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7-28 出迎え準備

 監査団の本隊が行くルートは、先遣隊のそれとほぼ同じだった。つまりヴァラスビアの南門から城までを、いくつかの古い城壁をくぐりながら一番大きな通りを進んでいく。


 大きな通りならそれだけ人通りが多くて、敵が潜みやすい。両側の建物も多いから、そこにも隠れているかもしれない。警戒しなきゃいけない場所が多すぎる。


 敵の意表をついて、人通りの少ない通りを行かせる方がいい手だと俺には思えた。

 その方が警戒しなきゃいけない範囲は少ない。あと市民を巻き込みにくいという利点もある。


 けれど首都の連中はそんなことは考えないようだ。

 大量の兵士に守られるならそれでいいし、むしろ大勢の護衛を歩かせるには大通りを行かせた方がいいとかそんな考え方。

 敵にもその様子を見せて、攻撃すればお前たちの命もないぞとかの威圧を与える作戦。




「だったら敵は、その優秀な軍隊に任せればいいじゃん! わたしががんばる必要ないじゃん!」


 その気持ちもわからなくはない。けれど通りの街路樹を背もたれにして路上に座り込んでるリゼに、同意は絶対にしたくなかった。


「ほら立て。そうやって油断してるところを攻撃されたら危ないぞ」

「敵はわたしを狙ってるわけじゃないもんねー。まあ、わたしみたいなかわいい女の子だったら、目立っちゃうから敵の目標にされちゃうかもしれないけど?」

「その自信はどこから来るんだ……そうじゃなくてだな。本隊が来るってことはお前の兄貴も、自分の仕事を中断して護衛の仕事に参加するかもしれないぞ。つまり、もうすぐここに来るかも」

「ふぎゃあっ!?」


 相変わらずの変な悲鳴をあげながら、リゼは慌てて立ち上がる。それから周りをキョロキョロ見回した。


「お、お兄ちゃんどこ!? 隠れないと!」

「落ち着け。その可能性が高いだけだ」


 とはいえ、本隊が来るならリハルトの役目はそっちに吸収されてしまう。一旦自分の業務は切り上げて、護衛の仕事の補助をするのは十分にありえる。



 リゼはローブのフードを目深にかぶって路地裏に避難する。そこから通りを観察した。

 城の兵士達や先遣隊に同行していた兵士、それから有志の冒険者が周囲の家屋に目を光らせている。


 こうやって大勢の武装している人間が通りを歩いているから、それだけで物々しい雰囲気になっている。住民達にとっては不安だろう。

 同じ都市の中とはいえ、端の方にすんでいるこの周辺の住民にとっては、中央の兵士達は顔見知りというわけではないのだから。ましてや首都から来た偉そうな兵士は、というわけだ。


 冒険者達はみんな、ギルドの登録証を服の目立つ位置につけていた。

 兵士達は、一見して兵士だとわかる格好をしている。しかし冒険者はそうではない。そして武装している人間は、まさか不穏分子かという疑いの目が向けられるほどの緊張状態だから仕方がない。

 味方だとアピールするためには必要な措置だ。


 もっとも、完全に効果があるとは言い難いが。

 冒険者は誰だって登録できる身分だ。当然ながら不穏分子の人間が、世を忍ぶ姿として登録してる可能性だってある。

 俺達が昨日したように、ザサルやホムバモル出身の冒険者ではないか、あるいは数日前に登録したばかりの者ではないかとの確認が、そこかしこで首都から来た兵士達によってなされている。

 懸念を払拭するためには当然の措置かもしれない。けれど当然ながら、疑われる冒険者達にとってはいい気分ではないだろう。


 ただでさえ緊張状態なのに、味方になるべき人間の連携も取りにくい状況。こんなことで本当に、護衛などできるのだろうか。



「あの首都から来た兵士さんのやり方も、セリアって騎士の指示なのかな?」

「かもな……」


 首都から、お上から来たという上から目線な態度。必要な指示ではあると思われるけど、同時に悪手とも取れる命令。この都市の立場を考慮しないふるまい。

 これまでのセリアのやり方に実に合っている。


 自分達の兵力で敵と戦えるという自負はあるのかもしれない。けれど、この都市で好き勝手やられて気持ちのいいものじゃない。


「冒険者は、あの人達の目には入ってないってことかなー」

「そうだな。いなくてもなんとかなるって思われてるだろうな」

「よし、じゃあこのまま宿に帰っても……」

「それは駄目。少なくとも勝手に帰るのはいけません」

「うー。いいじゃん楽しようよ!」


「コータ。俺達は一旦戻ることにするぞ」

「お?」


 わめくリゼを宥めようとしていたところに、カイ達がこっちに近づいてくる。



 聞けば、冒険者一同でこの場は引くことにしたらしい。全体的に士気が低いから、有事の際に満足に動けるかどうかは怪しい。

 それなら一度休ませておいた方がいい。なにかあれば、必要なら動く。首都の兵士達も、自分達で対処できる範疇の問題なら彼らだけで対処したいだろうし。


 なにより首都の兵士達に協力はしたくない。そんな想いが冒険者の間に広まりつつあった。

 だから、それぞれの拠点に戻ろう。冒険者の中で、カイを含めた人望ある者達が集まってそう決めたらしい。半分くらいは、首都の奴らへの反抗心からやってることだ。



「そういうことなら仕方ない。宿に戻るぞ、リゼ」

「ねえ! なんでわたしの言うことは聞かないのに! カイの言うことは聞くのかな!?」

「信用できるかどうか、とか?」

「わたしのことは信頼できないの!?」

「うんまあ。そうだな」

「ムキーッ! コータのバカー!」

「ふたりとも行きますよ。ユーリくんが宿まで乗せてくれるって言ってます」

「ほんと!? わーいユーリくん大好き!」

「機嫌直るの早いなおい!」


 リゼは狼化したユーリの背中にニコニコしながら乗り込む。まあ、さっきのも別に本気で怒ったわけじゃないのも知ってるが。


「さあユーリくん、宿まで突っ走って! ふかふかベッドが待ってるよ!」

「本当に働きたくないんですね、リゼさん……」

「楽したいって気持ちもわかるけどな……」


 呆れ顔の俺達と笑顔のリゼを乗せて、ユーリは命令どおり突っ走る。通りを疾走する巨大な狼に驚く住民もちらほら。首都の兵士も少なからず驚いている。


 この街の兵士や冒険者達は知り合いも多く、頼れる狼だと知っているユーリに手を振る者も多い。やっぱり、こっちの反応の方が気持ちいいな。


 時刻は昼過ぎといったところか。本隊が来るまで、あと数時間。それまでの間は、警戒をしつつ休息を取るのがいいかな。

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