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2-11 旅の方針

 鬱蒼とした森に覆われている土地の中に、浮島のように村々が点在していてその間を細い道がつないでいる。全部の村がそうだし、領主様の住んでいるところはちょっと大きな街ではあるが、それも森に囲まれていることに変わりはない。

 地図で描かれている範囲でいえば西の端のあたり。そこに俺たちが今いる村が描かれていた。領主様の領土的にも、この村は西の端に存在するらしい。それより西側に魔法学校があって、そこは国の直轄地である。


「なんたって王立魔法学校だからねー。ちなみにイエガンがあるのがここのあたり」

 リゼが地図の外、この村の西側を指し示す。ちなみにこの学校も森に囲まれた場所にあるという。

「そして、わたしの家があるのはさらに西。この国の首都レメアルディアがこのあたり」

 さらに西側にずっと行ったところを指差す。魔法使いの名門っていうのはやはり首都に住まいを構えるものらしい。


「そういえば国ってなんだ? いや国がなにかは知ってるんだけど、自分が今いるのがなんて国かってのもそう言えば知らなかったと思って」

「レメアルド王国。この大陸の中で二番目に大きな国。大昔にレメアルドって英雄が建国したんだって。王様の名前も代々レメアルドだよ。で、旅に出るにしてもこっちには行けない」

「それはわかる。学校にも戻りたくないし、首都には家があるもんな」

 それは、リゼの旅の目的としては絶対に近づきたくないものだろう。だから、とりあえずは東に進んでいくということになるか。


「東にずっと行けば、レメアルドで二番目に大きい街があるんだよね。ザサルっていうんだけど。とりあえずそこを目指すべきだと思う。そこに行けば本物の魔法使いが大勢いるし、魔法の本がたくさんある図書館とかがあるから、わたしは修行ができるしコータの帰る方法もわかるかも。それからさらに東に行って、外国に行くとか」

 国を出てしまえば、リゼのことを追いかけている人たちもなかなか手が出せなくなるという打算もあるんだろうな。

「まあ、それはこのザサル? っていう都市に着いてから考えよう。とりあえずはここに行くんだな?」

「でも遠いから、お金が足りないかも」

 ああ、途中でなにか食べるにも寝泊まりするにも金がかかる。野宿はできるだけやりたくないし。リゼは金も盗んだそうだから今はまだ余裕があると言っても、いずれ尽きるだろうし。

「どうやって金を稼ぐんだ」

「ギルドで働く」


 昨日もこの言葉を耳にした気がする。ギルドか。ここに依頼をすれば金がかかるということは、ここの依頼を受ければ金が稼げるということか。金は絶対に必要だから、なんらかの方法で稼がないといけない。ギルドっていうのは俺たちみたいな旅人にも稼ぎやすい仕事なのかもしれない。


「フィアナ。ここの領主が住んでいるこの街にギルドってある?」

「あ、はい。あるらしいですよ。三年ぐらい前に設置されたって聞きました」

 その街は、ここからもう一つ村を挟んで道一本で行ける。ここなら手持ちの金で普通にたどり着けるだろう。そこからは。

「よしコータ! とりあえずここで稼ごう!」

「ああ……わかった。ちなみに稼ぐって言ってもどんなことするかわからないんだけど……」

「昨日と同じ感じかな! お金がある人達が狼の被害に困ってるからお金払って代わりに退治してくださいって依頼が来る。で、それを受けて狼を退治できたらお金がもらえる」

「つまり、昨日と同じようなことをしなきゃならないわけか……」

 昨日はけっこうひどい目に遭ったような気がするが、あんなことをこれから日常的にやるのは気が引けるというか。いやしかし、それぐらいしか稼ぐ方法ってないのかもしれないな。

「大丈夫だよ。わたしたちならなんとかなる。頼りになる仲間を探して一緒に戦えばうまくいくよ。それに、人助けだと思ってさ」

「…………」


 リゼはお尋ね者だ。盗みだって働いた。その口で人助けとは。けれど、リゼがこういう奴ってのはよくわかってる。根はいいやつ。そしてそれは嫌いじゃない。


「わかった。やってやる。一緒に冒険しよう」

「わーい! やったー! コータ大好き!」

「ぐえっ! だから! それはやめろ! 抱きつくな!」

 これにも慣れていかなきゃいけないのかな。とりあえずの方針が決まったのはいいとしようか。


 そんな俺達を、フィアナは少し羨ましそうに見つめていた。




「本当にお世話になりました」

 翌日の朝。完成した服にさっそく着替えてその辺の村娘にしか見えなくなったリゼが村人達に頭を下げていた。ローブは鞄の中だし折れた杖はもったいないけど捨てた。魔法使いとわかる要素はゼロだ。

「こちらこそ。なんとお礼を申し上げていいやら。狼を退治し村を救っていただき、ありがとうございました」

 村人を代表して村長がお礼を言った。


 準備も整ったし方針もとりあえず決まった。だったら旅立つ時である。ここの村の人達はみんないい人ばかりだったし別れは寂しいが、俺達にも目的があるわけだし。


「あの! リゼさん! コータさん!」

 それから、フィアナも声をかけてきた。この子には特に助けられた。これからも元気で…………とそこで気づく。フィアナの格好は狼退治した時の狩人装備。

「お願いがあります! …………もし良かったら、わたしも旅に一緒に行ってもいいでしょうか……? 力になると思います!」

「えっと…………」

 これは予想していなかった。見れば、彼女の父親も頭を下げている。


「申し訳ありません。昨日の晩、急に言い出しまして。冒険に出たいと…………ご迷惑ならお断りしても構いませんので」


 こんな小さな村からは出て外で冒険したい。できれば尊敬できる人とか、信頼できる人と一緒に。フィアナにはそんな憧れがあったんだろう。そしてリゼは、フィアナにはそういう人に映ってしまった。

 とはいえどうしよう。村の中では助けになったフィアナだが、俺達としても経験がない旅の中でこの子を守り切れるかといえば…………。


「もちろんいいですよ! フィアナちゃん! これからもよろしくね!」

「おい!」

「わーい! ありがとうございますリゼさん! よろしくおねがいします!」

 こいつはまた、深く考えずに同意しやがって。フィアナも喜んでいるし、村人たちもこの村から立派な冒険者が、みたいに嬉しそうだ。俺一人が反対しても、たぶんこの雰囲気は覆せなさそう。


 仕方がない。一緒に頑張るか。それに、リゼを制止する役目は俺ひとりじゃ少し荷が重いし、人手が少しはあったほうがいい。

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