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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第6章 ファンタジー・オブ・ザ・デッド
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6-30 儀式の現場

 嫌な想像が頭をよぎる。この大量のゾンビはどこから来たのだろう。

 この街で新しくこれだけの数の死体を用意するのが困難なら、外から持ってくるしかない。


 街の外であれば、死体をあちこちから入手することはできるだろう。商人であれば、それを街に持ち込むことは用意だろう。

 もしかすると死体を扱う商人なんてのもいるのかもしれない。


 ここだけではなく、街の至るところに死体が満載の荷台を置いておく。そして儀式だ。そうすることでこの状況を作れる。


 でも、なんの目的があってのことだろう。それがまだわからない。


「とにかく、チェバルの屋敷に踏み込むぞ。そこで儀式をやってる奴がいれば、そいつに聞けばいい」


 レガルテが言い切る。屋敷はすぐそこ。


 ゾンビ達が生者である俺達に気付き、緩慢な動きでこっちに向かってくる。リゼはそんなゾンビの集団に手のひらを向けた。


「ファイヤーボール!」


 その詠唱に合わせて俺が火球を放つ。巨大な火球が前方のゾンビをまとめて焼き払った。そうやってできた道を、ユーリから飛び降りたカイが先陣切って走り、襲いかかるゾンビの首を剣で切断。

 その後を俺達が続く。この空き家からチェバルの屋敷までは通りを二本挟むだけ。数分で到着する距離だ。たとえゾンビを殺していく過程があったとしてもな。


 たどり着いたのは屋敷の裏手。そこにも小さな出入り口はあって兵士が警備にあたっていたのだが、ゾンビに襲われて殺されたようだ。鎧を着た屍がふたつ転がっていた。

 この事件がなければ死ななくて良かった命。


 早くこの騒動を解決しよう。死者の数が増えない内に。ユーリが屋敷の扉を思いっきり殴って、中に踏み込む。

 同時に、建物内に待機していた何者かがこちらに矢を射掛けてきた。


「風よ吹け!」


 咄嗟にレガルテが詠唱。建物内に突風が吹き、矢は吹き飛ばされて全く別の方向へと刺さる。

 それから敵が二本目を放つ前にフィアナが射る。その何者かの胸に矢が刺さり、敵の無力化に成功した。


 屋敷の中に敵対勢力がいた。つまり、誰かがこの屋敷の中に隠し通路を通って侵入したって可能性が高いってことだ。

 そしてこの地下で、儀式が行われている可能性が高いということでもある。

 そういえば屋敷のあちこちに、松明で明かりがともされている。それは地下へも伸びていた。


「どうやら、本当にこの下でなにかやってるみたいだね……」


 ターナはそう小さな声で言ってから、静かにというジェスチャーを見せた。息を潜めて耳をすませると、確かに小さな声が足元から聞こえてくる。

 つまり地下で大掛かりな何かが行われていて、複数の人間が声を揃えて話している。


 詠唱だろうというのは容易に想像がついた。


 屋敷の構造を一番知っているターナが先導する。俺も一度通って知っている階段をゆっくり、できるだけ音を立てずに下っていく。全員武器を構えていて敵がいればすぐに攻撃できる態勢だ。ユーリは屋内だから子供の姿に戻っているが、地下のあの空間なら狼化しても十分暴れられる広さだから問題ないだろう。


 もう少しで階段は下りきれる。そこから折れ曲がった廊下を少し進めば扉があって、それを開けたら地下室だ。


 その曲がり角から、小さな俺が身を乗り出して様子を見る。敵がいたとして、人間が覗き込むより小さなぬいぐるみの俺の方が気づかれにくいからだ。

 本当は探査魔法が使えればよかったんだけど、無理なら仕方がない。


 扉の前には見張りがふたり。どちらも剣士のようだ。さっきの弓手といい、何らかの理由でこの儀式の場が嗅ぎつけられることへの用心をしてるんだな。それから、敵は思ったよりも大所帯なようだ。目の前の敵に加えて、少なくとも魔法使いがあと六人いるのだから。



「スリープ」


 門の前のふたりに向けて、眠らせるよう魔法をかける。しっかりと効果は表れ、剣士達はどさりと音をたてて眠ってしまった。これでしばらくは起きないはず。


 けれど問題発生だ。眠ったふたりは思ったよりも大きな音をたてて倒れた。部屋の中にもその音は聞こえただろう。

 曲がり角から様子を伺う。扉がそっと開いた。少しだけ開けて外の様子を見るという程度。相手の姿はこちらからは見えなかった。しかしその何者かは、扉を守っていた剣士が倒れていたのを確認したようだ。


「敵襲!」


 部屋の中から鋭い声が響く。こちらの存在は気づかれた。ならどうする?

 こちらも引く気はない。


「踏み込むぞ! ファイヤーボール!」


 レガルテが指示を出しながら扉に向かって火球を撃つ。俺もそれに合わせて同じく火球を放ち、扉を完全に吹っ飛ばす。それからターナが前に出て詠唱。


「聖なる光よ我らを守護したまえ! プロテクション!」


 ターナが前に突き出したナイフを中心として、光の壁が通路いっぱいに広がる。今の俺達の攻撃で、敵も火球や風の刃や弓による攻撃をこちらに放ってきたが、この壁により全て弾かれた。

 ターナは壁を広げたまま走る。その後に俺達はついていく。


「部屋に入ったら散開。魔法使いの排除と魔法陣の破壊を優先しろ!」


 レガルテの指示に俺達は肯定の返事を返す。敵が反撃してくる以上、生かして無力化しろとは言ってこなかった。

 たとえ、その魔法使いが何者であってもだ。


 扉の位置を超えて、俺達は一斉に部屋に踏み込む。ユーリは狼化して、フィアナは手近にいる人影に矢を放つ。その矢は敵の魔法使いのプロテクション魔法に弾かれてしまったが。


 俺とリゼもターナの壁の庇護から外れた場所に移りつつも状況を見渡す。


 確かにそこで儀式の最中だったのだろう。床一面に見覚えのある魔法陣が書かれていて、それは青白く光っていた。魔法陣のなかの六つの円にはそれぞれ人が立っていた。

 その他にも部屋の中には数人の人間がいた。外敵の襲撃に備えての戦力だろう。弓を構えている女や剣を抜いている男。それから。


「ファイヤーボール!」

「っ!? プロテクション!」


 知った顔の魔法使いが、ミーナ・チェバルという少女がそこにいた。杖を持ってこちらに狙いを定めて火球を放つ。

 俺は咄嗟に、さっきターナが使った魔法を真似して光る壁を作り出しそれを防御。


 やはりミーナはここにいたか。儀式をしている六人には含まれていないが、この事件の実行犯のひとりであることは間違いない。


 それから、ミーナの隣にもうひとり女性がいた。


 エミナルカ・オリムエナ。商人の女だ。

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