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7-46 街を去る前

 リゼの手品で誤魔化せたのは小手先だけのこと。

 ゼトルが暇を見つけて探査魔法を使ったら、すぐに見つかるだろう。そうでなくても、逃げたという事実はゼトルに怪しまれる理由としては十分だ。


 奴はリゼこそが魔導書泥棒だと確信している。そして、いずれ捕まえようとするだろう。賠償のためではなく、家の面子とかのために。

 リゼが悪いのは重々承知だけど、こちらとしてはそういう展開は避けたい。



 というわけで、俺達は今チェバルの屋敷にお邪魔している。宿は引き払って、少しの間ここで寝泊まりだ。


 監査団が来るとなったとき、サキナックの屋敷と同様にこっちも物理的に封鎖された。けれど秘密の抜け道は閉じられてなかったから、そこから入らせてもらうことにした。

 ここなら探査魔法も通じないから、ゼトルに見つかることもない。あの忙しい人が、わざわざ封鎖されてる場所に俺達を探しに来ることもないだろう。監査の調査で立ち入るという可能性もなくはないけど、しばらくはそれどころじゃないはず。


 少しの間ここにいて、隙を見て街から出ていくつもりだ。それまでの間の仮住まい。


 ちゃんとターナ達に許可は取ってるぞ。事後承諾だけど。



「それしにても、やっぱり少し寂しいですね。大変なことばかりでしたけど、ここの人はみんないい人でした」


 フィアナが、お茶を用意しながらそう言った。少なくとも俺とリゼは屋敷の中に引きこもらないといけないから、街の食堂で夕食というわけにはいかない。

 リゼに料理をさせるのは少々危なっかしいから、フィアナが食事を用意してくれてるというわけだ。本当に苦労をかけます。



「そうだねー。いい街だったよね。たぶん、これからもっといい街になるんじゃないかな」

「そうですね。ターナさん達なら、そうしてくれると思います」


 その過程を見れないのは、少々残念だけど。



 リゼと俺がこの街を去ると言えば、フィアナ達は迷わずついていくと言ってくれた。パーティーで仲間なのだから当然だと。

 ありがたいことだな。リゼの個人的な事情に付き合ってくれるなんて。


 そういうわけで、俺達四人と使い魔一匹は揃って街を出る。俺達がいなくなった後の街のことが少し気がかりだけど。

 それは、あの城主やレガルテ達が作る新しい街を見られないという意味でもある。それから、また何らかの危機が起こった時に、俺達の力が必要なのではという懸念もある。


 街を去ることはレガルテとターナには伝えている。城主にも話は行ってるだろう。伝えた時に、この街のこれからについての話題はやはり出た。レガルテもターナも、そこは大した心配をしていないという様子だったけど。


「なに。自分達のことは自分達でやれるさ。それに今回のことで、国の連中もここの全面支援をしなきゃいけなくなったしな」


 レガルテはそう言っていた。


 確かにその通りだ。国が派遣した監査団の、しかも忠誠を誓っている騎士によって城が乗っ取られた。こんなこと、国にとってはとんでもない不祥事だ。今回の事件の調査が行われているけど、首都では既に大騒ぎになっているらしい。

 これは一体誰の責任なんだとか、そんな話らしい。


 城での戦いで捕縛した、セリア達を含めた敵に対する取り調べで、事件の真相は大体は明らかになった。


 ジェラルダン親子は五年前に国に士官した騎士であり、その時から不穏分子の手先だったことが判明している。具体的には、ザサル=レメアルドだ。

 あの親子は間違いなく血縁者ではあるが、ジェラルダンという姓は偽名だったらしい。本名については調べている途中だけど、その情報に大した意味はないだろう。

 とにかく奴らは、国に忠誠を誓うと見せかけて騎士団に入り込み、五年かけて信頼を得た。その間に、新たな東レメアルドの領土を手に入れるチャンスを伺っていて、そして目をつけられたのがここヴァラスビアというわけだ。

 それもすべて、ザサルの街に潜伏している奴らの上の存在の指示だろう。つまり建国の王の血筋を引く反逆者。

 その潜伏場所については、未だにわかっていない。


 ジェラルダン親子のような、王国に潜入している不穏分子が他にもいるかもしれない。首都の権力者達が慌てている理由はこれもある。


 そりゃそうだよな。ザサル=レメアルドは歴史ある不穏分子だ。工作員が他にいることは確実。

 あるいは、もっと前から奴らの手先の人間が、自分達の近くで暗躍しているかもしれない。そういう恐怖を、権力者達は感じているらしい。

 大変だな。俺達には関係ないけど。



 今回の城の乗っ取り騒動は、セリアが所属しているザサル=レメアルドを含めた主要な不穏分子三勢力が、互いに手を組んで行った事というのも判明した。まあそれは、状況を見れば明らかだけど。


 それぞれの利害は相反するものではない。東レメアルドが再び領土を獲得すれば、ホムバモルが独立した際の防波堤となり得る。同盟を組んで、レメアルドとの戦争においても協力できる。

 ホムバモルにしても東レメアルドにしても、新しい国家の権力構造に獣人を組み込むことに意欲を見せていたという。となれば、獣人解放同盟が協力を拒む理由はない。


 先遣隊を襲った魔法使いはザサル=レメアルドが雇った者。首都からの増援二百人の兵士とすり替わった敵兵は、あれはホムバモルの兵士だったらしい。

 ちなみに本来の二百人の兵隊は、ほぼ丸腰だったところをホムバモルの軍隊に襲われたらしい。行軍進路の途中の森の中で、大量の死体が見つかったとのこと。


 先遣隊になにかあれば首都から急いで増援を送るという作戦は、セリアの父親が立案したものらしい。

 武器をこの都市で調達するというのも、同じくあの騎士の画策だろう。セリアはそれを忠実に実行したというわけだ。


 先遣隊として城に先行して潜り込んだセリアは、城の構造を調べた。そしてどう攻めれば制圧できるかを研究して、味方の兵士達に情報を送っていたという。


 監査団の本体が予定より早く来ることになった原因。首都を始めとした各都市で不穏分子の攻撃や放棄があったという情報は、あれはデマだった。この都市以外の国の各都市は、いつもと変わらない平穏さだった。

 同時多発テロなんて起こらなかったと言えば、まあ良かったと思えることなのかもな。


 これもセリアの父親や、あるいは各地の不穏分子の仲間達が本隊に流した偽情報ってことなんだろう。本隊が十分な準備無しにヴァラスビア入りさせるための方便。


 なんとも周到な用意をしていたらしい。

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