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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第7章 監査団騒乱

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7-32 逃げ出せた者

 その爆発は獣人や兵士達にも予想外の出来事だったらしく、隊列に混乱が生じた。

 それから混乱に乗じて、馬車の中から人間がふたり出てきたのが見えた。


 ひとりは城主だ。もうひとりは初めて見る顔。中年の男だった。

 年相応の顔つきをしているけど、スタイルのいい体つきは若々しさも感じさせる。彼はローブを着ていて、片手に魔法の杖を持っていた。

 おそらく魔法使いである彼は、片手で城主の腕を引っ張って逃げようとしている。


 馬車の中からさらに人間が複数人出ていこうとしたが、それは周りの兵士達が必死に押し留めていた。


 この事態は、馬車を取り囲む兵士には予想外のことだったらしい。混乱の中で怒号が飛び交う。あのふたりを逃がすなと。


 兵士達が、城主と男の逃げ道を阻もうと周りを取り囲む。けれどその包囲網はあっさりと破れた。その一角で再び爆発。小規模なものながら、複数の兵士の体をふっとばした。

 杖を持った男がなにやら魔法を唱えた結果らしい。やはり魔法使いか。


「ほっほ! こっちじゃよ、人間のおふたりさん!」


 そこに、そんな声を上げながら、馬に乗ったひとりの獣人が颯爽と現れる。その獣人は、フクロウのような顔をしていた。

 この馬に乗って逃げようと、そのフクロウ獣人は言っているらしい。けれど城主と魔法使いの男は、獣人という属性を見て躊躇っているようだ。



「オロゾさんです。あの人は信頼できます!」

「そうか。ユーリ、行ってくれ! 城主達を助ける!」


 ユーリは建物の陰から躍り出て、咆哮をあげながら敵の集団へと走る。その咆哮に敵の注目がそっちに向いた。そこに、俺達は各々の飛び道具で攻撃を仕掛ける。

 俺はリーダーと見られるリザワードとその周囲の獣人に向けて炎の矢を浴びせかけた。獣人達がバタバタと倒れていく中、リザワードは盾を掲げて炎の矢を防ぐ。いいさ、こいつを殺すのは後だ。


「城主さん! この獣人さんは味方です! 行きましょう!」


 兵士のひとりを矢で射殺しながら、フィアナが呼びかける。

 俺達の言葉は城主も信頼してくれるのか、魔法使いの男に声をかけてオロゾというフクロウの獣人の方へ走る。

 行く手を阻む敵の兵士は俺がファイヤーアローで排除した。魔法使いの男もなかなかの使い手のようで、周囲の敵を無詠唱の魔法で次々に葬っていく。遠くから矢で狙ってくる敵は、ミーナが光の壁でこれを防ぐ。


 オロゾの馬に城主と魔法使いを乗せ、俺達は再度その場から逃げ出す。なおも敵の矢を光の壁で防ぎながら。


 追いかけてくる敵にリザワードが指示を出すのが聞こえた。追うな。城を落とすのを優先しろ、と。


 去り際に後ろを振り返る。城に大量の兵士がなだれ込んでいくのが見えた。




「助かった。君たちには感謝してもしきれないな……」

「いえ。問題はこれからです、城主さん」


 レガルテからの伝言の通りにサキナックの屋敷の馬小屋に向かう途中、城主から感謝の言葉をかけられる。

 この人が敵に捕まらなかったのは幸いな事だけど、事態が深刻なのに変わりはない。


「城主殿。彼女達は?」

「冒険者の皆さんです。この都市を何度も助けてくださった、優秀な方々ですよ。信頼できます」

「えへへ……」


 魔法使いの男に俺達の紹介をする城主。優秀ってところにリゼは満足したのか、腑抜けた笑いを見せる。おいやめろ。お前は優秀じゃない。

 魔法使いはそれを聞き入れ、彼もまた謝意を示した。


「そうか。君たちが噂の、冒険者のパーティーか。優秀な魔法使いがいるという。……自己紹介が遅れてすまない。私はゼトル・ニベレッド。今回の監査団の長だ」


 ぴぎゃーとリゼが叫びかけたのを、俺はとっさに止めた。

 なるほど。この人がリゼを探している名門の家の当主か。正直魔導書泥棒とか代役作戦とかは、最早それどころではなくなってるのだけど。


「は、はじめましてですゼトルさん! わたしはリ……ミーナです! こっちは使い魔のトニさんです。はい。ずっとトニって名前です!」

「わたしがリゼです」

「コータだ、ゼトルさん。以後お見知りおきを」


 それでもリゼにとっては、自分の正体がバレないことが優先事項。ミーナとトニはそれに合わせてくれて、代役の名前を名乗ってくれた。

 ああ、こんな時にと城主が呆れ顔だぞ。オロゾはなにか事情があると悟ったのか、ほっほと笑うだけ。


 ゼトルにとってもこの状況の方が深刻なのか、挙動不審なリゼの様子は特に気にならなかった様子なのが幸いか。


「わたしはフィアナっていいます。魔法使いじゃなくて弓使いです。この狼はワーウルフのユーリくんで、そっちの梟獣人の魔法使いはオロゾさんです」


 ついでのように、フィアナも自己紹介する。ユーリのローブを代わりに着てるから、一見魔法使いに見えるけど違うと言っておいたのだろう。

 ゼトルはどちらかといえば、梟獣人の方に興味を持ったようだけど。



「オロゾ殿にも感謝する。先程はすぐに信用せずに失礼した…………ああいや、あなたが敵ではないのはわかりました。失礼ながら、先程少しだけ探査魔法を使わせて貰った。あなたに敵意がないことは把握している」


 いつの間にそんなことを。そりゃ魔法使いの名門の当主ぐらいの人なら、探査魔法だって使えるだろうけど。

 でも詠唱せずにいつの間にか使っていたというその腕前は、かなりすごいと思った。


「ほっほ。気にするでない。儂とて獣人じゃが、奴らのやり方には同意できん。それだけじゃ」

「そうか。今はそれで構わない」


 この梟獣人にも、獣人の立場について思うことはあるのか。けど今は味方だ。無条件に仲良くしてくれるよりは、こっちの方が信頼できるか。


「それで城主さん。状況を教えてもらえますか? 馬車の中でなにがあったんですか?」

「ああ……馬車が乗っ取られた。それは外からもわかったと思う」


 城主の答えに俺達はうなずく。問題は、どうやって乗っ取られたか。城主が続けて説明をした。


「監査団の人間のなかのひとりが突然剣を抜いて、全員動くなと脅した。それから外の兵士達が寝返り馬車の御者を殺した」

「リュガット・ジェラルダンという騎士だ」

「ジェラルダン……」


 監査団の中に裏切り者というか工作員がいたってことか。その者の名をゼトルが忌々しげに口にする。

 ジェラルダンという姓は、あのセリアって女騎士と同じだな。

 聞けば、彼女の父親だという。

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