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8-2 別の商人の女

 周りを見る。

 どうやら危険は承知しつつも、とりあえず行ってみる方向でみんなの腹は決まっているようだ。


「大丈夫だよユーリくん! ユーリくんの大切な人、絶対助けてあげようね! なにかあっても、わたしのすごい魔法で全部解決するから!」


 リゼは特に行く気になってる。下手したらユーリ本人よりもだ。

 ユーリの手を握って力強く語りかける姿は、リゼの事を知る俺達から見れば全然頼もしくない。ユーリも若干引いてるし。

 あと、リゼの魔法じゃないからな。俺の魔法だからな。


「ゆ、ユーリくん! わたしもユーリくんのために頑張りたいです! ユーリくんがお世話になったおばあさんに、わたしも是非ご挨拶したいです!」

「う、うん。ありがとう……」


 フィアナも食い気味に迫っている。なんか別の感情が見え隠れするけど、気にしないことにしよう。


 そしてカイはといえば。


「確かに、あの人達が戦火に巻き込まれるのは忍びないな。助けられるなら助けたい」


 そうだな。人助けの精神だな。こいつはそういう奴だ。




「とまあ。そういうことです」


 以上、俺達の送別会に出席してくれた頼れる大人の方々に説明したことである。リゼが魔法を使えない魔女云々とかは、もちろん省略した。


 ユーリが俺達に提案した時と同じく、レガルテ達は困ったような表情を見せた。まあそうだよな。危険ってわかってる場所に今から行きますって宣言したわけだし。大人としては勧められる方針じゃない。


「もちろん、安全性はしっかり確認します。危ない橋を渡りに行く趣味はないですから。危険だと思ったら諦めます……ユーリが」


 名前を出されたユーリがこくこくと頷いた。まあ、そういうことだ。結局のところ、ユーリがこれは無理だと思ったらそれで終わる話。ユーリだって俺達のことが大切だろうから、とんでもない危険に晒したがることはないだろう。


「とりあえず、マウグハの街まで行ってみます。そこで詳しい状況を見て、ホムバモルへ入れそうなら入るということで」


 マウグハとは、ここから北にしばらく行ったところにある街だ。城塞都市ではない、そんなに大きくはない街。治めているのは、その街を中心とした領土の領主。ちなみに噂話でしか知らないことだが、その人物は領主としての人徳がある人物らしい。北国で厳しい環境にある土地の中で、出来る限り良い治世を心がけており領民からの信頼も高い。どこぞの元領主とは大違いの人物だ。

 だからその街までは、普通に何の問題もなく行ける。そこから先へは現地で様子見ということで。


「それからマウグハの街までの仕事も見つけました。普通に歩いて向かうと時間がかかってしまいますので。ギルドで、マウグハまでの商人の護衛任務を見つけました」

「商人の?」

「ええ。なにか事情があって、冒険者に護衛を依頼した商人がいました」




 別に珍しいことじゃない。街から街へと旅をする商人というのは、必ず護衛を連れているものだ。

 この世界、街の外は危険である。狼にオークといった獰猛な野生動物や怪物が存在して、いつ襲われるかわからない。

 それ以外にも盗賊なんかがいる。金持ちが商売相手で高価な物品を運んでいる商人は、奴らにとって恰好の獲物だ。

 そんな荒くれ共から自らの生命と商売道具を守るために、商人は必ず護衛をつける。


 これが大規模な商会だと、自前の護衛戦力を所持している。下手すると軍隊レベルの規模だ。大規模な商隊を守る大規模な軍隊。その光景は圧巻だろう。


 けれどそうではない、個人でやってる小規模な商人は、護衛を現地調達することも多い。もちろん彼らだって専属の護衛を雇ってることも多いけど、何らかの形で護衛との契約が切れることもある。

 そういう時、どこで護衛を募集するか。冒険者ギルドの出番だ。


 昨日ホムバモル行きの方針が決まってから、カイは早速ギルドの依頼が貼られた掲示板とにらめっこした。そして、北方面へ向かう商人の護衛の依頼を見つけたというわけだ。

 依頼主は個人で商人をやってる、というかごく最近始めた若い女。

 若い女の商人にいい思い出は無いけど、それとこれとは話は別。あんなことを考える商人は、あの人だけだろう。だから今回は、しっかり守らせてもらおう。




「少し準備をしてから、明後日にはここを出ようと思ってます。いままでお世話になりました」


 改めてレガルテ達に礼をするカイ。俺達もそれに続く。

 レガルテ達も、俺達なりの考えを受け入れてくれたらしい。それぞれ笑顔を見せた。


「そうか。お前達が決めた事だ。理由があるなら、止めることもできないしな……立派に、目的を果たしてこい。死なない程度にな」


 お前達なら死なないだろうけど。俺達の力を把握している彼らは、心配などしていない様子だった。




 そして二日後、俺達は予定通りこの街を発つ。出発時刻は夜中にした。依頼主である商人が了承してくれて良かった。

 というわけで俺達は、都市の端の北門の前に集まっている。月と星々が俺達の新しい門出を見守ってくれているようだ。


 なんで夜中に出るのかと言えば、簡単な話だ。ゼトルが寝てる時間だから。

 あの男の探査魔法がどれほどの範囲かは知らないけど、俺と同じく都市全体をカバーできる可能性はあった。

 隠れ続けていた俺達が都市から出るところをあの魔法で見られたら、追っ手を差し向けられる可能性がある。それは面倒だ。


 だから、あの男が眠っている時間にこっそりといなくなることにした。

 今後ゼトルが俺達の行方を気にしていたら、南に向かいましたとレガルテ達に嘘を言ってもらうようお願いしておいた。最後まで迷惑をかけてすまないとは思っている。


 ややあって。馬車がこっちに向かってくる音が聞こえた。小規模な荷馬車だ。

 馬を操る御者こそが、今回の依頼主である商人でもある。俺達の前で止まった馬車から、女性がひとり降りてくる。


 カイとは事前の打ち合わせで会っているらしいが、俺含めてそれ以外とは初対面。


 話に聞いていた通りの若い女。ターナとかと同い年ぐらいに見えるから、二十歳だろうか。

 月明かりと松明に、きれいな金髪が照らされている。彼女はそれをポニーテールにまとめていた。スレンダーな体型は活発そうな印象を与えさせる。


「はじめまして! ウィルファ・ライランドといいます! ウィルだと男っぽいので、ルファとでも呼んでください。よろしくお願いします!」


 はきはきとした喋り方は、見た目の印象と一致しているように思えた。次いで彼女はこう言った。


「以前は父と共に、オリムエナ商会で商人をしていました。なので商売のことはよくわかってますよ!」



 うん? オリムエナ商会?

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