7-47 見送りの宴
用意周到といえば、この街に元々住んでいた獣人達を巻き込むために、奴らは手の込んだことをした。
セリアの指示で獣人が集まる場所に兵士が送り込まれ、その態度に獣人の怒りが爆発した。あの出来事も、セリアと獣人解放同盟が画策したこと。
カイの話を聞いて兵士を送り込んだとのことだけど、それはタイミングがたまたま合っただけのことらしい。いずれにせよ機会を見て、兵士を送るのは決まっていたこと。
そこでわざと横柄な態度を取らせることで、解放同盟とは無関係なこの街に前から住んでいた獣人にも怒りを抱かせた。そこにリザワード達が革命を扇動する。
あの時蜂起した獣人の軍勢の中には、新たに参加した街の住民が少なくない数含まれていたらしい。
そんなことがあったから、この街の獣人に対する風当たりは強くなった。
獣人コミュニティの中心だった宿屋は、不穏分子と知りながら潜伏場所を提供していた罪で営業停止処分。主人や従業員は逮捕された。まあ解放同盟に協力していたのは事実だから、当然の結果とも言えるだろう。
その他蜂起に加担した獣人達も、ことごとく逮捕された。獣人達が集まるあの地区は、人がいなくなり壊滅状態だという。
フィアナとユーリで様子を見に行ったところ、親を失った狼獣人の子供の兄弟が、路上でうずくまっているのを見かけたとのこと。
もしかしたら彼らの親は、俺が殺した誰かだったのかもしれない。
蜂起に加担したわけではない獣人達も、人間達との溝の深まりを感じて多くがこの街を出た。あのオロゾという梟獣人もそのひとり。
もっとも彼の場合は少し事情が違うけど。どうやらミーナに、旅についてきてほしいと頼まれたそうな。
ミーナは、魔法使いとしての人生の先輩を見つけたつもりらしい。オロゾの方は、孫娘でもできた感覚なんだろうか。ふたりは意外に馬が合う様子で、既にこの街を出て旅を始めている。
当初の予定通り、海がある街を目指すという。人間と使い魔と獣人の一団の旅がどんなものかはちょっと気になる。いずれ再会することもあるだろうから、旅の話を聞くとしよう。
街を出たといえば、不穏な話もある。
レオナリアと数人の仲間の行方が知れない。
城が解放された後しばらくして、この街の北の門が数人の武装した人間に襲われるという事件が起こったそうだ。奴らは強引に門を突破し、城壁の外に出た。それを率いていたのは若い女だったらしい。
おそらくそれが、レオナリアとその仲間なのだろう。カイが戦闘中に聞いた会話から、向かう先はホムバモルと思われる。本拠地に帰るということなんだろう。
ホムバモルの戦力部隊のリーダーは、壮年の男だという。彼についてはどうやら、今回の戦いで討ち死にしたらしい。
カイと戦った、斧を持った男がそれなんだろう。仲間達を逃がすために命を捨てても戦い抜いた。敵ながら天晴だ。レオナリアが生き残って、これからも不穏分子として戦い続けるだろうことを考えると、頭が痛くなるけれど。
あいつ、誇り高い騎士だったのにな。なんでテロリストに協力なんてしたのだろうか。他に士官先がなかったのか。
主を守れず失った騎士というのがどういうものなのか、俺はよく知らなかった。いつか誰かに聞く必要があるかもしれないな。
「カイが、帰ってきた」
俺がそんなことを考えてると、不意にユーリがそう言った。確かに抜け道の方から足音がする。
ここ数日の間の外に出る用事なんかは、ほぼ全部カイが引き受けていた。リゼが外に出られないから仕方ない。
城の様子を見たり、買い物に行ったり。そんな用事だ。よし、じゃあそろそろ夕食にするか。
と、そこで気づく。足音が多い。カイひとりだけで戻ってきたわけではないらしい。
「やあやあ、若者諸君! 夕食はまだだろう? いろいろ持ってきたから、今日は宴にしよう!」
「あなた達には助けられましたからね。感謝を表明するのは大人の、そして高貴なる者の義務ですわ」
シュリーとマルカが上機嫌そうに、俺達のいる部屋に入ってくる。その後にカイが続く。レガルテとターナもいた。
「明日か明後日にはここを去るんだろ? みんなには世話になったからね。大した見送りもできないが、なにもしないわけにはいかないと思って」
ターナが、たくさんの酒瓶を机の上に置きながら言った。だからお見送りパーティーを開いてくれるのか。
いい仲間を持った。大変な戦いばかりだったけど、得られたものも確かにあった。
「それと、これも俺達からの餞別だ」
レガルテが俺達に何かを配る。ギルドの登録証だ。今朝カイが出るときに、俺達のを全員分集めてたのが返された。
いや、違う。新しいものになっていた。鉄製だったリゼの登録証が、銅でできたものになっていた。フィアナのも同様。
1から10までの間でランク分けされた階級で、リゼが登録した時は最低位の10。登録証が銅に変わるのはランク7に上がった時なわけで。
一気に三階級上がったということだ。
ユーリのも三階級上がって、銅製に銀のラインが二本の、ランク5の登録証。カイはニ階級あがって、銀素材のランク4だ。
上の階級ほど上がりにくいってことなんだろう。それにしてもすごいけど。
「成果を積み重ねていった冒険者は階級が上がっていく……とはいえ、君達の活躍は成果なんて言葉では言い表せないから。この街にいる間に、こうやって階級をあげてやりたかった。それが、俺達なりの礼だ。本当にありがとう」
「早めに申請が通るように、城主一家命令でギルドの運営に口利きしたのさ。うまく行ってよかった」
レガルテとターナは、そう言って愉快そうに笑った。
そんな風にして、宴は行われた。城から持ってきたり店から買ってきた、肉や果物や珍しいお菓子なんかがテーブルに並ぶ。酒もやたらと種類があった。シュリーの要望なんだろうな。
レガルテとターナが豪華な食事を振る舞うときは、面倒ごとが起こる時。ただし今は別だ。色々な思い出話に花を咲かせたりして、楽しい時間が続いた。
「そういえば、みんなはこれからどこに行くつもりなんだ?」
その途中、シュリーが酒を飲みながらなんとなしに聞いてきた。みんなそれなりに気になることらしく、レガルテ達もこちらを見る。
俺達を代表して答えるのはカイだ。
「はい。ホムバモルに行くつもりです」
その回答は予想できてなかったのか、大人達は顔を見合わせた。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。監査団騒乱編、これにて終了です。
次回からまた新しい章が始まります。引き続き読んでいただけると喜びます。
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