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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第6章 ファンタジー・オブ・ザ・デッド
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6-36 召喚の儀式

 ミーナは少し躊躇ってから、魔導書を受け取った。

 ミーナだって、この本を勝手に使うのはまずいというのは理解しているだろう。とりあえず相当高価なものだから、簡単に扱えるものじゃない。


 ていうかそれを気軽に手に取ったり盗んだりできるこの女は、一体なんなんだろうな。


「一冊ぐらいならバレないから平気だって」

「いや、バレるだろ」

「えー。じゃあエミナさんがお金になるからとかで忍び込んだ時に一冊盗んだってことにしよう」

「それも無理があるぞ」

「そう? じゃあ……えっと、本がひとりで歩いていなくなってしまいました」

「そんなことがありえるんだな? この世界の魔法には、魔導書がひとりでに歩いて消える魔法が本当にあるんだな?」


 言い訳を思いつかないリゼがいい加減なことを言うのを、俺はずいっと迫ってたしなめる。まあそれで言うことを聞く奴じゃないのは、よくわかっていたことだ。


「もう! コータはミーナちゃんがこのままひとりぼっちでいいの!? 言い訳なんて後から考えればいいんだよ! それに、ターナさんだったらきっと許してくれるよ。ミーナちゃんのためだったらさ」

「……なるほど」


 別に、言い訳を後から考えればいいということに納得したわけではない。ターナなら魔導書の一冊ぐらいなら、事後報告で消費しても笑って許してくれそうな気がしたというだけだ。

 特にミーナのためとなれば。


 魔導書が城の持ち物なら、ターナの許可が出ればそれでいいわけだし。


 俺だって、孤独に苦しむ女の子を救ってやりたいのが本心だ。魔導書を使っていい理由があるなら止めることはない。



 というわけで早速儀式を始めよう。


 床に敷いてある絨毯をを剥がすと木の床が見えた。そこにインクで魔法陣を描いていく。儀式が終わったら、また絨毯で隠すからいいという考え方だ。

 魔導書に描かれている通りに魔法陣を描き写していく。間違ってしまったら俺の時みたいに、本来呼ぶべきではない物が来てしまうから注意が必要だ。


 魔法陣は直径二メートルほどの円の中にいくつかの紋様や術式を書き込んだもの。これは普通のインクで描いていけばそれで良い。

 大掛かりな魔法によってはこの時、インクに魔力を込めながら描くとかそれ専用のインクが必要とかの制約があるらしい。

 しかし使い魔召喚の儀式では、そういうことを考える必要はない。召喚に必要な魔力はすべて魔導書に含まれているものを使うから、極論すれば魔法使いじゃなくても召喚は可能だ。


「もちろん優秀な魔法使いがやったほうが、より良い使い魔が来るって言われてるけどね。詠唱を頭の中でやれる優秀な魔法使いなら、その分失敗する可能性も低くなるし」

「詠唱を噛んだお前みたいな失敗か」

「う……まあそういうことだけど…………」


 ちゃんと魔法陣が正しく書けているかは、何度も確認する。俺の時みたいな失敗は許されない。俺の世界から、再び別世界に呼び出される人間が出るのだけは避けなければいけない。

 犠牲者は俺だけで十分だ。


 正しいと確認できたらいよいよ詠唱だ。召喚の儀式の場合は、術者は魔法陣の外に立つ。この魔法陣自体がこの世界と妖精の世界を繋ぐ穴となるから、中に人がいれば逆に向こう側へと落とされてしまうかもしれない。


 魔法使いの長い歴史の中には、妖精の世界を見たいがために穴の中に入っていった者もごく少数だがいるらしい。そしてこちら側へ帰ってこられた者は誰一人としていない。


 ミーナが少し緊張した面持ちで魔導書を開く。そして片手でこれを持ち、詠唱。


「我ミーナ・チェバルの名において宣言する。ここに彼方の世界と此方の世界を隔てる壁を穿ち砕き――――」


 普段火球を撃ったり風を吹かせたりする詠唱よりも、ずっと長くて難しい。これを何も見ずに詠唱するのはちょっと難しいな。あとリゼが噛んだとしても、別におかしいとは思わない。


「――よって、かの神聖なる精霊たちの世界より我が世界へ、下僕となり友となる妖精よ来たれ」


 長い詠唱は終わったようだ。ミーナはなんとか、それを間違えることなく唱え終えた。

 詠唱の途中から、魔法陣は青白い光を発し始めた。それはだんだん強くなり、それから不意に魔法陣の真ん中に暗闇が現れた。

 

 それが穴だった。底が見えないほどの深い穴は、間違いなく妖精の世界に繋がっているはず。あまりにも遠いから向こう側が見えず、ただの暗闇に見えているだけ。

 そして暗闇の中にひとつの点が現れた。それはフラフラと揺れながらも、だんだんこっちに近づいてきている。


「ミーナちゃん、こっちにおいでって言ってあげて。じゃないとこの穴の中で迷ってこっち側に来れないかも」

「え、うん。えっと、こっちだよ妖精さん! こっちに来て!」


 そう言えば俺がこの世界に来たときも、リゼは俺を呼んでくれてた。それがリゼ独自のやり方なのか、それとも召喚する時はそういうものなのかはよくわからない。


 とにかくその白い点は声に気づいたのか、まっすぐこちらへ向かってきている。点ほどの大きさだったそれはだんだん大きくなっていく。それは光を発しているから白く見えていたようで、こっちに近づくに連れて当然俺達は眩しさに目を閉じて…………。



「やあ。僕の名前はトニ。見ての通り妖精だ。僕を呼んだのは……君かな?」


 喋った。まずそのことに、リゼとミーナは驚いたようだ。そういえば喋る使い魔って珍しいんだっけ。俺としては実感は伴わないけど。


 その使い魔はまっすぐミーナの方を見て尋ねる。ミーナとリゼとを見比べて、リゼの肩には既に使い魔が乗ってるから違うと判断したのだろう。もしかしたら頭がいい奴なのかもしれない。


 トニは白いトカゲだった。リアルなのではなくて、少々丸っこい形をしていてわかいらしい。妖精の国にはいろんな姿のこういう生き物がいて、どんなのが呼び出されるかはわからないという。

 一応、呼び出した術者の才能とやってくる使い魔の能力は比例する傾向にあるらしいけど。それでもあくまで傾向にすぎないらしい。


「そうよ。こんにちは、トニ。わたしはミーナ。よろしくね」

「よろしく、ミーナ。使い魔として、僕にできることなら精一杯やってみせよう。仲良くしてくれるかい?」

「うん。仲良く……わたし達、いい友達になれるかな?」

「それはお互いの相性や努力次第だ。けれどその努力は最大限にしよう。大丈夫、きっとなんとかなる」


 トニというトカゲは、そう言ってミーナの肩に乗った。なんか形式張った話し方をする奴だけど、でもいい奴に見えた。

 ミーナの表情も、さっきまでと比べて柔らかいように見える。

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