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7-35 歩く樹の儀式

 サキナックの学校にも、チェバルの学校みたいに図書室や資料室があったらしい。

 そこには、木々を動かし暴れさせる魔法の詳しい使い方の資料があった。屋敷の図面もそこにあった。馬屋から屋敷に入る抜け道の記載も、シュリーとマルカが資料の読み込みの間に見つけたもの。


 ふたつの名門は、似たような考えをしていたらしい。


「魔法陣の形なんかはちょっと違ってるんだけどね」


 魔導書を見ながら、床に巨大な魔法陣を描いていく。ミーナやマルカ達も手伝ってくれてた。

 さすがにこの大きさのは、リゼひとりで描くのは大変だろうしな。というかリゼに任せたら、また描き間違いを起こしかねない。

 そんな作業をしながら、シュリーの説明に耳を傾ける。


「この術式を見てくれたまえ。詠唱の一部を書き記したものだが、実はここからもう少し北の地方に似た呪文が伝わっている。開闢神信仰とは違う系統の宗教行事で、作物の豊作を祈る祭の際に語られる祝詞だ」

「作物の豊作と植物を巨大化させて操る。ちょっと似てますね」

「だろう? この祭の起源は、千年より前に遡ることができる。つまり、サキナックの魔法のルーツがここにあると考えられるんだ。これは歴史的に見ても相当興味深いことで……」

「シュリー! 講釈はいいですけど! 手が止まってますわよ!」


 マルカから注意されて、シュリーは語るのを中断して魔法陣の製作に戻る。

 まあなんにせよ、この歴史学者が仕事の上で興味深い発見ができたことはわかった。それは嬉しい。

 ついでにこの都市の危機を救うきっかけにもなったのなら、さらに良いことと言えるだろう。



 今回の魔法陣はゾンビ復活の魔法陣と同じく、中に魔法使いが立つのであろう円が六つ含まれていた。

 ただし配置は異なっており、魔法陣の中央にひとつ。その周りに五芒星の頂点を描くような位置で五つの円という形だ。

 起動に六人、維持に五人だっけ。一旦起動させたら、真ん中の円の魔法使いは魔法陣から出てもいいってことかな。


「で、そこに立つのがリゼ。君だ」

「へ? わたし?」


 シュリーはゼトルの方を見ながらそう言った。ゼトルがこっちの話なんて聞いてないから、今はリゼをリゼと呼んでいい。


「樹木を味方にするって言っても、人手がないのは変わらないからね。魔法の起動に成功したら、真ん中の魔法使いには戦列に加わってほしい」

「となれば、一番優秀魔法使いが真ん中に来る必要があるわけですか。……つまり、リゼが」

「えー? なになにコータってば、ついにわたしが優秀だって認めてむぐっ」


 シュリーの手前、こいつが無能で使った魔法は全部俺のだと言うわけにはいかない。それぐらいわかってほしいぞ、このバカめ。

 リゼの口を無理矢理塞ぎながら、そう念じる。当然ながらリゼに伝わるとは思わないけど。


「まあ一番優秀って言うなら、名門の当主様が該当するんだろうけど。でもあの人を前線に立たせるわけにはいかないから」

「そりゃそうだ。では、謹んでお受けいたします。このミーナとトニ、力の限り戦います」

「むぐぐぐ……ぷはっ! よしコータ! 今回も暴れて、わたしの優秀さとかを獣人共にわからせてやればいいのよね!」

「それはまあ、そういうことだけど……うん。あんまり調子に乗らなければ、それでいい」


 そう言ったところで、こいつは調子に乗ってバカなことしそうなのが怖い。

 仕方ない。その時は、俺がなんとかするしかないか。




 そうこうしている内に魔法陣が完成した。すぐさま儀式に入る。

 真ん中の円にリゼ。周りに五人の魔法使いがそれぞれ立った。全員が魔導書を持っている。この儀式専用の物で、新品だ。


 儀式にはもうひとつ、動かす植物側の準備も必要らしい。専用の紋様が書かれた木の札を、動かしたい植物の根本に埋めるという。そこらへん、ゾンビの儀式と似ている。

 その作業はすでに完了しているらしい。城から脱出した人員が密かに街に出て、街路樹にこれを仕込んだと。


 あんなことがあったけど、街の景観保護は大事だからと再び植えた街路樹だ。それがまたこんな使われ方をするとは、因果なものだな。

 それでも今度は、街を救うために使われる。


「え、えっと。それでは皆さん。魔導書を開いてください。リ……ミーナ先生の言うことを聞いて、良い怪物を作りましょうね!」


 リゼがなぜか、教師みたいな口調で魔法使い達に指示を出した。相手はほぼ全員年上なのに。


「わたしに続いて詠唱をしてください。えっと……"地に眠る大いなる守護者よ。我らの願いを聞きたもうせ。我らの…………"」


 リゼの詠唱に、他の魔法使いも合わせて詠唱をしていく。以前見た使い魔召喚の儀式と同じく、その詠唱は長いものだった。

 どうやらこの魔導書は親切設計で、その詠唱が記載されているらしい。リゼを含めて全員がこの儀式に初めて臨むだろうに、詠唱をすらすらと唱えていった。リゼだけ、ところどころ怪しいけれど。噛んだり詰まったり。

 俺を召喚した時もそうだったんだろうな。



 やがて魔法陣が青白い光を発し始めた。


「おそらく成功しているはずだ。外で木が動き始めてるんじゃないかな」

「ああ。見える。成功しているようだな」


 シュリーの言葉に返事をしたのはゼトルだ。俺にも、彼が何を言っているのかがわかった。


 目を閉じると、まるで探査魔法のような光景が見えた。おそらくは探査魔法の仕組みを基に作ったシステムなんだろう。

 この魔法の影響下にある植物は、探査魔法で見える生物に該当するってことだろうか。

 たぶん、魔力の出力用の木の札を埋めた時点でそうなってるのだろう。俺がこの街で初めて探査魔法を使った時のことを思い出した。


 とにかく、木々はあるき出したのが見えた。

 幸いにしてそれを目にしている人間は少ない。市民も敵も、まだこれに気付いていない。

 市民は危険を感じて、それぞれの家に引きこもってるのだろう。敵の軍勢は城の中にいる。占拠したての城の内部を把握して、今後の段取りを決めているらしい。


 俺が念じれば、木々はその通りに動いた。城に向かえと命令すると、十数本の木々が一斉にその方向へ歩き出す。


「よし、うまくいったようだ。お前達も城へ攻め込んでくれ」


 レガルテが目を開けて、兵士やカイ達に命じる。彼らは武器を手に取り屋敷の外へ走っていく。


 外では、同じく逃げ延びた城の人員に頼まれたのか、冒険者達が城に向かう様子も見えた。木の札はまだまだあるらしく、城の兵士が新しい街路樹に札を供給する作業をしているのも見えた。

 こちらの戦力は整いつつある。


「じ、じゃあ、わたしもそろそろ行ってきます!」


 リゼが少々緊張気味に言った。たぶん儀式の詠唱の緊張だろう。周りがうなずいたのを見て、魔法陣の外に走り戦場へと向かっていく。

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