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7-11 いざ対面

 机の上の裁縫道具とたくさんの布。リゼいわく、布はそんなにたくさん必要なわけではない。でも多いに越したことはない。そんな感じらしい。


「よーし、じゃあ頑張って作っちゃおうかな!」

「何をだ」

「トニの服」

「ダメだわからない」


 リゼが何をしたいのかさっぱり理解ができないが、本人は構わずトニの体の大きさを触って把握していく。そして布に目分量で線を引いていきハサミで裁断していく。時間がないから急いでいるのかもしれないが、それでも動きは正確極まりなかった。

 一瞬にして出来上がった服の裏地の部分は、トニの体のサイズぴったりだった。ミーナとトニが目を丸くしている。定規で測ったわけでもないのに、この正確さだ。


 本当に器用な奴だな。魔法の才能にこれが発揮されないのがリゼの最大の不幸だろう。


 リゼの服作りは続く。似たような形に布を何枚も、少しずつ大きさを変えて切っていく。そしてそれをまとめて縫い合わせる。

 出来たのは服というよりは、トカゲの着ぐるみと言うべき物だった。トニの体を完全に覆うタイプで、着れば彼の体は一回り大きなものになる。

 着ても体が動きにくくなったり、外が見えなくなったりはしないらしい。そこはしっかり考えて作ってあるようだ。さすがといえばさすがだ。


 トカゲがトカゲの着ぐるみを着ているという状況は奇妙に見えるが、リゼのやりたいことはわかった。


「前のリビングデッド騒動の中で、戦いの中で俺の体にしてる人形は大きく破損した。だから新しい体に変えた。そういうことだな?」

「そうそう。さすがコータ、頭がいい。その言い訳を思いついたわたしも頭いいよね!」

「うるさい」


 まあでも、やり方としてはありか。


 そもそも俺の体はぬいぐるみだ。この世界だと全部ひっくるめて人形って呼んで「ぬいぐるみ」という表現は一般的じゃないらしいがそれは置いといて。

 とにかく人形に魂が憑依しているというのが俺だ。だからその気になれば、ぬいぐるみの体から出ることができる。やれば無茶苦茶疲れるから、やらないんだけどな。この体にも愛着が出てきたし、慣れてきたし。

 たまに、人間の体に戻りたいって思うこともなくはないけれど。


 しかし仕様の上では、何らかの理由があって体とするものを乗り換えるのは可能だ。そしてリゼの兄やゼトルという男と対面するトニを俺に仕立て上げるために、俺は体を乗り換えたということにした。



「ちょっと動きにくいかもしれないけど、しばらく我慢してくれたら嬉しいな」

「問題ない。動きやすいし視界にも問題はない」

「そっかそっか。よかった。これでなんとかなりそうだねー。ふふふ。みんなもっと褒めていいのよ!」

「よしトニ。それじゃあリゼのふり、がんばるわよ」

「ああ。大丈夫、きっとできるさ」

「無視しないで……」


 リゼの悲しそうな声は置いておいて、突発的に出て来た問題についてはこれで解決できた。

 根本的に、ミーナとトニがリゼと俺のふりをしきれるかという問題は、いまだについて回るけど。まあそれは、実際にやってみるしかない。



 そして、ついにその時が来た。


「調査団の先遣隊、来るぞ」


 ターナが俺達のいる部屋に小走りでやってきて声をかけてきた。ミーナは立ち上がり、少し緊張した面持ちで部屋を出る。ユーリに乗って先行して城に戻ってきたらしいフィアナとカイも合流した。

 シュリーとマルカは俺達に話を合わせてくれると言ってくれたらしい。つまり、いよいよもってやらなければならなくなったわけだ。




 城の門の前に城主や他の役人達が並んで立つ。レガルテとターナは城主の一族の若い者ということで、目立ちすぎず後ろすぎずの位置に立っていた。そしてカイのパーティーはといえば、その他並んだ兵士達のさらに後ろ。一番目立たないところにいる。

 所詮は何のしがらみも持たない冒険者の集まりだしそれは仕方がない。それに、今回はこうやって目立たないことが一番いい。


 俺とリゼは、城の門の石柱の陰に隠れてその様子をじっと見つめていた。リゼはローブのフードを目深にかぶって、顔が見えにくいようにしている。傍から見たら不審者に見えるだろうが、見つからなければいいだけだ。

 体の小さな俺だけが少し体を出して様子を見守る。リゼの兄貴を乗せた馬車が多くの兵士に守られながら門の前までやってくる。兵士達は油断なく周囲を警戒しているから、リゼが不用意に動けば見つかってしまう可能性が高い。それこそ、物陰から半身を出したとかでも目に入るかも。だから様子を見るのは、目立たない俺の役目だ。小さなぬいぐるみだったら、兵士達の目にもとまらないだろう。



「ようこそおいでなさいました。歓迎いたします。そして先ほどの襲撃に関しては申し訳ございません」


 城主が仕事用と思われる笑顔を浮かべながら、馬車から出て来た男女に挨拶をする。男の方がリゼの兄貴のリハルトで、女の方が王族に仕えるという騎士か。

 シュリーとマルカも下馬して、リハルト達の後ろに立っている。

 この先遣隊のリーダーはリハルトのようだ。だから城主への返答も彼が行う。


「こちらこそよろしく頼みます、城主様。さて、堅苦しい挨拶は抜きにして早速仕事の話をしましょう。先ほどのような襲撃を、本隊が来た時に起こさないようにするのが我々の役目ですので」


 俺から見たリハルトという男の印象は、今のところ悪いものではなかった。にこやかに城主と会話して、前向きに話を進めている。突然の襲撃を受けたなら、こちら側の警備の不備について怒ったりする可能性もあるのに。そこは自分達も共に対策するべき事柄と考えているようだ。


 不穏分子についての情報はこの先遣隊が来てから話し合い、対処するということだからかもしれない。



 いずれにせよ襲撃はあったため、対策は急を要する事態となった。城主からリハルトに、不穏分子の捜索は城の兵士以外にも冒険者ギルドの人間にも協力してもらうと紹介があった。そしてカイ達が前に出る。リハルトはそちらに目を向けた。

 所詮は下々の者と、あまり目を向けないで欲しいということのが本音。しかしリハルトにも、これまでの事件で活躍したギルドの人間のことは耳に入っているようだ。その中でも特に自分と同じ魔法使いに興味が湧くのは当然かもしれない。


「君がリゼという魔女だね? なかなか優秀だと聞いている」

「は、はい。ありがとうございます。あなたの身は全力で守ります」


 ミーナは緊張しつつも、そんなに不自然でもない態度で返事をした。いつものリゼの方がよっぽど慌ててるぐらいだ。

 シュリーとマルカは、リゼじゃない人間がリゼを名乗っていることに反応を見せない。協力してくれているのはなにより。


 そのまま少しだけの会話があって、カイ達は下がった。とりあえず、この対面は切り抜けられたようだ。

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