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2-6 狼退治

 さっそく今夜、狼退治に赴くこととなった。急な話だけど、待っている間にまた犠牲者が出てはかなわない。

 こちらも別に準備が必要なわけじゃない。それは受けることにする。


 強いて言えば、もっとしっかり魔法の練習をしていた方がいいのだろうけど。けどどれだけ練習をしても。課題点は増えるばかりじゃないかなとも思う。なにせ先生がリゼなんだから。




 俺たちは、数人の狩人たちと共に森の中を歩いている。ひとり一本松明を持って、慎重に進んでいく。


 この村で狩人として生計を立てている人間たちの中で、動ける人間をかき集めてきたとフィアナの父親は言った。なるほど、動けるか。見た感じ、経験豊富なベテランといった見た目の者はフィアナの父親ひとりだけ。後はとりあえず少しは場数を踏みましたといった感じの若者が数人と、それから。


「よろしくおねがいします! リゼさん!」


 フィアナまでいた。背中に弓と矢を背負って、腰には大きめのナイフ。狩人としての装備は万全だけど、小学生高学年程度の年齢のフィアナの体ではちょっと頼りないという印象を受ける。


 これでも、用意できる最良の戦力なのだろう。これまでの狼との戦いで、ベテランから怪我を負ってしばらくは動けなくなったとか。そういう事情。


「大丈夫だ。フィアナはこれでも、ちゃんと訓練は積んでる。実戦は少ないが、力にはなる。危なくなったらみんなで守るしな! 頼りになる魔法使いもいる」


 なんだか、ずいぶん頼りにされてしまっているな。俺は不安で仕方がないのに。


「なあリゼ。俺達だけで行った方が良かったと思うんだ。周りに人がいると、お前が……魔法使えないってバレるだろ」


 リゼの肩に乗って小声で、周りに聞こえないように話しかける。お前が無能だって言いかけたけど、それをすればこいつは大声で反論して騒ぎそうだしやめておいた。


「それは…………どうしようね。なんとかして、わたしが魔法使ってるように見せられない?」

「どうやって」

「最初に風を、わたしの杖の先に集まらせるイメージ」

「…………やってみる」


 そんなこともできるのか。できるのだろうけど、敵を前にしてぶっつけ本番でやることじゃない気がする。

 ええい。もうどうにでもなれ。


 狩人たちが言うには、狼たちがねぐらとしている場所がこの周辺にあるらしい。そこを探して、あわよくば寝込みを襲う。

 とはいえここは、既に奴らの縄張り。いつ襲われてもおかしくはないから、狩人たちは警戒を怠らない。


 やがて、先頭を歩く狩人がなにかを見つけた。狼の足跡があると。しかも新しい。つまり、この近くに敵がいる可能性が高くて。緊張が走るのがわかった。それから…………。


「いた……」


 誰かが静かに言って、ある方向を指し示した。俺もそれを目にする。


 大きい月に照らされて、銀色の毛並みを輝かせている美しい狼。それが、いくつかの木々の向こうにはっきりと見えた。

 四つん這いの姿勢であるにも関わらず、体の高さは一メートル半ぐらいある。それこそリゼと同じぐらいで、俺の知ってるオオカミの大きさよりもずっと大きい。

 そしてそれは、こちらを真っ直ぐに見ていた。松明の明かりが目立ったのだろうか。狼の目がそれを反射して怪しく光る。そしてそれは、口を開こうとして。


「放て」


 フィアナの父親の命令で、狩人たちが一斉に矢を放つ。全部が命中したわけではない。外れたり木に阻まれたりしたけど、一本の矢が狼の首付近を貫いた。遠吠えをしようとしていた狼からは、かわりに小さなうめき声が出た。

 すぐに狩人たちは二本目の矢を射る。今度はさらに多くの矢が刺さり、狼はばたりと倒れた。


 狩人たちが確実にこれを殺すべくそこに駆け寄っていく。俺たちもそれについていこうとして、狼がもう一頭いたのを目にした。

 さっきの狼から少し離れた場所。やはりじっとこちらの様子を伺っていたが、仲間を倒されたのをみるや天を仰ぎ口を開いた。気づくのが遅れたから、止めることなど出来なかった。


 ウオオオオオオォォォォォン


 遠吠え。周囲一体に響くその声に狩人たちは身をすくませる。群れの仲間がすぐに来る。


「おいリゼ! やるぞ」

「う、うん!」


 とにかくこいつを黙らせないと。リゼが狼に杖を向けて、俺もその杖に意識を集中させる。


「風よ吹け! 切り裂け! ウインドカッター!」


 リゼがそう叫ぶ。それと同時に俺も心の中で詠唱した。リゼの詠唱にタイミングを合わせてるから、確かにリゼが魔法を使ってるように見えるだろう。

 杖の先端に風がほとばしり、それが一気に凝縮され刃となって狼に襲いかかる。俺のイメージ通りの軌道を描くその刃は、真っ直ぐに狼の首を切断した。


「やった!」

「ちょっとグロいな……」


 昨日のオークとは違って、初めて自分の意思で殺しをした。その感覚が少し心に刺さるけど、今はそんな場合じゃない。


「撤退するぞ。すぐに群れの仲間が来る。グズグズしてたら囲まれる」


 フィアナの父が焦り気味に言う。今の遠吠えを聞いて、群れのメンバーが目を覚ましてここに集まってくるということだ。

 それは確かにまずい。複数の狼に囲まれて一斉に襲いかかられたら、さすがに対処できない。


「リゼさん……」


 フィアナがリゼの近くに来る。自分の手でリゼを守るという意思は感じるけど、同時に不安もあるようだ。そりゃそうだ。狩人としての訓練はしたとはいえ、経験の浅い子供だもんな。



 フィアナの父の先導でもと来た道を戻る。森の中に道なんてないように見えるけれど、狩人たちにはわかるらしい。経験の差はどうしようもない。はぐれたら戻れなくなるかもという恐怖も感じながら、リゼと俺は最後尾で狩人たちについていく。フィアナが近くにいて良かった。


 できるだけ急いで、しかし音を立てずに移動していたつもりだ。けれど、狼の方が森の中での移動は分があるようだった。


「前に一頭!」


 フィアナの父の声が前方より響く。同時に矢を射掛ける音。さらに。


「こっちもだ! 右手にいる!」


 若い狩人が叫んだ。そちらを見ると、たしかにいた。狩人の列に襲いかかろうとしていた。


「か、風よ吹け!」


 すかさずリゼが一歩踏み出し詠唱。でも実際に魔法を使うのは俺だ。そして俺は反応が遅れてしまった。


「切り裂け! ウインドカッター!」


 ずれた中でも精一杯、その詠唱にタイミングを合わせて風の刃を放つ。若い狩人に跳びかかっていた狼の前足の一本が切断され吹っ飛ぶ。

 殺すには至らなかったが、とりあえず狩人が怪我をすることも避けられた。それから、とどめを刺そうとリゼに言おうとしたその時。


「リゼさん後ろ!」


 フィアナの声。振り返れば、また別の狼がこちらに襲いかかる寸前だった。

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