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7-43 敵の本陣

 リゼとリハルト。兄妹で並んで走り、敵の本部たる大広間に一気に踏み込んでいく。

 リハルトが言うには、敵の数はかなり損耗してるとのこと。それは探査魔法で確認したら間違いない。二百人の軍勢とか獣人の群れは、その数をめっきり減らしてしまっていた。


 となれば、小細工無しで攻め込むのが一番早いらしい。少なくとも、リハルトにとっては自分の実力で制圧できる状況と思っているようだ。


「再び参上、優秀な魔女さんがやってきましたよ! わたしが来たからには何もかもがかいけうわー!」


 勢いのまま踏み込んだリゼに、敵の兵士達が一斉に剣を持って襲いかかってくる。俺は咄嗟に防御魔法を使おうとしたが、それより先にリハルトが動いた。


 相変わらずの無詠唱で風魔法を発動。とてつもない威力で、こちらに走ってくる敵兵を風力だけで押し止める。


 続けてウインドカッター的な魔法に発展させたのだろうか。敵兵の体が次々と切り刻まれていく。鎧のような硬い部分は切りにくいのか、隙間を狙って的確にダメージを与えていっている。その精度も驚異的だ。


 それでも、敵もこれに立ち向かう。盾で身を守りながら、風に立ち向かい前進してくる敵が複数。リハルトはそれを見て、風魔法を止めた。

 続けて放ったのは炎の矢。これを敵の頭上に出現させ、垂直落下させて当てていく。その矢に貫かれて敵のほとんどが死んだ。


 それでも、これに耐えてリハルトに肉薄する者がひとり。ほかの兵士よりも年が高く、経験を積んでいる様子の者。装備も充実しているように見える。

 この街で調達されたものではない。自分がずっと使っている物。そういう風に思えた。盾には独特の紋章。


 兵士ではない。それを統率したり立場が上だったりする存在だろう。すなわち、騎士。

 セリアの父親だろうか。


 その騎士はリハルトに肉薄。剣で斬りかかる。防具を装備していないリハルトは、しかしこれに冷静に対処した。手に風を纏わせてこれを刃として、文字通りの手刀で剣を受け止める。

 風魔法の使い方にこんなのがあったのか。すべて無詠唱でやっているから、なんという魔法なのかわからないのが惜しい。


 剣術の腕は敵の騎士の方が上なのかもしれない。しかしリハルトもまた、手刀でこれをさばきつつも別の魔法を用いて敵を牽制。互角の勝負となっている。



「父上! 今助けに行きます!」


 セリアがそう言いながら、リハルト達の方に走る。やはりあれが父上だったか。しかしそれはできなかった。なぜなら。


「ちょっと待った! あなたの相手はわたしです」

「うるさいどけ!」

「にぎゃー!? こ、コータ!」

「はいはい……」


 セリアの前にリゼが立ちはだかったから。セリアは必死の形相でリゼを斬り殺そうと剣を振る。

 彼女には味方の兵士などほとんど残っておらず、敗北が近いことはわかっているのだろう。だからこそ、最後の抵抗を全力でやる。そういう気迫があった。


 完全にそれに怯んでるリゼの代わりに、防御魔法を使い壁を作り剣を受け止める。ちなみに完全無詠唱で。

 別に、リハルトに対抗したわけじゃないぞ。本当だってば。


「この! このっ!」

「えへへ。通れませんよ。わたしの魔法はすごいんだから!」


 怒りと焦りが浮かんだ表情で、剣を壁に打ち付けるセリア。しかし壁はびくともしない。そして得意げなリゼ。お前の魔法じゃないからな。俺のだからな。


 セリアは壁を突破するのを諦め、迂回して行くことにしたようだ。そのために横を向き、そして気付いたらしい。


 自分の周りを城の兵士が取り囲んでいることを。

 この場で捕まえていた兵士達は、みんな手を縛っていたはず。それなのになぜ。そんな疑問が浮かんでいるのがわかる。

 そんなセリアの前を、一匹の蝶がひらひらと舞った。


 リゼやリハルトがここに派手に踏み込むと同時に、リハルトの使い魔であるフリィという名の蝶が捕まった者達の縄を切断していたんだ。

 敵兵達は戦いにかかりっきりで、捕虜が解放されたなんて気付かなかった。そしてこの現状だ。


 騎士ふたり以外の敵兵はみんな、解放された兵士達によって殺されるか組み伏せられるかしていた。

 セリアの父親もまた、リハルトの攻撃によりダウンしているようだ。あいつ本当に強いな。


 そしてセリアはといえば、やはり戦意を喪失した。一瞬だけ、逃げる策はないかと辺りを見回したようだ。しかしそんなものは無く、諦めた様子で剣を手放した。


 こうして、城内の敵対勢力の制圧が完了した。


 探査魔法で置いてきた仲間達の様子を見る。みんな無事だと伝えると、リゼもほっとしたような表情をした。

 木の怪物の動きも止まった。向こうも、探査魔法みたいな効果が得られる魔法を使ってるんだっけ。だったら、戦いが終わったことは把握してるよな。


 それはつまり、あのゼトルという男がここに、もうすぐで来る可能性が高いというわけで。



「よしコータ、みんなに早く会いたいよね! 行こう行こう!」

「リーゼロッテ。話しがある」

「あーうー……」


 案の定リハルトに呼び止められる。仕方がない。ここで強引に逃げても、後々に問題が残るだけだ。

 リゼもそれがわかっているのか、緊張した表情を見せた。


「お、お兄ちゃん! あのね! さっき見た通り、わたしは魔法が使えるようになったの! ちょっと頑張ったら、こうなったの。だから……ううん。だけど、家には戻りません。このまま、コータや仲間と一緒に旅がしたいです」


 魔法が使えるようになったのなら、もう家の恥ではない。家に戻っても問題ないはずだ。リハルトもそう言うだろう。


 けれどリゼは、そうするわけにはいかなかった。

 家に戻れば、魔法を使えるのはリゼではなく俺だってバレる可能性が高いからだろう。けれどそれ以上に、仲間との旅をこいつは気に入ってるんだと思う。


 危険だし辛いものを見ることも多いけど、旅と冒険に惹かれている。


「そうか…………だが、父上と母上はかなり怒ってるぞ。リーゼロッテが旅をしたいと言ったところで、許されるとは思わない」

「それは……だから、今までと同じように、逃げながら旅をします! クンツェンドルフの家は、今までと同じようにわたしを追いかけてていいです。わたしは逃げる! ……だからお兄ちゃん。今だけ、見逃してください」


 それを聞いたリハルトは、困ったという表情を見せる。それから、少しだけ考えてから言った。


「リーゼロッテ、何があったか話してくれないか? 学校を退学になってから今まで、何をしてきたか」

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