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7-4 代役の人選

 代役を立てる。その言葉の意味は全員わかったが、すぐには受け入れられるものではなかった。うん、俺にも理解はできたぞ。

 リゼではない他の魔法使いにリゼのふりをしてカイのパーティーに加わってもらう。そしてリゼの兄との対面とかゼトルという男との面会とかは、そいつにやりすごしてもらう。そんな感じの作戦。

 うまくいくとは到底思えないが。


「ターナさん。向こうが知ってるわたしのことってどんな感じですか?」


 しかしリゼ的には、精一杯前向きで建設的な解決方法なんだろう。作戦を行うにはまずは情報ということで、ターナにわかっていることを尋ねる。

 うまくいくはずがないって内心は思っているターナも、ひとまず答えるべく少し思案する様子を見せた。


「そうだね……標準教育過程に入ったぐらいの年齢の女の子で、喋る使い魔を連れた強力な魔法使い。それぐらいの情報しかいっていないと思う」

「そうですかー。使い魔がどんな姿かは、もしかしたら向こうに伝わってないのかもしれませんね。ぬいぐるみの体をしてるとか」

「そうかもしれないね。使い魔の姿に興味のない魔法使いは多いし。わざわざ当主さんも聞かなかったかも」


 そういう物なのだろうか。まあ魔法使いの間で当たり前に受け入れられている事象だし、そういうものなんだろう。


「だけどなリゼ。仮にそうだとしても、リゼと似たような年齢で喋る使い魔を連れている魔女なんてこの街ですぐに見つかるなんてことが…………あるな。ひとりいるな……」

「いますね」


 代役を立てるとして、それが一体誰なのか。みんな、なんとなく思い浮かべている人物は同じだった。

 いやまあ。属性は似てるが。でも。まさか。



――――――――――――――――――――――



 その翌日にミーナは旅に出る、正確に言えば街からの追放になる予定だった。

 あんまり大勢の人間に見送られたりするのは性に合わないから、今日のうちに街の南にある門の近くにある宿に移動するつもりだ。

 そして明日の朝に出発。トニと一緒に、国の南側にある海に面した街のどこかに向かう。どこにするかは旅の途中で決めよう。


 姉に別れは済ませてきた。ここに帰るのがいつになるかはわからないけれど、その時は今よりは立派な魔女になって、姉に再会できればいいな。


 そんなことを考えながら、ミーナは城近くの宿を出て…………。


「ミーナちゃん旅に出るのちょっと待った!!」

「ひゃあっ!?」


 その進路を塞ぐようにしてリゼが急に現れたから、ミーナは驚いて悲鳴をあげてしまった。



――――――――――――――――――――



「ミーナちゃん急にごめんね! あのね! ちょっとの間わたしのふりしてほしいの!」

「ちょっと言ってる意味がわからないんだけど……」

「ごめんねミーナ。事情が込み入ってて」


 宿の部屋に戻って、リゼとターナとミーナで話し合い。あと俺とトニもいるぞ。


「やあ。僕と同じ、この世界で喋る使い魔くん。君という存在は僕も気になっていたんだ。旅に出る前にこうやって話せたのは喜ばしい」

「あ、ああ。俺も嬉しいよ。喋る使い魔は珍しいらしいもんな……。でも今はそれどころじゃなくて……」


 トニは俺に興味があるのか、ぐいぐい迫ってくる。顔がトカゲだからか表情が読み取りにくい。別に俺に悪い感情を抱いてるわけではないだろうが、不気味な感じがする。

 あと俺はこいつと違う世界から来たわけで、あんまり話は合わない気がする。というわけで、今は本題に集中させることにするぞ。


 ターナとリゼとで事情を説明する。

 国の偉い役人にリゼを会わせると揉め事になる可能性が高いが、向こうはそれを知らず前の事件で活躍した優秀な魔女に会いたいと言っている。

 会わせたら面倒なことになるから会わせはしないが、先方の要求には応えたい。その方がこの都市のこれからにとって有利だからだ。国からの復興支援が得られるチャンスかもしれないし。

 リゼに仮病を使ってもらうなどして会えない理由を作るのもありだが、それでも会いたいと言われたら面倒。というわけで、とりあえずリゼ以外の誰かにリゼのふりをしてもらうことで切り抜けるのはどうか。まとめるとそういうことだ。



「それで、リゼと同い年の魔女で喋る使い魔を連れているわたしを使おうってこと?」

「そういうことです! ミーナちゃんお願い! ミーナちゃんならやれるって信じてる!」

「それは…………頼ってくれるのは嬉しいけど……。でも大丈夫なの? 首都の役人を騙すのよね? うまく行かなかったらどうするの? それに噂では、役人が来るのはここの信頼性が低いからって聞いたけど」


 これはつまりは監査だ。大きな事件が立て続けに起きて支配構造も大きく変化したこの都市が、都市としてちゃんとやっていけるのかの調査に来るってことだ。

 そこで嘘をついたのがバレたら、確かに相当まずいことになる。ミーナの言ってることは圧倒的に正しい。


「ふむ。しかしミーナ。リゼにも事情があるのだろう。ここは恩を返すべきではないか? バレないように手を尽くし、バレた時にも使えるうまい言い訳を考えておけば、なんとか切り抜けられるだろう」


 そこにトニが、ミーナの頭の上に飛び乗り言った。リゼへの恩。その言葉を聞いた途端、ミーナは困ったような表情を見せた。


「わかってるってば、トニ。わたしだってやらないなんて言ってないし。危険だから慎重にやるべきって思っただけだから。リゼには恩返ししたいし…………わかった。やる。詳しく話を聞かせて」

「わーい! ミーナちゃんありがとう大好き!!」

「わっ!? 抱きつかないでよ!」


 そうか。恩か。個人的な事情から国の要人に会いたくないなんてわがままを言ったリゼに、レガルテもターナも危険を承知でそれを守ろうとした。一介の冒険者相手なのに。そしてミーナもそれに協力してくれる。


 なんで、そんなことをしてくれるのだろう。少し引っかかっていた事だ。

 けれどなんとなく理解できた。みんな、事件の中で活躍してくれたリゼに恩があると思っているのだろう。だから可能なら協力する。 


「ミーナもターナも名門の頃の感覚がまだ残ってるのだろうね。首都の役人風情が何をするものぞだ。ここヴァラスビアのことは、ヴァラスビアでやりたいという気持ちもあるから口出しされたくないのさ。だからささやかな反抗として、役人共を騙すこともしたくなるってことさ」


 いつの間にかトニが俺の隣にいてそんなことを言った。いい話で納得しかけてたのにこいつは。

 いやまあ、そういうのもあるかもしれないが。でも恩返しの気持ちもあると思うぞ。俺はそう信じてるぞ…………。

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