表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第8章 北国へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

173/515

8-1 次の目的地

 昨日の事だ。


 この街から出るのは決まったことだけど、さりとて行く先は決まってない。

 冒険者の旅なら目的がないのはよくあることだけど、どの門から街を出るかぐらいは決めておきたい。


 首都に向かうのは、リゼ的には絶対に駄目。だから西の門はくぐらない。


 レメアルド王国第二の都市、ザサルに向かうのは楽しそうだ。この世界の大都市というものを見てみたい。ここよりもすごいのだろうし。

 ミーナ達を追いかけて南に行くのもありだ。海がある街って、なんか憧れるもんな。



「僕も、いい? 行きたい所がある」


 みんなの話し合いを黙って聞いていたユーリが、不意に口を出した。珍しいと俺達は顔を見合わせる。普段口数が少なく、こういう場面では結論に唯々諾々と従うタイプだ。

 決して自分の意思がない奴じゃないし、頼れる仲間だし意見はどんどん言ってくれていい。そういうわけで発言を促してみる。するとユーリはまっすぐこちらを見つめていった。


「僕は、ホムバモルに行きたい」


 その言葉に、俺達はまた当惑して顔を見合わせる。



 ホムバモル。この国最北の城塞都市。極寒の地にあるため、今みたいな冬に行くのは困難。城塞都市ごと独立を計画していることで有名。

 先日の事件で、不穏分子をこの街に派遣してきた奴ら。


 そのホムバモルで間違いないのかとユーリに訪ねた。彼はしっかりと頷く。

 その意味を俺達はわかりかねていたけど、付き合いの長いカイには思い当たる節があったようだ。


「もしかして、あのおばあさんに会いたいのか?」


 ユーリはその言葉にこくこくと頷いた。




 つまりホムバモルには、同じワーウルフの知り合いがいるってことらしい。そして、ホムバモルが壊滅する前に会って別れを告げたい。可能なら連れ出したい。そういうこと。

 壊滅する前に。そう、ホムバモルは近いうちに、瓦礫の山と化す可能性が高い。




 考えてみれば当然だ。城塞都市がまるごと独立を画策している。住民の多くもそれに賛成してるという状態。当然ながら国が放っておくはずがない。

 その上で他の不穏分子と組んでの、別の城塞都市を襲って城を占拠するという事件だ。このままにしておけば、いずれまた新たな事件が起こってしまう。今度こそ、王国の領土が新しい国の領土に変わってしまうかもしれない。

 なにしろ二百人もの兵力をポンと出せる程度の敵だ。事態は一刻を争う。


 そう考えれば、国がホムバモルに軍隊を差し向けるのは容易に想像がつく。攻め込んで、向こうにもいるだろう城主を打ち倒す。

 そして新しい城主を国が任命して、独立の可能性を摘む。


 当然ながら、ホムバモルは抵抗するだろう。それこそ都市を挙げて。軍隊だけではなく市民も抵抗に加わるだろう。都市の方針に賛成なのだから。

 となれば、これはもはや戦争である。市民が抵抗する気力がなくなるまで、王国軍は徹底して都市を攻撃する可能性がある、

 さすがに、市民全員を殺して城壁内を草一本生えないような焦土と化すみたいなことはしないだろうけど。でも都市内が壊滅して瓦礫の山が築かれることは大いにありえる。

 あと、寒い地方だから草は元々生えにくいらしい。やっぱり、焦土になるかもしれないな。




 さて、そんなホムバモルだけど、実はカイとユーリは以前訪れたことがあるという。その時はもっと暖かい時期だったとのこと。

 独立の機運こそあったが今ほど過激ではなかった頃らしい。


 そこでユーリは、自分と同じワーウルフのおばあさんとその家族に出会い、大変良くしてもらったという。


 ホムバモルが壊滅の危機にある今、その一族にもう一度会いたいという。

 そして、その家族が独立賛成派なのかどうか。あるいは戦争に参加するかどうかはわからないけど、可能であればホムバモルから脱出して安全圏に逃げるよう説得もしたい。ユーリはそう説明した。


 同族に対する意識は薄そうな印象のユーリだけど、そのおばあさんには特別な感情があるんだろうな。



 事情はわかった。けれど、よし行こうとは簡単にはいかない。


 目的地は近いうちに戦争が起こりそうな都市だ。危険すぎる。そりゃ危険な目には何度も遭ってきたけど、わざわざ好きで関わりに行ったわけじゃない。

 戦争に自分から巻き込まれに行くのは、かなり躊躇われる行為だ。



「一応、戦争になるのはもうしばらく先じゃないかって噂ではある。今の季節だと寒すぎて、大規模な行軍は無理だから。もう少し暖かい季節になるまでは戦争は起こらないはず」


 カイがフォローするように言った。カイだって、ユーリの希望は叶えてあげたいのだろう。

 けれど寒いからホムバモルに行くのが難しいっていうのは、俺達にとっても事情は同じだ。極寒の環境を歩き続けるとか、かなり過酷な旅になるぞ。


 そもそも、ホムバモルに入れるかどうか自体が怪しい。

 向こうだって戦争になるのはわかってるのだから、正体不明の冒険者集団なんて都市内に入れたがらないだろう。門の時点で弾かれることも考えられる。国が雇って、内部で妨害行為を行ったりスパイをしたりとかが考えられるから。

 それか逆に、入れたとしても出られないとかもありえる。ホムバモルは戦争に向けて戦力が欲しいはずだ。都市の中に入れた冒険者を外に出さず、戦争に参加させることを強制するなんてこともありえるはず。

 戦争に巻き込まれに行くのは、さすが避けたい事態だ。


 それに王国軍の行軍が難しいとはいえ、冬の間に行けるところまでは行っているはずだ。暖かくなれば即座に攻め込めるように。ホムバモルだってそれを見て、有利な季節である冬の内に王国軍を強襲するって場合もある。

 寒いから戦争はまだ、という判断は危険だ。


 あとは、ホムバモルにはレオナリアがいる可能性が高いって事も、考えておかなきゃいけない。もし俺達がいるのが見つかれば、かなり面倒なことになる。


 それから、それから…………。



「もー! コータってばさっきから! 行かない理由ばっかり考えてるじゃん!」

「ぐえー」


 俺が考えた事をまとめてみんなに伝えていると、リゼがそう言いながら俺の体を握りしめた。やめろ苦しい。


 リゼはユーリの希望を叶えることを第一に考えているらしい。いや、それは俺も同じだ。でもそのために冒さなきゃいけないリスクを考えなければ。

 いやわかった。わかったから。とりあえずその手を放せ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ