荷台のリゼ達は息をひそめて気配を殺している。


 そのまま緊張した状態が続く。やがて盗賊達がこちらに近付いてくるのを感知して、俺は探査魔法をやめた。攻撃魔法に移るためだ。


 先程の旅人の時と同じく、盗賊達は左右の森から現れて進路を塞ぐ。このことを知っていたルファだけど、急に出てきたものだから驚いたようだ。小さな悲鳴をあげる。そのことが盗賊達の嗜虐心を煽るのだろう。ニヤニヤと男達が笑う。

 そして、リーダー格と思しき男が口を開いた。


「おい女。荷物を全部、俺達によこしてもらえねぇか? それからお前も、俺達と一緒に来い。いいことしてや」

「ファイヤーアロー」


 盗賊の言葉を最後まで聞く気にはならなかった。俺は小さく詠唱して、炎の矢を盗賊共の頭上に出現させる。そしてすかさず落す。


 奴らの装備は簡素なもので、盾や鎧なんてものはなかった。つまり炎の矢を防ぐことはできない。そして避ける暇も与えない。

 十人ほどいた盗賊達は、それぞれ音もなく矢に貫かれて死んだ。その多くが、なんで自分が死んだのかも理解できなかっただろう。


 荷台からカイ達が出てきて、確実に死んだかどうかを確かめる。大丈夫そうだな。



「コータさんすごいですね! こんなにすごい魔法が使える使い魔、わたし初めて見ました!」


 ルファが興奮気味に俺を褒める。うん、嬉しい。


「ふっふっふ。これも、ご主人様たるわたしが優秀だからですよルファさん! こう見えてわたし、魔法の才能だけは誰にも負けむぎゃー」


 リゼの作り話の自慢がウザいから、口を引っ張って黙らせた。その様子を見て、ルファはクスクスと笑う。それから。


「皆さんなら、わたしをマウグハまで無事に届けてくれそうで何よりです! 頼りにしてますね!」

「ひゃい! ひゃよりにひてふははい!」


 リゼが口を引っ張られたまま、ない胸をはる。この自信はどこから来るのだろうか。




 盗賊団は片付いたけど、まだ終わりではない。捕まった旅人を助けないと。まだ生きている人間だから、俺の探査魔法で位置はわかる。盗賊団の拠点に監禁されているらしい。


 奴らに留守番を置くという発想はなかったようで、拠点にはその人物。俺とリゼとカイ、それからルファでそこへ向かう。

 馬車で森の中に入るのは無謀だから、フィアナとユーリが残ってこれを守る。俺が探査魔法で見てるから、なにかあればすぐに戻れる。


 ルファがこっちについてくる理由だけど、金目の物があれば貰うと言っている。そこは商人なんだな。

 盗賊団が全滅した以上、持ち主がいなくなった物品も拠点にはいくつか残されているだろう。そういうのをちょっと失敬するつもりらしい。

 盗賊団と戦うと言った理由は、これもあるのかも。



 森の中にある洞穴。一見すると穴があるなんてわからないように木々で偽装されているそれが、盗賊団の拠点。

 カイが罠の存在を警戒して、慎重に確かめながら入っていく。どうやらそんなものは無いようだったけど。


 洞窟内は広く、あの規模の男の集団でも生活できる様子ではあった。

 掃除や衛生管理が行き届いているとは言えず、異臭が漂っているのはきついけど。あちこちに動物の骨や腐った肉なんかが転がっている。普段の食料だろうか。

 人間の死体なんかも転がっていて、こんな場所で寝るなんてなかなか想像がつかない。この死体は、盗賊行為の犠牲者なんだろうな。



「うー。掃除とかってしないのかな? 汚くないの?」

「汚いって思うなら、わざわざこんな所に住もうとはしないだろうな。頑張って街に住もうとしてるはず」

「確かに。毎日野宿みたいなものだしね」


 そんな無駄口を叩き合ってるうちに、目的の旅人は見つかった。洞窟の奥の方で、裸に剥かれて縄で拘束された様子で座らされていた。予想していた通り、女性だ。


 彼女が連れ去られてから俺達が奴らを殺すまでの間、少しだが時間は経っていた。その間にも乱暴されたのだろうか。体のあちこちに傷があり、すっかり怯えきっていた。


 それから、俺の先入観からの勘違いを訂正しなければいけない。

 人間の女と思っていたけど、正しくは獣人の女だった。灰色の毛並みの、おそらくは狼獣人。

 探査魔法じゃ、その種族が何なのかも正確にはわからないんだよな。四足歩行の狼と人間は区別ができるけど、二足歩行をしてたら同じ人間としか認識できない。人間と獣人が複数並んでたら、ぼんやりと違いが伝わってくるんだけど。今回は襲われた旅人達は彼女含めて全員が獣人みたいだったから。


 盗賊的には、獣人でも対象になるんだな。あまりに女との縁が薄いから、自分と異なる種族でも襲いたいとかそんなことだろうか。

 


「はじめまして、狼獣人さん。わたし達はギルドの冒険者です。商人の護衛任務の途中で通りかかりました。わたし達は味方です。安心してください」


 たとえ相手が獣人だろうと、助けることには変わりない。リゼが安心させるように声をかけながら、ゆっくり歩み寄る。


「盗賊はすべて殺しました。あなたの敵はいません。今からその縄、切りますね」


 地面に転がっていた、盗賊の誰かのナイフを拾う。そして可能な限りすばやく縄を切断。

 手近にあった布を獣人の女性に羽織らせた。そうすることでようやく、獣人の女性は安堵した表情を見せる。


「リゼお前、こういう時は会話能力高いよな。弱ってる相手と話すのはうまい」

「えー? なになに? わたしのこと見直した? もっと褒めてもいいのよ?」

「調子に乗るな」

「うー…………」


 やっぱりリゼはリゼだ。


 狼獣人が落ち着いて、俺達と話しができるまではもう少し時間がかかりそうだ。それは待つしかないだろう。

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