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7-9 爆発と混乱

 リゼの使い魔が猫のぬいぐるみの格好をしていることを、ニベレットの当主は知ってしまっている。

 つまりミーナにリゼのふりをしてもらうにしても、それの肩にいる使い魔はコータじゃないといけないことになる。

 それって出来るんだろうか。出来なくはなさそうだけど、魔法については素人のフィアナには判断がつきかねた。


「どうしたんだいフィアナちゃん。難しそうな顔をして」

「え、いえ。なんでもないです。……いえ、あの。実はですね……」


 とりあえずシュリーとマルカには、リゼの代役について話さないといけない。タイミングとしては今だろう。

 ユーリがペガサスの横にぴったりとつけて、小声で相談ができるようにしてくれた。リゼの兄は前を行く馬車の中だから、この会話は聞こえない。あとは周りの兵士達だけど、多少の内緒話程度だったら気にしないみたいだ。


 そして、フィアナが少しの逡巡の後に話そうとしたところ。



 突如、爆発音が聞こえた。



 それが何なのかを確認する前に、フィアナはユーリから降りて弓に矢をつがえる。ユーリもまた戦闘態勢に入り、敵が何者であれ視界に入れば即座に飛びかかれるよう構えた。


 前を行く馬車を引く馬が驚き、大きく鳴きながらこの場から逃げようと暴れる。それを御者は必死になだめていた。それはシュリー達を乗せたペガサスも同じだったが。


「大丈夫ですわ。大丈夫、なにも怖いことはありません」


 そこはこのペガサスをよく知っているマルカが、見事に落ち着かせていた。もともとこのハタハタは、戦場の上を飛び回り城に駆け込むぐらいはやってくれる、度胸のあるペガサスだ。これくらいなら大きく取り乱すことはないと思う。


 とはいえ状況は深刻。何が起こったのかよくわからない。何者かわからない敵の攻撃なのか、それとも事故がどこかで起こったのか。通りには普通の市民も多くいるけど、彼らもなにが起こったのかわからず、あちこちから悲鳴があがったり逃げ出そうとする人間で混乱が起こっていた。


 周りの兵士達も武器を構えながらも狼狽えている。


 前方を見ると煙が見えた。発生源は道の真ん中。レンガで舗装された道か黒く煤けている。そこが爆発源なのかな。先行する馬車のすぐ目の前で起こったらしく、先頭を歩いていた護衛の兵士が巻き込まれて倒れていた。怪我をしているのか死んだのかはわからない。


 道の真ん中が突然爆発するなんてことは、普通はありえない。つまりは何者かの攻撃によるものと考えるべき。

 敵が今の一撃で去ってくれたならそれが嬉しいけど、たぶんそれはないだろう。きっと敵は馬車を狙ってそれが外れたわけで。今度こそ攻撃を当てようとしてくるはず。


 そして周囲を警戒し続けているフィアナは見た。通りに面した建物の上で身をかがめながら、こちらを伺う人物がいた。手には長い杖を持っていて、不意に立ち上がって詠唱を初めて。


「あそこです! 魔法使い!」


 フィアナは叫びながら矢を射る。それはまっすぐ不審人物の方へと飛んでいく。

 しかし刺さりはしなかった。その何者かはフィアナの声に反応し、慌てて逃げるために屋根の向こう側へと行ってしまったから。周りの兵士達が数人、これを追いかけるために走る。

 のこる兵士達は要人である馬車の中のふたりを守ろうとしている。中にいるふたりは魔法使いと騎士なわけで、戦う力はあるはず。兵士が必死に馬車の中に留めようとしているが、ふたりともやがて外に出てしまった。男女がひとりずつ。



 男の方が、リゼの兄であるリハルト・クンツェンドルフなんだろうな。大人の男。レガルテ達よりも年上だ。たしか二十六歳って聞いている。

 一見すると穏やかで人の良さそうな外見をしているけれど、リゼが避けている以上はどんな本性を持っているのかわかったものじゃない。魔法使いの名門には恐ろしい人間が多いと聞いているし。油断してはいけない。

 彼は杖を持って周囲を警戒していた。一瞬、こちらと目が合って怪訝な顔をされる。この場に大きな狼にまたがった子供がいるというのは、やっぱりおかしいんだろうな。フィアナは思わず目を逸した。


 もうひとり出てきた女性も、リハルトと同じぐらいの年齢だった。セリアという名前の騎士とのことだけど、今は鎧は着ていなかった。鎧だと押さえつけられるんだけど、今は大きな胸が目立っているなと、こんな時なのにのんきなことを考えてしまった。

 長い髪をひとつに纏めた美人。フィアナがよく知っている騎士といえば故郷の領内で領主に仕えていたレオナという女だが、彼女よりも頼りがいがありそうな雰囲気を纏っていた。鎧こそ纏っていないが、剣を構えて油断なく敵を警戒している。


 しばらくそのまま緊迫した時間が流れた。新たな攻撃が来る気配はない。とはいえ警戒を解くだけの根拠があるわけでもなく。そのうち誰かが言った。このことを城に報告しに行こうと。兵士のうちのひとりが城のある方角へと駆けていく。その間に残った者は守りを固めるように一箇所に固まる。真ん中に要人であるリハルトやセリア、それからシュリーとマルカを集めてその周りを武器を構えた兵士で守るという布陣。その形になるためにフィアナたちは馬車の方へと歩いていく。


「フィアナ。僕、一旦ここから離れて、お城にいく。途中でリゼ達も拾う。……シュリー達がコータの格好、話したのを伝えないと」

「そ、そうですね。じゃあわたしは引き続き、シュリーさんに事情を話せないかがんばります」


 いつの間にかユーリが人間の姿に戻っていて、そんな提案をした。敵襲もだけど、そっちも対処しないといけないな。ユーリはこっそりと集団を離れて建物の影に消えた。すぐに狼化して走っていったのだろう。よし、自分も役目を果たさないと。




――――――――――――――――――――




 爆発音が聞こえたため、リゼはその場で足を止めて周りを見渡す。周囲では市民が不安がったり周りを見渡したりと、小規模な混乱が起こっていた。

 どう考えても、不穏分子が馬車に攻撃をしたんだろう。リゼは心配になったようで、そっちへ走ろうとした。


「待てリゼ。今は城へ急ごう」

「え、でも!」

「ここで俺達が近づけば、俺達自身が敵だと思われるかもしれない。それにお前の兄貴に見られるかもしれないだろ? 大丈夫、フィアナもユーリも強いからふたりは大丈夫だ」


 今は、この騒ぎが足止めになることを期待して城に走るべき。そう判断した。フィアナ達が心配なのは、リゼも俺も同じなんだけど。

 リゼはなんとか納得してくれて城へ走った。


 狼化しているユーリが、すぐにこっちに追いついてきた。しゃべるために人の姿に戻った際、ローブをフィアナに預けたままなことに気づいて恥ずかしそうにしてたけど。急いでたんだな。仕方がない。


「あ、わたしの貸してあげるよ。サイズ合うかな?」

「うん……でも、今はお城に急ごう。とりあえず、フィアナは無事。あと、いくつか話さないこともあるけど。今はお城に」


 そして再び狼化したユーリに乗り、城まで一気に戻った。

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