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7-20 襲撃者の正体

 もう一度お城の方に戻ったけれど、残念ながらターナは中に入ってしまったようだ。俺達が城の中に入れば、リゼの兄貴と鉢合わせする可能性がある。

 仕方ない。今日は帰ろう。伝えるべきことは、明日カイにでも伝言を頼んでおこう。


 というわけで宿に戻る。ちょうど、フィアナとユーリも戻ってきた頃らしい。



「リゼさん大変です。あの騎士がこの街にいます。今度こそ殺してしまいましょう」

「えっと、フィアナちゃん落ち着いて。騎士って誰のこと?」

「あいつですよリゼさん!」

「うーん。わっかんないなー……」


 俺達の姿を見るなり、物騒なことを言い出すフィアナ。リゼはそんなフィアナをなだめて、話を聞き出す。


 俺達の知ってる騎士と言えば数は限られてくるし、この少女に憎まれてる相手といえばひとりしか思い浮かばない。

 なんであの人がここで出てくるのかはわからないけれど。それはフィアナ達にとっても同じだった。



 獣人の集まる宿で見かけた、獣人解放同盟の指導者と思われる虎獣人の男。そして一緒に行動していた、レオナリアという元騎士を含めた人間のグループ。それが何を意味しているのかはわからない。

 獣人解放同盟にレオナリアが協力しているとも取れるけど、そもそも目撃された虎獣人が部族長のへグラギアなのかどうかも確証はない。レオナリアとの関係もだ。


 とはいえ重要な目撃情報なのは確か。獣人が集まる宿というのも興味深いし。獣人解放同盟の拠点となっている可能性は高く、それゆえ調べる価値はある。 


 とりあえずカイが戻ってきたら相談して、ここを詳しく調べるよう言ってみるか。そう考えていたところに、いいタイミングでカイとミーナが戻ってきた。


「カイ、良い所に。実は――――」

「みんな聞いてくれ。ザサル=レメアルド家の手先を捕まえた」

「よし、そっちを先に聞こう」


 全く手がかりがない相手を捕まえただと。それはかなり気になる事だ。





 昨日の襲撃現場を調査していたカイとミーナは、謎の男に出くわして攻撃を受けて、追いかけっこの末に捕まえた。そして城に連れて行った。



 初めてこちらに姿を見せた不穏分子の人間ということで、先遣隊の警備担当セリア・ジェラルダン自らが尋問に当たった。その様子をカイとミーナも見ていたという。


 捕まった時点で心が折れていたのか、その男は年下であるセリアを前にして、まだ情けなくも泣いていた。

 その男の身元は一瞬でわかった。レガルテがこの男のことを知っていたという。聞き出す手間が省けたのはいいことだろう。それ以外には、特にいいことはなかったようだけど。


 なんとその男はサキナックの一族の人間で、レガルテとは同じ屋敷に住んでいた家族だった人物。家族なら知ってて当然か。サキナックの家がなくなってからの消息は知らなかったそうだが。


 その男は家の直系の人間ではなく家督の継承権なんかとは遠い存在だったが、それでも一族であることに変わりはない。

 名門の地位が失墜したあの日までは、城でそれなりの役職に就いて働いていたらしい。今はただの無職だけど。


 代わりの仕事は見つからなかった。支配階級だったというプライドが、庶民に混ざって仕事をするということを引き止めていたのかもしれない。

 あるいはこの男自体が、名門という地位が無ければ大した能力を持っていない、無能に近い存在だったのかもしれないが。


「レガルテが言うには、どっちもだってさ。名門だから今まで不自由なく暮らせていただけの男。……そのことに気付かず、自分は選ばれた人間だ。有能だと思い込んでいた」


 魔法以外の能力が不足しているから、働き口が見つからない。それに支配階級にいたというだけあって、プライドだけは高かったのだろう。庶民と接する際に軋轢を生みかねない言動をしていたのかも。

 そりゃ働けないか。


「なるほど哀れな男だ。それで、生活に困ってた所を不穏分子に声をかけられたのか?」

「そういうことだな」


 カイがやれやれと言った風に、俺の推測を肯定した。俺はリゼと顔を見合わせる。さっき話し合って危惧していたことが、早くも現実になってしまった。



 使えない人間でも、一応は魔法使いではある。その気になれば人を傷つけることができる。つまり不穏分子にとっては欲しい人材だ。

 使い捨てしても心が痛まないという意味でも、いい人材。




 その男はやることが無いからと、毎日のように酒場で昼間から飲んだくれていたそうな。そこにある日、声をかけてきた者がひとり。

 その人物は確かに、ザサル=レメアルドの使者を自称していたらしい。

 目的、すなわち東レメアルド王国の復興もつまびらかに語っていた。そして、この城塞都市ヴァラスビアを占拠して新たな領土とするという計画も。


 どうやら、首都の役人達が考えていたことは本当だったらしい。

 政治的混乱と治安の悪化の最中にあるヴァラスビアを占拠して、ついでに来ている要人を殺して国家に新国家の設立宣言と宣戦布告をする。


 たぶんその使者は協力の見返りとして、新生東レメアルドの首都ヴァラスビアの政治中枢にその男を置くとか言ったのだろう。

 再び権力者の座に戻れるなんて誘いを、すべてを失った男が断るはずもない。あっさりと甘言に乗せられ、昨日の襲撃事件を起こした。先遣隊の暗殺がその任務。


 結局は狙いが外れて失敗したけれど。そういうところが、無能な男の限界だな。

 そして、厄介払いとばかりに新しい命令を出された。証拠隠滅のために現場に戻れと。

 使えない人間をこれ以上手元に置いておくわけにはいかない。そんな理由だろう。そして案の定、カイ達に捕まった。


 その男は逃げる際、ある建物に助けを求めた。ザサル=レメアルドの人間が拠点として使っていた場所と男は説明している。けれど兵士達が踏み込んだところ、もぬけの殻だったという。

 男を捨て石にすると決めた時点で、その拠点も放棄したのだろう。あるいは最初からそのつもりで、すぐに撤退できる仮の拠点を用意しただけなのかも。



 その男は今、城に拘留されている。名門の地位を失ってからの惨めな生活に、今回の悪事で裁かれるということ。さらに、信じていた組織にあっさりと裏切られた、というか最初から捨て石のつもりで声をかけらてたという事実に、男のプライドはズタズタにされたらしい。

 しばらくは立ち直れないとのことだ。

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