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転移使い魔の俺と無能魔女見習いの異世界探検記  作者: そら・そらら
第6章 ファンタジー・オブ・ザ・デッド
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6-26 儀式のやり方

 学校が開く時間になり図書室を利用する生徒も出てくる時間になると、さすがにその場で調べものを続けるわけにはいかなくなった。というわけで場所を移動した。


 寮のミーナの部屋にだ。ここから近くて人目につかない場所ということで、ここを思いついた。

 やはりこの部屋の主はここには帰っていなかった。逃亡生活をする準備をしていたようにも、見えなかったけど。


 その部屋でも、くかーと寝息を立てて気持ち良さそうな寝顔ですやすや眠るリゼに釣られて、思わず俺も眠ってしまっていたようだ。そもそも徹夜でいろいろあったわけで疲れていたもんな。寝てしまうのは仕方ないと思いたい。


 その間もレガルテは資料の読み解きを続けていたらしい。それから、いつの間にか戻ってきたターナも。


 そして資料から大事なことはあらかた判明したのか、それとも疲れ切ってしまったか。それとも……不都合な事実を見つけたのかもしれない。

 俺が目覚めた時には、ふたりはベッドの上で抱き合うようにして眠っていた。


 ターナの目には涙の跡が見えた。泣いていたんだろう。



「お腹すいたねー。なにかご飯用意しよっか」


 リゼのその言葉は自分の空腹を満たすためだけではなくて、ターナとレガルテのことも考えてのことのようだった。こいつなりに気を遣ってるのだと思う。



 もう昼過ぎだ。そういえば、葬式の監視をしていたカイ達は大丈夫かな。危機に陥るってことはないと思うけど、かと言って何も起こらなかったというのも無さそうだしな。



「ねえコータ。本当にミーナちゃんが犯人だと思う?」


 寮の廊下を歩きながら、リゼがふと尋ねてきた。ターナの妹がこれだけの事件を起こしているとは、リゼも信じたくないのだろう。俺だってそれは同じだ。ターナが悲しむのは見たくない。

 とはいえ状況的にはそうだと言うしかない。


「昨日の晩にミーナが図書室で、なにかしてたのは事実だからな。俺達も見たし」

「それなんだけどさ。誰かに言われてあの資料を持ち出そうとしたってことはないかな?」

「誰かって誰だよ?」

「え? えっと……悪い人」

「漠然としすぎだな」

「うー。わかんないんだから仕方ないじゃん!」


 だが言いたいことはわかる。

 誰か黒幕が他にいて、ミーナはその手先に過ぎないと。学校の資料室の資料を閲覧、持ち出しするのに生徒であるミーナが一番適任だから、指示を出してそう動かしている。

 黒幕が何者なのかはわからないけど、新しい体制を揺るがせたい人間の誰かなんだろう。その条件に該当する人間は、その数が多すぎるのが問題だが。


 ミーナの単独犯でないとすれば、ミーナ個人の罪は軽くなるだろう。まだ子供ということを加味してもらえるかもしれない。


 単独犯ではないという根拠は一応存在する。ゾンビ復活の儀式の方法だ。巨大な魔法陣に六人の魔法使いが必要。

 そんな目立たない広大な場所をミーナ個人で用意できるかといえば、そうとは思えない。それにミーナの他にも、あと五人の魔法使いを連れてこなければならない。単独犯ではないと考えた方が自然だろう。




「結論から言えば、今回のリビングデッド騒ぎはミーナひとりで実行可能だ」


 そんな俺達の希望的観測は、あっさりと否定された。


 学校の食堂で食事を買ってきて、ミーナの部屋に戻る。レガルテとターナは既に起きていて、今後のことを話し合っていた。そして俺達が戻ってくると、資料から読み解けたことについて話してくれた。


「死者を蘇らせる秘術だが、千年前の初代チェバルの当主の頃には形になりつつあった。そしてアーゼスの前での、魔法対決の際に行おうとしていたらしい」


 古い記録だし、これもどこか昔の時点でチェバルに都合のいいように書き換えられている可能性もあるが。そう付け加えながら、レガルテは説明した。



 アーゼスの前での魔法対決の時は、当然ながらチェバルの魔法使いというのはひとりしか存在しない。つまりチェバル家の始祖である。

 そして彼はゾンビ復活の魔法を使おうとした。つまり、あの魔法はひとりでも実行可能だということ。



「復活させるリビングデッドの数や、魔法の及ぶ範囲によって規模を変えることができる。つまり近くにいる死体を一体だけ復活させるなら、小さな魔法陣と魔法使いがひとりで可能だ。あとは魔法石も六つ必要だが」

「魔法石?」

「中に魔力を込めることができる石だよ、コータ。それで魔法道具とかの中に入れておけば、出したいときに石から魔力を出すことができる。そして道具を動かせる。……アーゼスの水晶も、あれは中に魔法石が入ってるんだと思う。印章の方も似たような仕組みで動いてるんじゃないかな」


 つまり、魔力を出力する装置。電池みたいなものかな。あの水晶玉みたいな、魔力によって不思議な動きをする道具を魔法道具と言って魔法石で動くようになっていると。なんとなくわかった。


「とはいえ珍しい鉱石だから、あんまり出回ってないけどね。すごく高いし。使う人間も魔法使いだけだし」


 なるほど高価なもの。一般市民には手が届かない物な上、使う必要もないから縁のないアイテムか。


「だが魔法使いの名門ともなればいくつかは持っていてもおかしくはない。うちにもあった」


 名門サキナックの家の者だったレガルテにとっては、珍しいものではなかったのだろう。

 つまり、ミーナにとっても同様なのかも。


 儀式には魔法石が六つ必要。逆に言えば、どうにかして手に入れればそれでゾンビは呼び出せる。

 買ってもいいし、盗むことも不可能ではないかもしれない。持っている魔法道具の中から取り出して回収してもいい。

 この学校には魔法使いの教育もしているのだから、魔法道具もたくさんあるだろう。


 ほかにも、資料を読んでわかったことを教えてもらう。


 儀式の前に死体を用意しなければならない。正確には、死体に魔法陣の描かれた紙を仕込む必要がある。これは小さなもので構わない。


 チェバルは死んだ人間の遺体が長期的に保存されるように、防腐処理をしていたらしい。ミイラのように乾燥させるという工程もそこには含まれる。

 ゾンビとして復活する際に魔力を注ぐのと同時に、ミイラ化した死体には水分を供給して復元させるという効果もあの魔法陣には付与されていた。これは始祖の時代にはない、千年の間に改良された仕組みだ。


 そして小さな魔法陣を描いて、中で魔法使いが立つ位置に代わりの魔法石をそれぞれ置く。魔法使いから魔力を供給する代わりに、魔法石を使うという考えだ。それから詠唱。

 すると近くにある紙に描かれた魔法陣と、儀式の魔法陣が繋がる。紙に描かれた魔法陣から死体に魔力が注がれて、リビングデッドとして立ち上がる。


 街ひとつ覆うレベルの死体を蘇らせるとなれば、巨大な魔法陣に魔法使い六人が必要だ。しかし今回の復活騒動ではゾンビは一体ずつしか出てきていない。


 単独犯によるものと考えるのが自然だろう。そしてやはり、ミーナがそれを起こしていると誰もがそう思うはずである。

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