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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第6章 ファンタジー・オブ・ザ・デッド
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6-29 いざ屋敷へ

 これは間違いなくあの資料室にあったやつだ。他にリゼがそれっぽい物を目にしたことはないはず。


「お前、いつの間にこれを……いや、なんとなくわかる」


 これを本棚から見つけた直後、リゼは眠さに耐えかねて本棚にもたれかかるようにして眠った。その際に本が何冊か床に落ちて、リゼに拾わせたんだ。それを全部棚に戻すと見せかけて、この一冊だけローブの袖に入れた。

 こいつの器用さを考えたら、それくらいは簡単にできるだろう。


「盗んだんだな?」

「ぬ、盗みじゃないよ!? えっと、持ち出しただけです! うん。無断で持ち出しました」

「それを盗んだって言うんだよ!」

「だって! 何かの役に立つって思ったんだもん! ほら、ここに隠し通路があればそこで儀式してる可能性が高い!」

「うるさい! 屁理屈叩くのはこの口かこの口かこの口かー!」

「にひゃー! いはい! いはいからひゃめてー!」


 言い訳を重ねるリゼの頬を、つまんで思いっきり引っ張る。まったくこいつは。なんで盗めるものがあれば盗むって発想になるんだ!



「ターナ。この図面を見て隠し通路があればわかりそうか?」

「ちょっと待ってくれよ…………確かにこの図面、隠し通路まで描かれてるね。この抜け道は知ってる。でも塞いだ。あとは…………これは……」

「なにか見つけたか?」

「ここを読んでくれよ。この扉、近隣の空き家まで繋がってるって書いてある。その空き家には見覚えがある。たぶん、屋敷の裏手から通りを二本挟んだ所にあるやつだろう。なぜかずっと買い手がついてなかったらしい」

「ほらー! ターナさんも隠し通路見つけてくれたじゃんにぎゃー!? わかった! わかったから叩かないでごめんなさーい!」

 リゼの頭に登って、お仕置きの連続ぬいぐるみパンチをお見舞いする。ぬいぐるみの体でポカポカ叩くだけだから、そんなに痛くはないだろうに。


 それはそうと、ターナは本当に隠し通路を見つけてしまったらしい。もちろん隠し通路があるからって、奴らがそこにいるとは限らないが。とはいえ隠れて儀式をするなら適してる場所ではある。


 ゾンビ復活騒ぎを起こしている犯人どもが何かのきっかけでこれを見つけて、使えると判断したのだろうか。誰が見つけたかといえば、資料室でまさにこの本を見ている可能性が高いミーナしか思いつかないが。

 一瞬、また重い囲気が部屋に訪れる。


「みなさん! そろそろ戦ってもらわないと、建物の中にリビングデッドが!」

 窓からゾンビを射抜いているフィアナがこっちに声をかけてきた。そうだった。嫌な可能性を考えて戸惑っている場合ではない。



 外はなかなか切迫した状況のようだ。

 ゾンビ達は生きた人間を襲うよう命令されているらしい。屋外にいた人間をあらかた殺し終えた後は、光に釣られて建物内に入り込もうとしている。当然この宿も例外ではない。


 となれば、ここ以外の建物にもゾンビは入ろうとしてるんだよな。それはかなりまずい事態かもしれない。

 俺達は戦えるからいいけれど、ここの市民にはその力がない人間の方がずっと多い。市民を助けるためにはやはり、ゾンビを動かしている元である儀式の場を叩くしかない。

 チェバルの屋敷で、本当に儀式をしているのか確証はないが可能性はある。というわけで目的地は決まったな。


「よし! じゃあ行くか。おいリゼ、なにぼーっとしてるんだ行くぞ?」

「うー……コータのバカー!」


 ぬいぐるみパンチをやめて、定位置であるリゼの肩に戻る。むくれているようだがお前が悪い。リゼもそれはわかっているのか、渋々ながら立ち上がる。フィアナとレガルテとターナも一緒に部屋から出て、急いで階段を下った。


 カイとユーリは宿の入り口付近でバリケードを作るよう、客や従業員に指示を出していた。とりあえずこれで、儀式の場を叩くまでは建物にゾンビが入らなければいいな。


「城の兵士や騎士や保安部隊はもう動いている。さっき外で兵士が戦っているのを見た。ギルドの冒険者も、いい奴は協力してくれてるはず」


 そこら辺は、今まで起こった有事の時と同じだな。怪物が暴れれば、戦える奴は市民を守るために協力してくれる。とりあえずゾンビ達の相手は彼らにまかせて良いだろう。


 カイにチェバルの屋敷に向かうと伝える。その道すがらで邪魔なゾンビを殺していって、屋敷の地下で何者かリビングデッド召喚の儀式を行っていればこれを叩くという方針。カイはもちろん了承してくれた。


 では、戦いを始めようか。



 バリケードの隙間から外に出て、即座に詠唱。ファイヤーアローが目につくゾンビに次々に刺さっていく。とはいえ頭を貫かないと完全に無力化できない。

腕が吹っ飛ぼうが胴が両断されようが、奴らは動ける限りは動こうとする。仕留め損なったゾンビを今度こそ葬る。二度と復活できないように。


 そして狼化したユーリの上にまたがり、チェバルの屋敷へ。案の定全員は乗れないから、レガルテとターナは走りである。

 足並みを揃えるためユーリを全力で駆れないのは残念だけど、それほど遠い距離でもない。走ればすぐだ。その間にいるゾンビを、俺達はそれぞれの方法で容赦なく殺していった。


「ほらあれだ! あの小さな家と屋敷が繋がってるんだと思う!」


 その途中、ターナがひとつの空き家を指さして言った。その家は、大きな屋敷が並ぶこの一角においては妙に小さくてみすぼらしいものだった。


 土地が余っていたからとりあえず建てたが、すぐに住民は出ていきその後買い手はついていない。そんな物件らしい。

 それは、建物の正体を隠すカバーストーリーなんだろう。そしてその実態は、魔法使いの名門がなにかに使えると思って残しておいた隠し通路。


「見覚えがあるな。昼間エミナルカさんがこの前に荷馬車をいくつも停めていた……ほらあれだ」


 カイが、空き家から少し離れた場所に荷馬車が大量に停めてあるのを指さした。ゾンビが暴れているのにやられたのか、その多くは横転している。これを引くはずの馬も、その殆どがゾンビにやられて死んでいた。


 商人達は無事だろうか。逃げてくれていればいいんだけど。ゾンビに殺されるなんて死に方はごめんだな。

 俺のいた世界と違ってこのゾンビは魔法で死体が動いてるだけだから、こいつに殺されたら自分もゾンビになるってことはないのが救いだけど。


「ねえ。あれ変じゃないかい?」


 ターナが横転した荷馬車を指差す。荷台が布で覆われているタイプだから中身は見えなかったが、よく見ると荷台の中からゾンビが次々に這い出てきているのがわかった。


 中に、なにかしらゾンビの獲物があったということだろうか。それとも。


「あの荷台に、最初からリビングデッドが入っていた?」


 ターナが、自信がなさそうな口調でつぶやいた。

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