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7-7 偽の経歴

 実際のところ、この三つ以外にも注意しなきゃいけない相手はいるだろう。


 それほど大きくない規模のテロ組織というか過激派も、とりあえずこの都市に来る気がする。あるいは今回来る要人に個人的な恨みを持つ人間だってやってきて、何か事件を起こすかもしれない。


 あとは、連続して起こったこの街での騒動を目にして、妙な終末論に取り憑かれて「あ、テロ起こそう」と考える変な奴とか。なにか大きなことを成し遂げたいという英雄願望を持つまではいいが、自分にできることなどたかが知れてると悟り、手っ取り早くテロ行為に走るバカとか。


 世の中には信じられないくらい頭の悪い奴がいるし、そういうのを見つけたら警戒して排除しないといけない。



 そういう方針がはっきりしているのはいい。しかし別の問題があった。



「なあカイ。そういう奴ってどうやって見つければいいんだ?」

「さっぱりわからない」

「そっか。そうだよな」


 俺がいた世界の映画なんかでは、こういう悪いテロリストの紹介はだいたい写真を見せられながら行われるものだ。でもこの世界に写真は存在しない。


 映画ではテロリストの潜伏場所なんかも、下っ端の捜査員とかがいつの間にか調べてたりする。あとは、出没する可能性が高い場所の情報が一緒に判明したりする。


 しかしこの場合、その下っ端というのが俺達だ。あと出没する可能性の高い場というのはここにやってくる要人達のことで、そこに現れたらだいたい事態は終わってる。それを未然に防ぐのが俺達の仕事なのに、その範囲から外れてしまう。


 不穏分子達の顔もわからない。これじゃあ探しようがない。



「目撃されたっていう、狼獣人の族長は?」


 ユーリ的には、獣人がやはり気になるらしい。目撃情報で言うなら確かに、こいつが唯一だ。それが手がかりになるかなとも思ったが、あまり芳しいものでもないらしい。


 族長を見たというのは、旅に出ている狼獣人で冒険者の男だった。

 数年ぶりに見るが知っている顔だから間違いないという。そのことを街の酒場で仲間の冒険者と話しているのを、その街の領主に近い者が偶然聞いた。そしてその人物、領主、首都にいる知り合いと伝言ゲームで伝わっていったという話。


 有力ではあるが、間違いないかと言われたらちょっと困る情報だな。間に立つ人が多すぎる。どこかの過程で伝え間違いがあったかもしれないし。


「とにかく、獣人についてはわかりやすい特徴を体に持っている。とりあえずは狼、虎、兎の獣人を街から探すことにしよう」


 今できることはそれくらいか。まあ明日、リゼの兄とか首都の騎士さんと話すなら、その場で新しい手がかりが聞けるかもしれない。それに期待しよう。


 それから、ミーナをリゼに仕立て上げるための話し合いも少しした。といっても、リゼが詳しい経歴を話すだけなのだが。

 そしてもちろん、その経歴も嘘である。ミーナに本当のことを話すわけにはいかなかった。

 嘘を嘘で塗り固めるとはこのことだ。



 リゼは首都の近くにある農村で生まれて、魔力の才能は偶発的に備わっていたもの。農民出身だから姓を持たない「ただのリゼ」である。

 魔導書は家の倉庫になんか眠っていたから、せっかくだから使ってみた結果俺がやってきた。魔導書の来歴はわからない。

 学校に通うようなお金はなかったが、しばらく首都に滞在して商店で下働きをしつつ独学で勉強をした。文字の読み書きもそこで覚えた。

 その頃に詳しくは言えないが、クンツェンドルフの家の人間とトラブルがあった。庶民の出のくせに使い魔を連れているとは怪しいと言いがかりをつけられたとか、そんな感じだ。

 それを機に首都を出て旅立った。途中の街でギルドに登録して、カイ達と出会ってパーティーを組むようになり今に至る。


 そんな経歴をミーナに覚えてもらって、あとはアドリブで乗り切ろう。

 どうせ要人たちと顔を会わせる時間はそこまで長くないだろう。たぶんなんとかなるはず。希望的観測は危険だとはわかってるが、さりとてこうするしかない気がする。

 仕方あるまい。バレてしまった時は強硬手段で要人全部暗殺して、不穏分子にやられましたとか首都に報告することにしよう。

 いやそれは、本当に最後の手段だけどな。俺達がテロリストになってどうするんだって話だ。




 そんな感じで俺達は眠りにつき、そして運命の朝を迎える。


 朝早くに城に向かってレガルテやターナとも打ち合わせ。代役を立てる件は城主様も了承してくれたらしい。とても話のわかるいい支配者様で助かった。もしことがバレたら一番まずい立場になるのはこの城主だろうに。

 仕方がない。ここはなんとしてもバレないように慎重にことを進めなければ。




 大切なのは情報だ。状況を冷静に知ることで作戦を完璧に進行させることができる。まあ完璧とはいえなくても、多少の不具合が起こっても対処できるようにはできるはず。

 というか、こういう事をして、都合よく全部がうまい具合に進行することなんてありえない。必ずなにか問題が起こる。起こるのはいいから、できるだけ早くそれを知っておくために情報収集は大事だ。


 というわけで俺とリゼ、あとフィアナで狼化したユーリの上に乗って南の門までむかう。ユーリのローブは、今はフィアナが身につけていた。リゼと並ぶと、魔法使いの姉妹に見えないこともない。


 リゼの兄を始めとした先遣隊が、この門から入ってくるのは把握している。門の近くの建物の陰から様子を伺う。

 正確な時計なんてものは、まだ存在しない世界だ。監査の人間が来る正確な時間というのは誰にもわからない。けれど今日の朝に来ると決まっているなら、それほど待つ必要もないはずで。


「あうー。どうしよう。緊張してきた……」

「お前が緊張してどうする。今回はお前、隠れるだけだろ」

「だって……」


 実際にリゼの偽物になったりそれを仕立て上げて共に騙したりする方がよっぽど大変で、リゼの労力など大したことないだろうに。まあ気持ちもわからなくはないけど。


「みなさん。来ました」


 フィアナが門の方を見ながら声をかける。俺達もすぐにそちらに目をやる。


 護衛の兵士達に守られた小さな馬車が門をくぐったところだった。中はよく見えない。試しに探査魔法をかけてみたところ、確かに中に人間がふたり乗っていた。知らない相手だから顔なんかはよくわからないけれど、男女なのはわかった。

 つまり片方がリゼの兄。片方が王族に仕える騎士の女ということか。


 護衛の兵士達の装備は、この街の兵士達と同じく簡素な鎧と槍か剣というもの。盾を持っている者もいる。

 しかし鎧の色や形、あるいは描かれている紋様などのデザインの違いから、この街の兵士とは所属が違うというのが読みとれた。



 そこまではいい。けれどその次が問題だった。

 馬車のあとに続くように、一頭の白馬が門をくぐった。それは正確には馬ではなく、羽の生えたペガサスだった。

 俺達はそのペガサスをよく知っている。その上に乗っているふたりの人物も。


 首都の歴史学者、シュリーとマルカがそこにいた。

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