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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第2章 小さな村

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2-9 私も嘘つき

 フィアナの声に、ベッドに倒れていたリゼの体がピクリと震える。今一番会いたくない人間が、なぜ来訪してきたかはわからない。でも会わないわけにはいかない。


 一瞬の逡巡の後、リゼは立ち上がって扉を開けた。部屋の前に立っていたフィアナは、なんだか思いつめた表情をしていて。しばらくその場で凍りついたように動かないでいたと思ったら、やがて意を決した様子で。


「あ、あの! リゼさん! 実はわたしも謝らないといけないことがあるんです!」


 うん? どうも話の方向性が見えなくなった。


 とりあえず落ち着いて話を聞こうと、これまでと同じように並んで座ってもらう。ベッドに腰掛ける形でだ。

 ちなみに俺はというと、入浴を継続中。体のどこかをぎゅっと押したらいくらでも血が染み出てくるというこの感覚、正直言ってキモい。


 フィアナは少し長い時間迷ったような沈黙を続けた後、ぽつりぽつりと話し始める。


「実は……狼退治をしようっていうのはお父さんのアイディアじゃないんです。わ、わたしが考えたことなんです。みんな狼に困ってるから、すごい魔法使いさんなら助けてくれるって思って…………」



 順を追って話すとこうだ。

 この村は狼の獣害に困っていた。頻繁に村の敷地に入ってきて人を襲い死者もでている。噂では狼によって全滅した村もあるらしい。フィアナ含めてみんな不安だった。


「昨日の夜、西の空に大きな火の玉が上がるのを見ました。それを見たのはわたしだけだったようで、朝になって何人かに話したんですが信じてもらえなくて……でも、昼間にリゼさんが来て、この人だと思ったんです」


 それも、さっきフィアナが口走っていた。そのファイヤーボールは俺が撃ったもの。でも使い魔がこれをするのは、この世界の常識とは外れたことらしい。


 大人達がリゼを調べてる途中で、フィアナが近くにやってきて魔法を見せてほしいと言ったのはそういう理由。リゼが本当に火球の魔法使いなのかを確かめたかった。そしてリゼは、手品を披露して自分は魔法使いだと村人たちに信じ込ませた。フィアナも含めて。

 フィアナは、こんなにすごい魔法使いなら村人たちを苦しめている狼を退治してくれると思った。この人こそ村を救う英雄だと。だから自分の父親を始めとした村人たちと、リゼの両方を説得することにした。


「つまり、昼間フィアナがここに来たときは、まだ村長さんたちは狼退治なんて考えもしてなかったってことか?」


 俺の問いかけにフィアナはこくこと頷く。最初にリゼを説得して、それから父親に相談した。順番が逆だ。

 村人たちが自力で狼対策をしなければいけない状況だったのは間違いない。リゼの正体を巡って放置派と領主に連絡しようとする少数の派があったのも本当。


 狼退治を考えたのが誰かというのが嘘だった。



 そして狼退治の結果、リゼは立派な魔法使いなどではなく、フィアナは危うく死にかけてリゼに裏切られた想いをした。



「違うんです。なんというか…………わたしの思いつきでリゼさんに危ないことさせてしまったのが本当に申し訳なくて……リゼさんのことを誤解してたのもわたしの勝手ですし。それも謝らないとっておもってたのと、それと、それと…………」


 フィアナは、リゼのことを悪く言うつもりはないらしい。

 リゼの目にだんだん生気が戻ってきているように見えた。


「リゼさんは、ちゃんとわたしのことを助けてくれました。あんなに大きな狼が襲ってきたのに、魔法が使えないってわかってるのに、逃げなかった。わたしを守るためですよね? それに、杖で狼を叩いて殺したり……わたしのために、リゼさんはしっかり戦ってくれました。だから、すごく感謝してて、あの……」


 フィアナはベッドから立ち上がり、リゼに向き直る。


「こんなわたしを守ってくれて、ありがとうございました! リゼさんは本当にすごい人だと思います! ……それで、嘘つきのわたしですけど、えっと。リゼさんとお友達になっていいですか?」

「もちろん! もちろんだよフィアナちゃん!」

「わっ!?」


 リゼも急に立ち上がってフィアナを抱きしめた。驚くフィアナに、泣きそうな笑顔で語りかける。

 抱きしめられてるフィアナにはその表情は見えないだろうけど、気持ちは伝わるはず。


「こっちこそごめんね! でも、いつかは本当にすごい魔女になるから! 嘘じゃないから! それに、フィアナちゃんはもう友達だよ! 最初にあった時からずっと友達だよ!」

「はい! はい! そうですよね!」


 きっとフィアナはも、泣きながら笑ってるんだろう。声でわかった。

 なんにせよ、リゼの元気が戻ったことはよかった。




「あ、コータさんもありがとうございました。あの魔法は全部コータさんがやってくれたことなんですよね? 昨日の火球もコータさんがやったんですよね?」


 ひとしきり思いを伝えあったあと、フィアナはこっちを向いて俺にも感謝を伝えてきた。使い魔のことも忘れない良い子だ。


「そうだな。リゼひとりじゃ、ロクに火も起こせない」

「そうなんですか……コータさんもすごいです! お友達になってください!」

「ねえねえフィアナちゃん。わたしとコータ、どっちがすごい?」


 俺に注目を取られたのに嫉妬したのか、リゼが横から話しかけてきた。いつもの調子が戻ったのは嬉しいが、ウザい。


「え? ……ふたりともわたしを守ってくれたのは同じですけど…………狼をたくさん倒したのはコータさんの方ですよね? じゃあ、コータさんの方が本当の村の英雄ですね」

「はうあっ!?」


 なんだよその悲鳴。


「あ、でもリゼさん、本当は魔法は使えないってこと村には知られちゃいけないんですよね? 大丈夫ですそれは秘密にしますから……本当はコータさんの方がすごいってこと、わたしだけはしっかりわかってますから!」

「ふ、フィアナちゃん! わたしも! わたしのことももっと褒めていいのよ!? それにコータを呼び出したのはこのわたしなんだから! ほらもっと褒めて! 褒めてくださいフィアナさまー」


 年下のフィアナにすがりついてお願いするリゼの姿はみっともないし、それに笑顔を向けているフィアナを見るに、どちらが年上なのかわからなくなった。


 気がつけば、空が白み始めている。また長い夜だったな。フィアナは、リゼと一緒に寝たいと父親達に言ってここに来たようだ。

 そういうわけでリゼとフィアナは、同じベッドに仲良く並んで寝ている。これだけ見たら仲のいい姉妹のようにも見えるなと思いつつ、俺も眠りにつくのだった。


 ちなみに桶の中の水に入ったままだ。血が抜けるまではもう少し時間がかかるらしい。

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